【PARISオリンピックの環境保全アナリストに聞きました。】そもそも「エコロジー」とは何ですか?

Organic Lifestyle Ecology Special Interview
2019.06.20

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エコロジーとはホリスティックなもの

Photo : Spring Step

Spring Step :  ジュリアンさんは、フランスのカーボンニュートラル*スペシャリストとして、パリ市のカーボンニュートラルプロジェクト「Paris, Changer l’ére! 」(パリ、時代のシフトチェンジ!)戦略室のコアメンバーでもあり、2024年に開催されるパリオリンピックの環境インフラ整備のためのアナリストとして参加していらっしゃるのですよね。

 

ジュリアン ドシエ(以下ジュリアン) : はい、そうなんです。他にも、サスティナブルなプロジェクトを推進したい企業へのコンサルティングや、グリーンプロジェクトへの投資家を増やすための投資会社へのコンサルティングなども行っていますし、パリのHEC経営大学院でも環境ビジネスについて教えています。

 

Spring Step : 今回「Renaissance écologique」(エコロジーのルネサンス)という初の書籍を出版されたということで、今フランスのラジオでも引っ張りだこですね。

 

ジュリアンさんにお聞きしたいのは、これから私たちが生活をしていく上で、環境を守るためにまず何をしたら良いのか、シンプルに教えていただきたいです。

 

ジュリアン : その質問の答えは、1つなのかな?(と言いながら、カバンからおもむろに横3メートルはある絵を取り出す。)

 

Image : Julien Dossier©

 

Spring Step : もちろん、1つではありませんよね。この絵はジュリアンさんが作られたものなんですか?

 

ジュリアン : そうです。これは僕が長い間温め続けてきたアイデアをアーティストに書いてもらったものです。この絵に近づいてみると、暮らしのディティールが見えてくるし、少し離れてみるともっと客観的に「社会」として成り立っていることが見えきますよね?

僕は、これを「エコロジーのルネサンス」と呼んでいます。僕の書籍のタイトルは、この絵からきたものなんです。

 

この絵の中には、24のワークサイトが描かれています。そしてその1つ1つがつながっているんです。だから、「エコ」という言葉を聞くとソーラーパネルやエオリアン(風力発電の風車)のような持続可能なエネルギーのことをイメージしますが、それだけが話題の中心ではないということをわかってもらえるでしょうか?もっと、もっと、ホリスティック(統合的)なんです。

 

Spring Step : なるほど、そうですね。

 

Image : Julien Dossier 

 

ジュリアン : そういった持続可能なエネルギーの生産や供給がエコロジーであると捉えている人もいれば、オーガニック栽培を増やすことやそれを消費することをエコロジーだと捉えている人もいる。でも「ライフ」ということをもう一度よく考えてみると、実は購入した野菜をどのように配達してもらうのか、これも1つですし、スーパーで買うのか、八百屋で買うのか、といったようにどのように購入、販売をするのかということさえ、エコロジーの主旨に関わってきます。

 

ちなみに僕は、きちんと作られたものは、売っている人の顔が見えた方がいいと思っています。そうすれば、オーガニックのラベル自体が必要なくなるんじゃないかと思うんですよ。なぜなら、「僕は、この人から購入すれば間違いない」という信頼関係を既に築きあげているんですから。この1つ1つの背後にあるものは、「目的の共有」なんです。つまり、誰もが「環境を守る社会を担っている」ということを知るということです。

 

だから僕は「自分には何ができるだろうか」と考える時、「皆と一緒に何ができるか」ということだと思っています。社会の中でたった一人で新しい行動を起こすことは簡単じゃない。なぜなら、もしも社会の流れがそれと正反対だったら、自分の行いが無駄なことのように思えてきてしまうからです。そうなると、モチベーションが下がってしまいますよね。だから、もっと効果的に行うためには、集団で行動を起こすことだと思っています。

 

 

この絵の中にある村の各家庭で車を所有しているとします。環境のために電気自動車に変えたいと思っていても、電気自動車は高価で村の住人にとっては大きな出費です。ならば、今使っていない車を売って、皆でカーシェアリングにしてみたらどうかというアイデアだってありますよね。

 

ここに10世帯が生活しているとすれば、15台は車があると思うんです。使用頻度の少ない5台の車を1台6,000ユーロ(約73万円:2019年5月現在)で売れたとしたら、5台で30,000ユーロ(約366万円:2019年5月現在)です。これを元手に、20台の荷台付き自転車を購入して、その残金を村民が使える電車の建設費用に充てることもできます。残った10台の車は、各家庭で常に使っているわけではないので、シェアカーとしての利用が可能です。必要な時には、車に荷台をつけてもっと多くの荷物を運べるようにすることも可能です。小さめの乗用車だったら、車の費用も排気ガスの排出量も最小限に抑えることができます。このように交通手段のオーガナイズの仕方を変えて、お金の回し方を変えたら、みんなが使える電車のインフラに投資をすることも可能になるわけです。

 

*カーボンニュートラル

企業の事業活動や国民の日常生活などから排出される温室効果ガス排出量に対し、大気と人間の削減活動により相殺してゼロであること。(フランス)

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明日のまちづくりは、新しいクリエイティビティーへの招待状

Photo : Julien Dossier

ジュリアン : オリンピックは、世界の人々が参加するゲームですよね。プレイする人だけではなくて、見ている人が参加して成り立っている。エコロジーも同じです。大切なことは「参加」をすることなんです。

 

この絵の中から、自分のポジションを探してみてください。修理工だったり、技術を教える人だったり、学校の先生だったり、ミュージシャンだったり、そのミュージシャンが奏でる音楽を聴く人だったり、製造業を営んでいたり、小売店だったり、家族だったり。僕らはこの絵の中の様々な登場人物になり得ます。また、人生にも様々なステージがありますよね。独身なのか、結婚するのか、もしくは子供が生まれてくるのを待っていたり。それによって街に住んでみたり、カントリーサイドに住んでみたり。僕が大事だと思うことは、その時どきのポジションを見つけること。そしてその可能性を広げることなんです。

 

 

街のエリアを見てもらえればわかるように、車がほとんど存在しませんよね。全ては至近距離。基本の日常生活には車は不要なんです。もちろん遠方に用事がある時には必要ですが。

そして、街の外にはオーガニック農場がある。その先には、自然が最大限に残されている。森は、一種の植林ではなく多様な木々が生い茂っている。

自分のあり方や暮らし方によって、また、自分の特技や人生のタイミングによって、それぞれ自分のミッションが違ってきます。ここで重要になってくることは、一緒に暮らすコミュニティーのメンバーを信頼することです。もしも僕が製造業をやっているとしたら、その街では次の製造の担い手に技術をきちんと教えているかどうかということ、そういう信頼関係です。

その信頼関係がなければ、「畑もやらなくてはいけないし、洋服も作らなくてはいけないし、修理もしなくてはいけない」。なんでも自分でやらなくてはならないと思ってしまいます。それではTo do list が長すぎて、何もできなくなりますよ! だからその街に暮らす人たちを信頼し、それぞれのタスクをスペシャリストにお任せすることが大切だと思っています。

 

Spring Ste : これは、ジュリアンさんの中で機能し得る社会のモデルということですね。

 

ジュリアン : そうです。そして、このイメージは実は何もないところから生まれたわけでないんです。14世紀のイタリア(シエナ)の画家、アンブロージョ・ロレンツェッティの描いた「善政の効果」というフレスコ画を知っていますか?14世紀に既に全ての本質が描かれています。このフレスコ画をヒントに、現代の暮らしに当てはめてアーティストとイラストに起こしたものが、この「エコロジーのルネサンス」なんです。

 

Photo : Acts Sud

Spring Step  : なるほど、いわゆる私たちのイメージする「昔の暮らし」という感じでしょうか?もちろん当時は電車ではなく馬車ですが。

 

ジュリアン : そうなんです。結婚式、教室、農場。僕らは、このフレスコ画の「機能可能な」プリンシプルを踏襲したんです。





 

この木をみてください。この果樹木の植え方一つをとっても、先人の知恵からくるものです。壁を作ることで風から樹木を守り、熱を蓄えることで早く実がなる。果樹の枝の切り方もそうです。このように植えれば、わざわざ石油を使ってハウスを温めて果樹を育てることも不要だと思います。

 

Spring Step : そうですね。

 

ジュリアン : 自然が働いてくれるんです。先人はそんなことを当たり前に取り入れ、伝えてきました。どのような果樹の組み合わせで育てたら相乗効果を持って収穫できるかを知っていたんです。そういう象徴的な事柄を寓話的に伝えたかったのです。

 

 

この森もそうです。森は同じ種類の木を植林する場所ではなくて、様々な木が生息しているという多様性を現しています。絵の中のディティールを見れば見るほど「自然」であることは効率的であることを示しています。必然なものしか存在していないんです。あとは、僕らがその自然の力をどのように取り入れるか。そして今日の生活のように、どのように最適化して生かすか。だから木はこれを「希望へのメッセージ」だと感じているんです。

 

味、香り、色、感触、音、5感の源があります。このような暮らしの中にある僕らの日常生活自体が「生きた遺産」となるのです。

街に暮らしていても、元気のリチャージをしに自然の中に行く人だってたくさんいますよね?自然は常に僕らに癒しとインスピレーションを与えてくれる、楽しむ場所なんです。

このホリスティック(統合的)な暮らしの絵は、新しいクリエイティビティーへの招待状だと言っても間違いありません。今までに人類が試してきたようなことではない、新しいイノベーションの世界の拡大だと思っています。

このモデルは地方都市ですから、パリのような大都市に置き換えるには、それなりの最適化が必要ですが。

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これから私たちができることとは

photo : Spring Step 

Spring Step : ジュリアンさん、私たちが二酸化炭素を削減するために今日からできることを教えてください。

 

ジュリアン : ここに描かれているものは、すべて世の中に存在しています。それはつまり、ここに描かれているものは夢物語ではないのです。ここには現実しか描かれていません。しかも僕らは、それをどのように配備して、生産し、利用するかまで既に知っているんです。だから、あとはそれにかかる費用と、実現に向けてどのようにオーガナイズするかということだけなんです。

どのように集団で、これらのプロジェクトを配備するかということです。それに向かうためには、もちろん僕らの意識も含め、街の規制など様々な改善が必要になってきます。

でも、今ここに時間と労力を向ければ必ず実現するという保証がこの絵の中から伝わると思っています。この絵の中にある「明日に向かうための材料」を、それぞれのカルチャーで咀嚼してもらったら良いと思います。宗教が違えば結婚式は教会ではないし、花嫁の衣装も違うかもしれない。

だからこの絵の通りでなくてもこの中の「キーワード」を取り入れて、自己のカルチャーというメガネを通して見つめてください。

 

そして、自分の得意なことや、スペシャリティーを踏まえた上で、この絵の中での自分の位置を見つけてください。そして1年以内にその位置で行動を起こすことです。恋をすること、捨てずに修理して使うこと、物の買い方を変えること、これならすぐにできそうですよね?

この絵の中の下部にあるものは、きっとすぐにできると思います。上部に行けば行くほど複雑化して上級になってくるので、まずは行動に移しやすいことからスタートすることです。

 

この「エコロジーのルネサンス」の絵は、息子の小学校の教材にも、パリ市の政治家にも、ビジネススクールの授業にも、投資家にも、「共通言語」として利用しています。

持続可能なエネルギーや電気自動車のように、一部だけをフォーカスしても、見過ごしてしまうことは多すぎると考えているんです。自然、社会、そして文化を忘れてしまったら、必ず問題が起きます。自然と人間の暮らし、街とカントリーサイド、次世代へのバトンの引き継ぎ、物を修理して製品の寿命を延ばすこと。まるで、1つ1つがパズルのピースのようだけれど、それが繋がっているからこそ、ホリスティックなんです。

 

PROFILE

JULIEN DOSSIER ジュリアン ドシエ / Quattrolibri 創立者 

イノベーティブなカーボンニュートラルのコンサルティングとリサーチ&デヴェロップメントを行うコンサルティングエージェンシー、Quattrolibriを主宰。

世界的な環境サミットの企画運営、パリ市などを含む様々なフランスの都市、企業のカーボンニュートラルプロジェクトのコンサルティングやスタディー、アナリシスを行っている。

またHEC経営大学院等での環境ビジネスの指導を行っている。

2019年6月に初の書籍Renaissance Ecologique を出版。

Quattromibri

 

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