【環境省にききました】日本は今、どこへ向かっているのですか?

Organic Lifestyle Ecology Special Interview
2019.05.02

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人類も地球のエコシステムの一部

Text & Photo : Spring Step

 

SpringStep : 環境省 総合環境政策統括官の中井さんにずばりお聞きします。環境問題において、日本は今どこへ向かっていますか?

 

中井 徳太郎さん(以下中井さん) : 日本だけでなく世界中で今、このままでは人類社会が成り立たなくなるとして、環境への危機感がとても高まっています。それを表しているのが、持続可能な開発目標(SDGs)※という、2015年の9月に国連で採択された国際目標で、2030年に向けて17項のゴールが定められています。同じく、2015年12月には、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が採択されました。

 

産業革命以降、全地球の平均気温は1度上昇していて、このままでは3度~4度上昇することが予想されています。1度温暖化した状態で、今すでに異常気象が多発していますよね。ここでどうにか食い止めないといけません。平均気温の上昇をあと1度で抑えようというのがパリ協定の「2度目標」です。ただ、2度上昇してしまうと、海面がさらに上昇し、インド洋や太平洋の島が沈んでしまうため、本当は1.5度に抑えたいところなんです。

 

地球のエコシステムというのは本来、海面や森が二酸化炭素を吸収してくれることで成り立っていますよね。でも、人類は海面や森が吸収できる以上の量の二酸化炭素を作り出しています。地下資源を掘り出して、エネルギー化して燃やし、大量生産、大量消費、大量廃棄を繰り返しながら都市文明を築いてきたから今のような状態になっています。21世紀の後半までに地球のエコシステムで吸収できる量まで二酸化炭素の排出量を落としてやっと2度目標が達成できる状態なんです。

日本では、長期的目標として2050年までに80%の二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出、削減を目指しています。つまりあと30年で、経済や社会の仕組み、ライフスタイルを変えて80%の削減を実現しないといけなんです。

 

SpringStep : 80%というのはすごい目標ですよね?

 

中井さん : そうなんです。それくらい大きな変化を意味しているという、まずその重みを味わおうという意味も込められているんです。日本でもSDGsが流行して、意識が高まっていることは良いことなのですが、単に1つ1つのゴールを達成することが本来の目的ではないんです。経済や社会を変えて、今のダメな状況から移行することが目的。だから、SDGsの主題は「transform our world」となっています。

 

SDGsの17のゴールには、飢餓・貧困、気候変動、など様々ありますが、すべての調和がとれた絵というのは実はだれも描くことができていなんです。大量生産、大量消費、大量廃棄がいけないということはわかっているのですが、環境、経済、社会すべてが上手く回っている絵が描かれていたものはありませんでした。

そこで今回、日本発で構想を出しました。それが、「地域循環共生圏」であり、環境・生命文明社会です。

 

この危機的な状況の中で、私たちはどうしたら経済社会の仕組みを変えることができるのかを考えました。私たち人間は、地球のエコシステムの1部であり、息をして、水を飲み、食べ物を食べて、エネルギーを使って生きています。地球の地下資源を掘り出して使うという行為は、資本を棄損していることになります。

金融の言葉に置き換えると、地球資源が元本で、資源が生んでくれるものが、利息、利回り、配当です。利息や利回り、配当を目指して元本を投資しても、元本が割れしてしまったら利息は出ないですよね。

産業革命以降、私たちは元本である地球資源を棄損してきましたが、地球の資本を壊してしまったらだめなんです。地球の恵みを永続的に回して、元本が生んでくれる、利息、利回り、配当で生きる世界に戻さなければいけません。森里川海の自然の生態系が、空気を作り、食べ物や水を供給してくれているんです。

 

何も縄文時代に戻れといっているわけではないです。今はスマフォやIT、AIといった人類の叡知があるので、それをうまく使って循環共生圏のシステムを社会、経済に落とし込むという考え方です。それが、SDGsとパリ協定を日本が咀嚼して考えた、日本発の構想「地域循環共生圏」です。

循環共生のシステムを作ることによって結果的に二酸化炭素も減ります。みんなで我慢しながら80%削減を目指すのではなく、システムとして構築して、人の幸せや快適、元気、美味しいが全て入っている世界を作るのが今の私たちの課題です。

 

※2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。

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キーポイントは自立、分散、地産地消

中井さん : 地域や人にはポテンシャルがあるという発想の転換が必要だと思います。これまでは、農村部の人が都会に働きに出てくると、集まった人たちのために、住む場所、食べ物、エネルギーが必要になるため、山を壊してビルを建てたり、エネルギーは中東の地下資源を船で持ってきて燃やしてきました。都市化も悪いことではないですし、ここまで作ってしまったものはもう仕方がありません。それに、最近では大手町に森が増えていたり、都内の企業の中には、ビル1棟分のエネルギーを自給していたり、屋上や壁の緑化を行う動きが見られたりしています。

でも、都市はやはり集中しすぎているので、エネルギーはどうしても不足してしまいます。そうなると、地方の豊かな自然系でエネルギーを作って、都市へ持ってくるという循環を作ることが必要になります。

一方で、都会の疲れている人たちに、森林浴や川遊びを通じて、本物の自然の息吹を感じてもらうなど、人とお金を地方に戻す。交流人口のように、自然な形で都市空間と地方をバランスよく成り立たせるという構想が「地域循環共生圏」なんです。

そして、すべてを落とし込んだものがこれです。最終的には曼荼羅のようになってしまいました。

 

 

地域で生きていくためのエレメントであるエネルギーは、自立分散型で再生エネルギーを使います。今までは生産した電気を貯めることが難しかったのですが、これからは蓄電機能も発達してきているので、ビルや家で個々に電気を作り、それを貯めることができるようになります。電気の管理もITを使えば可能なため、作った電気を地域に導入する施策はこれから現実的に行っていく話です。

 

インフラが老朽しているところへの対応も大きな課題なので、国交省や農水省と一緒に取り組んでいく必要があります。また、最近では高齢者による自動車の運転が問題になっていますが、AIや自動運転もどんどん出てくるので、例えば、グリーンスローモビリティといった電気のゴルフカートを利用して地域の足を確保するといったことも可能になります。

少子高齢化の地域に自立分散型のエネルギーを移行して利用するといったように、全てがつながっています。つながっているという発想が「地域循環共生圏」には大事なことなんです。

 

そして、一番大切なことは、個人の衣食住がオーガニックかつ健康であること。食べ物はもちろん、「住」で言えば、その土地の木材をうまく利用したオーガニックな住宅や、「衣」に関しては、これからさらにオーガニックなものが広まっていくと思います。地域の潜在力を引き出し、ライフスタイルとしてやっていくことで、全てがビジネスになります。

従来は、国や行政の施策は補助金で行われてきましたが、そうではなく、地域のビジネスとして永続的に回すため、地域の金融機関や行政を上手く巻き込みながら、地場に根付いている企業やNPOがプレイやーになるなど、コラボレーションを行うことがとても重要なんです。

 

人間には60兆個ほどの細胞があり、細胞1つ1つが生きていて、それが寄り集まって毛細血管でつながることで筋肉として機能したり、身体や臓器が作られていますよね。地域も同じです。ポイントはネットワークでつながった細胞が、放っておいても自分で生きていけるということ。

場所はどこでもいいんです、福島でも、九州でも、それこそタイでも。全体の循環系の発想に気がついた人たちで、曼荼羅の絵を描いてほしい。その後押しは、地域循環共生圏のプラットフォーム事業として環境省が行っていきます。

 

SpringStep : 例えば、地域のポテンシャルを生かして、イノベーションを起こしたいと思ってはいるけれど、お金と技術がないという場合は、技術者の派遣や、ファイナンスの相談などのサポートを環境省がしてくれるということですか?

 

中井さん : そうです。みんながボトムアップで連携できるような、プラットフォームを作ろうとしています。例えば、オーガニック農家がレストランを展開したいという話になったときに、そこに観光もつなげよう、というように点になっている取り組みを面で展開できるようサポートしていきます。

 

SpringStep : 確かに、いくら良いアイデアを持っていても、銀行にサスティナブル的な視点の長期的な将来を見たプロジェクトには賛同してもらうのは難しそうですよね。そこに環境省のバックアップがあれば、可能に近づきますね。

 

中井さん : 少しずつ良い事例が集まっているので、その情報も出していきながら、色々な人がつながれるようにしたいと思っています。あくまでもボトムアップ型で、細胞の末端から血が巡るような世界をみんなで作っていくのが目的です。

 

実は、「地域循環共生圏」の発想の前から、森里川海の恵みを将来にわたって享受し、安全で豊かな国づくりを行うための基本的な考え方をまとめた、「つなげよう、森里川海」のプロジェクトを行ってきました。「地域循環共生圏」が実現できれば、二酸化炭素は減るし、地域の課題も解決できて永続的にみんなが幸せに生きていくことができるのですが、そのことに気がつく運動として、改めて「つなげよう、森里川海」のプロジェクトが大事であると感じ、プロジェクトの意図をさらに明確にして、フェスやシンポジウムを行っています。そこで「地域循環共生圏」を作るベースのコミュニティづくりをしたいと思ってます。

 

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健康な人間が地域と地球を元気にする

 

中井さん : 最近では、SDGsのためにできることを考え始めている企業が増えていますが、その前に企業の従業員が心身ともに健康でいないと本末転倒ですし、自然の恵みで自分も健康になるというSDGsの考え方にも反していると思うんです。

従業員が自然と触れ合う機会や、オーガニックな食品を食べる機会を企業が率先して設けるべきだと私は思っています。従業員がリフレッシュできれば、仕事のパフォーマンスがあがり、企業の業績は必ず上がります。従業員(細胞の末端)まで元気になることで、企業(全身)が健康になるという理解は、これから深まっていくと思っています。

生活者であり、健康なライフスタイルを選択する個人というのは、実は企業の社員であり、生産活動に関わっている人であったりするので、企業の中からアプローチすれば世の中は変わると思っています。

 

SpringStep : 私自身は普段から呼吸や食事、セルフマッサージを意識的に行っていますが、周りをみるときちんと呼吸ができていない人が多くて驚くことがあります。日本社会には苦しんでいる人が本当に多いなと感じます。

 

中井さん : 従業員がまず元気にならないといけない、ということに企業や自治体が気がついて、教育を行っていくことが大事なんです。そういった企業の価値が上がっているのも事実です。温室効果ガス80%削減はすごく大変な目標ですが、私は実現できると思っています。

 

SpringStep : 実は、日本だけでなく世界の女性の意識が今少しずつ変わっているというデータが出ているんです。みんな良い意味で自分中心的になっていて、“自分が心地良い”ということがすべてのベースになっています。自分が心地良いから体に良いものを取り入れよう、自分が心地良いから体を動かそうといった具合に。自分のバランスが取れていると人に親切になれるし、人にやさしい社会が生まれると思うんです。

 

中井さん : 循環共生と同じ考え方ですね。日々の暮らしや会社の活動、社会のシステムがうまくバランスよく回っているかという視点が大事なんです。プラスチックの問題がまさにそうです。人間が捨てたプラスチックを魚が食べて、また人間に戻ってくる。この問題は今企業が一生懸命取り組んでいますよね。

 

SpringStep : 国や企業という大きな規模で取り組むと結果が期待できますし、みんなで動いた答えが明確になったという実績が一つでもできれば、次のプロジェクトに踏み出しやすくなりますよね。

 

中井さん : そうなんです。例えば、東京オリンピックで使用する金、銀、銅のメダルは、スマフォやパソコンなどの電子機器から集めた資源をリサイクルして作るのですが、3月末ですでに必要量を集めることができました。

 

SpringStep : 一度壊してしまったものは仕方がない、現状の中で循環系をきちんと作って再利用しよう、という考え方はすごくアジア的ですよね。だからこその曼荼羅なんですね。

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今日から私たちが始められることは何ですか?

SpringStep : 良いことをしたいと考えている人は世の中にたくさんいると思うんです。そんな人たちが今日から始められることはなんですか?

 

中井さん : 森里川海プロジェクトに参加して「MY行動宣言」を実施してみてください。MY行動宣言にコミットした自分を毎日確認していく、そうすれば、自然と食べるものにも気をつけるし、道にある草花にも関心を持てるようになると思うんです。

私の場合は、水が味方だと思っているので、顔を洗う時やうがいをするときは水の神様のことを考え、夏は群馬県の山の中で滝を浴びて、その感覚を普段シャワーを浴びるときに思い出したり、水とうまく付きあって地球と合体する感覚を持つようにしています。

 

 

SpringStep : なぜ水なんですか?

 

中井さん : 小さいころ川でよく遊んでいたからです。私は、小さい頃の自然体験は必須だと思っています。

社会人になると思い通りにいかないことがたくさんありますよね? ゲームは失敗したらリセットすればやり直せますが、川の中で石につまづきながら沢登りをしたり、森でハチに刺されそうになりながらうまく逃げたり、多少の怪我をしながら脳で覚えるより肌の細胞で様々な経験をしておかないと、社会人になって瞬発力が出ないんです。

 

SpringStep : 私も今タイの家ではほぼ1日中裸足で生活しているのですが、足の裏の感覚がとても鋭くなりました。

 

中井さん : 体にまつわる感覚を鋭くするには本物の自然に触れるしかないんです。都会でも歩くことはできるのでぜひやってみてください。

 

SpringStep : 森里川海プロジェクトではその他にどのような運動をされていますか?

 

中井さん : 他には小学生に向けて地元の自然や川に目を向けてもらえるように、ふるさと絵本の制作を行っています。地域の各世代の方々を訪ねて、森里川海を「聞き書き」し、森里川海と豊かに暮らす知恵・技術・文化を振り返ります。第一弾として、「ありがとう、あらかわ」が製作されました。

 

 

SpringStep : 環境省でこんなに未来が明るくなるようなプロジェクトが行われていることを聞けてとても嬉しくなりました!

 

PROFILE

中井 徳太郎 Tokutaro Nakai / 環境省 総合環境政策統括官

東京大学法学部卒業。大蔵省入省後、主計局主査などを経て、富山県庁へ出向。日本海学の確立・普及に携わる。その後、財務省理財局計画官、財務省主計局主計官(農林水産省担当)などを経て、東日本大震災後の2011年7月の異動で環境省に。総合環境政策局総務課長、大臣官房会計課長、大臣官房秘書課長、大臣官房審議官、廃棄物・リサイクル対策部長を経て、2017年7月より現職。

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