【自然エネルギーの会社を立ち上げた起業家にききました】ソーラーパネルや風車が増えると、何が変わるんですか?

Lifestyle Green Tech Ecology Special Interview
2019.05.16

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自然エネルギーが注目される理由

Text / Hiromi Tani  Photo / Spring Step

 

Spring Step : 磯野さんが立ち上げられた「自然電力株式会社」は既存の大手電力会社ではない民間の企業ですが、自然エネルギー由来の電力をこちらから買うことができると知って驚きました。

自然電力が提供する自然エネルギー由来の電気は「自然電力のでんき」の公式サイトで、料金シミュレーションや申し込みが簡単に出来るんですよね?

2011年6月に3名でスタートして以降、現在は「自然電力グループ」として全国に70カ所以上の発電所を建設しているということですが、「自然電力グループ」では実際に何を行っているんですか? 

 

磯野 謙さん(以下 磯野さん) : 自然エネルギーを電力に変えるインフラ整備から販売までを担っています。具体的には、自然エネルギーで発電可能な場所を見つけて発電所を建設し、完成した発電所を運営して、そこで得られた電力を供給するわけです。

 

Spring Step : 発電所に適した場所を探し、電力を各家庭に届けるところまですべてなんですね。そもそも、自然エネルギーとは何を指すのでしょう。

 

磯野さん : 太陽光と熱,水力,風力,地熱など、発電に使うことができる自然由来のエネルギーのことをいいます。これらは再生可能エネルギーとも呼ばれ、石油や石炭、天然ガスといった有限の化石エネルギーとは違い、枯渇することなく、CO2を排出しないため、その有用性が世界中で注目されています。2016年に実施された電力小売りの完全自由化により、「自然電力グループ」でもこれらの自然エネルギーを活用して、電気をつくるだけでなく、つくった電気を供給するサービスを行えるようになったわけです。

 

Spring Step : 発電所をつくるというのはとても大がかりな事業だと思いますが、どこでもつくれるものなんですか?

 

磯野さん : 地形や環境の特性により、水流があるところには水力発電機、風を受けやすいところには風力発電機、つまり風車を設置できる可能性があります。また太陽光が安定して得られ、ソーラーパネルを設置できるところであれば、太陽光発電所を建設することができます。輸入に頼ることのない自然エネルギーは、さまざまな場所や地域に開発のチャンスがあるんです。

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自分たちの未来だから、自分たちでつくりたい

写真提供 自然電力/唐津市

 

Spring Step : 「自然電力」は、磯野さんと同じく代表取締役の長谷川雅也さん、川戸健司さんの3人で立ち上げられたということですが、なぜ自然エネルギーの事業をやろうと思ったのですか?

 

磯野さん : 「自然電力」の設立は、東日本大震災の3カ月後なんです。地震と津波による福島第一原子力発電所の事故で、エネルギー資源と供給の問題がクローズアップされる中、このエネルギーの問題をいったい誰が、最終的に解決するんだろうと真剣に考えていました。

 

Spring Step : ファイナルアンサーをどこが出すのかということですね。

 

磯野さん : 僕は、トラブルの責任を第三者に転嫁しないことを信条にしているんです。二次災害は電力会社が悪いとか、余震が続いたからだとか、結果を見て文句を言ったり揚げ足を取ることはいくらでもできます。でも皆が口を揃えてそれを言っていても何の解決にもならないし、どこへも到達しません。この世界の未来の中に自分たちの人生がある。それならば、自分たちでやれることをやろう、と決意を固めたんです。そのとき30歳だった僕は、「あと50年は生きるだろう、その50年後に文句を言いながら死んでいくのは嫌だ」と心底思ったんですね。

 

Spring Step : 東日本大震災が起こったのは2011年3月ですね。当時は風力発電の会社にいらしたそうですが、そのころすでに自然や地球環境問題に関心がおありだったのですね。

 

磯野さん : 僕は幼少から長く、カリフォルニアの太平洋に面した家で育ち、自然が常に身近にある生活でした。学生時代に世界中を旅したとき、地球上に環境や人口、貧困などさまざまな問題があることを目の当たりにして、環境問題に携わりたいと漠然と考えていたんです。卒業して人材関連の企業に入社しましたが早々に辞め、屋久島に移ってペンションを経営するなど、自然環境の大切さを伝えることができる仕事を始めました。それは一般の人々に環境問題への関心をもってもらうきっかけとして意味のあることでしたが、それだけでは人類が直面している問題は解決しないと気づき、もっとダイレクトなアプローチが必要だと思うようになったんです。

 

Spring Step : 人と地球が抱えている問題そのものに向き合うということですね。

 

磯野さん : そうです。意識やシステムを根底から変える必要がある、新しいスキームのもとに新たな時代を築かねばならない、と強く感じました。エネルギーや食糧、ゴミに関する課題に取り組みたいと考え、縁があった風力発電事業の会社に参画することにしました。「自然電力」の立ち上げメンバーである我々3人はここで出会ったんです。

 

Spring Step : 先進国の中で、日本は自然エネルギーへの取り組みが遅れていると聞いたことがあります。

 

磯野さん : 日本は昔から台風や地震といった自然災害も多いですし、安定供給という意味で自然エネルギーが疑問視されていたのも事実です。それでも当時、一般事業者が生産した自然エネルギーを固定価格で買い取るという法制度が2012年施行に向けて始動していたので、それまでにできるだけその価値を高め、可能性の幅を広げようと思っていました。その途中で震災が起こり、志を同じくして一緒に働いていた仲間と、今すぐ行動しようという決断に至ったわけです。

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壁を乗り越えてこそ生まれる結果

Photo : mabe80 Shutter stock

 

Spring Step : 2011年に設立された会社は今、その活動内容がメディアに取り上げられることも多く、広がりを見せていますね。

 

磯野さん : 2013年に、自然エネルギーを扱う企業の中でも世界でトップカンパニーであるドイツのjuwi(ユーイ)株式会社と(以下「juwi」)と提携し、発電所の建設や運営の基盤が整いました。その技術と知見をベースに、我々がもっていた日本各地の自然エネルギー事情や地域の情報を踏まえ、さまざまなプロジェクトが始動しました。我々が電力事業者としてすべて一から立ち上げるだけでなく、土地の活用の一環としての発電所建設を推進したり、すでに構想をもつ地域や人に働きかけて、それをサポートすることで、効率的かつウィンウィンの関係で、実現に向けて各地で活動しています。

 

Spring Step : どれくらいの規模で事業を展開されているんですか。

 

磯野さん : 立ち上げて7年で、目標だった「原子炉一基分」のプロジェクトに携わるところまで来ました。数字でいうと1000MW(メガワット)、人口約160万人で約40万世帯の消費電力を賄う数字です。主流の太陽光発電では、2018年6月時点で全国に70ほどの拠点ができ、開発だけでも約700MWに携わることができました。

 

Spring Step : すごい! 着実に人々の手元に届く自然エネルギーが増えていっているんですね。「自然電力グループ」のほかにも、自然エネルギーを電力に変えたり、販売している会社はあるのですよね。

 

磯野さん : 発電所をつくる会社や、電力を販売する会社は僕らのほかにもたくさんあります。けれどつくってから売るところまでをすべてやっている組織はあまりないかもしれないですね。企業としての利益を考えたら、どちらかに注力した方がいいに決まっているからです。しかし僕は、このフローをすべてやることに意味があると考えています。自分たちが手がけたものを消費者に届けることで、責任が生まれ、よりよい確かなものをつくろうという原点に立ち返れますから。

 

Spring Step : 事業を進めていく上で壁に突き当たることもあるのでしょうか。

 

磯野さん : 突き当たってばかりですよ、スムースに進む方が稀(笑)。僕たちが立てる計画は多くの場合、前例がないことですし、プロジェクトの規模が大きいほど、地域住民の皆さんの反対も大きくなります。多くは、ソーラーパネルや風車といった発電設備が景観を損ねるといったこと。風力発電のプロジェクトでは騒音が焦点になったたこともあります。

 

Spring Step : そうした答えを出しにくい問題に対して、どのように対処するのですか。

 

磯野さん : トータルのプラスマイナスで見たときに、何が本当のマイナスなのかを考えれば答えは出ます。ですから時間をかけて、話し合いを繰り返すしかありません。なぜ今、このプロジェクトが必要なのかを根底から理解していただくこと、そこが一番肝心なプロセスであるといえます。お一人おひとりに当事者意識、参加意識をもっていただくんです。そうして進めたプロジェクト、たとえば、アートも絡めた佐賀県唐津市の風力発電事業や長野県小布施町の小水力発電計画などは、結果的に地元から賛同を得られ、ローカルが環境問題に取り組んだ成功例として、エネルギー業界でも注目を集めています。

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何が起こっているのか、人が何を考えているのか。「知る」ことが力になる

Photo : Spring Step 

 

Spring Step : 磯野さんは、地球と環境に対しての取り組みとして、エネルギーという分野に焦点を当てられました。そのように大きなことを誰もが手がけるのは難しいかもしれませんが、どなたにでも今日からできる小さなステップを教えていただけませんか。

 

磯野さん : そうですね、「知ること」、「知ろうとすること」。まずはこれを考えてみてはどうでしょうか。

 

Spring Step : なるほど、知ろうと努めることは確かに大事ですね。

 

磯野さん : 僕も、地球上で起きていることを知ってから、考えが大きく変わりました。まず、何が起こっているのか、そのことがやがて何を引き起こすのか。決して楽観視できない状況の惑星に我々は身を置いています。地球環境に大きな負荷がかかっている現状、気候変動は猛スピードで進み、数日後、数カ月後、数年後、さらに深刻になるのは目に見えています。そのことを知れば誰しも、何かしらのアクションに結びつくのではないでしょうか。

 

Spring Step : さまざまな情報が氾濫している今、正しい知識をどこから得るかも大事ですよね。

 

磯野さん : そうですね。SNSが台頭し、炎上といった事象が起こると同時に、情報源が細分化していますから、自分に関心のある事柄やいいと思っている人の意見など、受け取る情報に偏りが生まれます。意識的に情報を選ばないと、別の視点やセカンドオピニオンが入ってきづらい状況だと思います。そんな今こそ、自分のコミュニティを超えて違うフィールドの人や世代の人とコミュニケーションするなど、さまざまな考えに耳を傾けることが必要だと思います。異なる意見を重ね合わせることで、新しい価値観が生まれるかもしれません。今ほどダイバーシティが求められている世の中は、これまでになかったと思います。

 

Spring Step : いろんな視点でものを見る力を養うことが、より求められるわけですね。

 

磯野さん : その通りです。たとえば、我々が地域と共につくり上げた唐津の風力発電所は、実業家の遠山正道さんが手がけるアートプロジェクトThe Chain Museumとのコラボレーションを試みたりしています。風力発電所は、騒音を発し景観を害すといわれることもありますが、日常にアートを見出すというコンセプトと組み合わせて編集することで、「エネルギー施設」としてだけでなく、新しい価値が加わりました。エネルギー問題といっても、さまざまな角度からの発想と想像力を組み合わせることで、無限の可能性が広がると思っています。

 

Spring Step : なるほど! エネルギーを「知ろうとする」「知りたいと思う」きっかけもこういったところから生まれるのかもしれませんね。

 

PROFILE

磯野 謙さん Ken Isono /自然電力株式会社 代表取締役、自然電力ファーム株式会社 代表取締役

高校までを米カリフォルニア、NYで過ごす。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社リクルートにて広告営業を担当。屋久島での事業経営を経て、風力発電事業会社に転職。2011年6月自然電力株式会社を設立し、代表取締役に就任する。書籍『就活でどうしても会いたい起業家24人へのOB・OG訪本』(宣伝会議刊)にて9ページに渡り紹介される。

自然電力グループ https://www.shizenenergy.net

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