【暮らしかた冒険家に聞きました】WITHコロナ時代 私たちの新しい働き方とは①

Way of living Womens life Lifestyle Special Interview
2020.07.16

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当たり前を疑問に思う

 

PHOTO: SAIKO ITO

Spring Step : コロナによって働き方が大幅に変わり、リモートワークが急速に広がるなか、長年リモートワークをしておられる伊藤菜衣子さんにお話を伺いたいと思います。菜衣子さんは、写真家であり、映画監督であり、家づくりの本の著者であり、暮らしかた冒険家であり、様々な顔を持ってらっしゃいますよね。


伊藤菜衣子さん(以下、菜衣子さん): はい、熊本で古民家を改装して暮らすためのリフォームをプロに助けを求めながら直していく行程を全てリアルタイムでSNSで公開していたら、ある時、坂本龍一さんから突然に、彼がディレクションをする札幌国際芸術祭2014で、わたしが引っ越して暮らしを組み立てたり、つくったりすることを作品としてほしいと言われまして。一応肩書はアーティストにもなっていたり、とにかくやっていることはバラバラで、外から見ていると何をしているのかわからないかもしれません。

「未来の”ふつう”を今つくる」ということを軸に、自分ができそうな職能は全部やってきたという感じです。私は結局、自分の職能を縦割りにできなかったんですよね。私の仕事の真ん中にあるのは「なんでこんなことになったんだろう?」と考えること。遡ると小学生の時に「ランドセルはピンクがいい、なんでみんな赤なんだろう?」と思うところから始まっています。


暮らしかた冒険家としての最初は、熊本で古民家を改修するという見た目的に分かりやすいところからスタートしたわけですが、「どうしてこういうのが普通になっちゃったんだろう?」と疑問に思うこと全てが守備範囲になって、「どうして子育てのタスクはお母さんが多いんだろう?」とか、最近は、そういうこともたくさん考えていますね。

 

 

Spring Step : 誰にとっても当たり前すぎて、疑問に思わなかったことを「なんでこうなったんだろう?」と思うとしたら、どこへ行っても未開の地ですよね。何のために仕事をしているんだろう? なんのために家をつくるんだろう? と本質を探していくから。本当に「考える」ことが仕事ですね。アーティストとしてのアウトプットのセンスと技術をお持ちですから、映像や作品として形に残しているけど、何かをすごく考え抜く、ということが菜衣子さんのお仕事ですね。


菜衣子さん : そうだと思います。つい最近までは、自分でもわかっていませんでしたが。「これは何でこうなんだろう? 何でなんだろう?」と思った時に思ったまま伝えると、周りの人はみんなポカンとするんです。


Spring Step : なんせ未開のことをやっていますからね。


菜衣子さん : そうなんです。「この人何を言い出したんだろう?」という周りのリアクションには慣れているので、最近では、むしろここを考え抜くと仕事になるぞ、と思います。


Spring Step : なるほど、それがベースにあるんですね。他に例ないことをやり続けた結果、他に例のないプロなられたんですね。


菜衣子さん : 「何でだろう? 何でだろう?」と。小学生の頃からずっと浮いてましたよ。浮き続けた結果です(笑)

 

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別々の場所、それぞれの時間軸

 

Spring Step : さて、本題のリモートワーク、働き方についてのお話ですが、遠隔で働くようになったことで何が起きたと思いますか?

 

菜衣子さん : 遠隔で働くことによって起きることは、「公平」のジャッジが変わるとことだと思います。例えば、締め切りさえ守っていれば、正直ほかの時間で何をしていようが誰もわからない。私は、原稿を書くのがすごく早いので、ほかの人が2日かけている仕事も1時間とか2時間で書けたりするんです。つまり、作業をしている時間がどれくらいかは関係なくなります。良くも悪くも、「原稿1本は原稿1本でしかない」ということ。16時間かけて書いた原稿だろうと、2時間かけて書いた原稿だろうと、他者の評価は、原稿の仕上がり次第になります。「こんなに時間かけたんだから察してよ!」みたいなことは通らなくなってくると思います。

 

Spring Step : パソコンの前で「がんばっている風」が通用しなくなるんですね。

 

菜衣子さん : そうです。「そこにいてがんばっている」ということへの評価はなくなっていくと思います。日本の職場は、みんなが察して、たとえば機嫌が悪そうな人には「今、機嫌悪そうだからね」とかすごい優しさを発動してきたと思うんです。みんなが気を遣ってやっているから、これまでは不機嫌モードが発動しても大丈夫なことが多かったけれど、それをリモートでやったら空気は読めないし、前後のことも知らないので「なんで不機嫌なんだよ」と思いますよね。さらに、その不機嫌を家に持ち込まれた家族は、もっと意味不明なわけです。今までは、自分も誰かのことを察していたし、誰かが自分のことを察していたんだけど、そういうことがどんどんなくなっていく。そこを「淋しい」「誰もわかってくれない」と感じて孤独感が生まれますよね。

 

あとは、「相手も真面目に働いている」という想像力がすごく求められてくると思います。自分が真面目に働いている時にすぐ返事が返ってこないと「アイツ、いまサボっているに違いない」という気持ちになってきますよね。相手の行動が見えない分、自分のがんばりばかりにフューチャーしてしまい、ギスギスしてしまう。

私は子どもが産まれてから、レスポンスよく対応できるのが1日に1~2時間あるかないかみたいな感じだったので、うちのスタッフは最初「マジこいつふざけてるな」と私のこと思っていたと思うんです(笑)

 

みんなが今まで通り、同じ時間にコミットをして働こうというのは、もう不可能です。それぞれが決めることを決めたり、ものすごく集中して今までよりも質のいいものを出すことには向いていますが、今までのように、馴れ合い、空気を読んでよ、といったことはできないし、相手がちゃんと働いているかどうかも見えない。それでも円滑に働くというのは、信頼関係でしか成しえないんです。

 

Spring Step : 同じ空間で働いているからその場でキャッチボールできたものが、投げたボールが全く返ってこない、返ってくるタイミングが遅いとか、遠隔によって時差が生まれるというのはそうゆうことですよね。

 

菜衣子さん : リモートであることの意義を最大化しようとすると「同期・非同期」といった時間的な話になってくると思います。例えば「子どもが小さいうちは、夜だけ働きたいです」とい人がいてもいいと思うし、そうゆう人はあとで作業するだろうからレスが来るのは夜になるな、と即レスを求めない働き方がベンチャー界隈では特に増えてきています。

 

「会議がオンラインでできた! わーい!」みたいなのは過渡期のことで、これからは、自分たちが会議をして決めないといけないことや、会議をしないで自分で決めていけることをきちんと整理していく必要があると思います。時間差がある中で、仕事以外の大事なことの折り合いをつけながらやっていくために、何かそういう空気感みたいなのができてくると、「通勤しない」こと以外にもリモートである意味が出てくると思います。

 

Spring Step : 菜衣子さんは5歳の息子さんがいますが、具体的にはどのように仕事と家庭の折り合いをつけていますか?

 

菜衣子さん : 産まれた直後はあらゆることがパニックでした。私の仕事は、自分が世間でおかしいと思うことを深掘りして、考えて、アウトプットした瞬間に「わかる!」と共感してくれる人がいるということが、お金もさることながら、自分の喜びになっていたんですが、その質と量共に減ってしまい、自分の存在意義の認識がすごく難しかったです。世の中では産後クライシスは、ホルモンバランスが原因と言われていますが、存在意義を確立していた仕事という存在から分断されることも結構大きな原因のような気もしています。

 

だから、子どもが保育園に行った時、感動的だったのを覚えています。「また私は、好きな時に、好きな仕事をまとめてできる」と。でも、子どもができる前のように、夜中まで仕事したり、やりたいことを「わーっ!」とやって、お腹減ったらごはん食べて、また「わーっ!」とやりたいことをやって、キリが良いぞって思ったタイミングで寝る、みたいな生活はできないので、そこでのギャップはとてもきつかったです。

 

コロナのことで、「向き合う時が来たな」と思ったんです。例えば、子供を8時~18時で保育園にあずけていないと自分の自己効力感、自分が社会に対してコミットしている意識や感覚を持てずに、自己肯定感が下がっていくという現象を何とかしないといけない。コロナだけではなく、「私には息子がいる」という大前提を、本当の意味で受け入れないと、どの道色々と成り立たなくなると思ったんです。

 

Spring Step : 本当そうですね。コロナは今の一時的な話じゃないかもしれないし、コロナ後の世界も元通りではないと、私は思っています。そういうことを考えると、「私はどういう人なのか」、自分のことを少し掘り下げて、新しい自分の常識をつくるということを今の段階でやっておくことは大事だと思います。

 

菜衣子さん : 「仕事のアウトプットがないと不安定な私」のまま生き続けることは、病気になっても、おばあちゃんになっても、何をしてもハードルになると思っています。何でそうなったのか、1つ1つ解いていった方が圧倒的にこの先も生きやすいはずなんです。

 

Spring Step : 自分が納得しないままにそこに別のもの、代わるものを置くという方法は、本質的ではないので終わりがあるし、そこに自分の無理があったら、サステナブルにできない。だから、どこからその欲求が来ているのかを知ることがすごく大切だと思います。以前菜衣子さんが言っていた言葉が私は大好きでなんですが、「自分の棚おろし」、まさにそれですよね。

 

菜衣子さん : そうです。棚卸し! やっぱり大事なんです。「何で私こういう風に思うんだろう?」と考えたときに、「母親が口癖で言っていた」、「昔の彼氏に言われた」とか色々なことが出てきて「そうか、思った以上に私は気に留めていたんだな」「沁みついているな」と思ったり。そういう意味では、全部が普通ではなくなっている今は、「自分の棚卸し」をするにはすごくいい機会だと思います。

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テレワークで必要なコミュニケーション能力とは

 

菜衣子さん : 私、今の日本人のコミュニケーション能力ってすごく低いと思っているんです。私は高校生の時にアメリカの田舎に住んでいたんですが、アメリカだったら高校生で普通にできるようなことが、日本ではコミュニケーションとして教わっていない。

 

Spring Step : それは、私もフランスにいて思いました。

 

菜衣子さん : 結論に対して「何がどうなってどういう理由でこうします」という前提の説明がないですよね? それこそアベノマスクと一緒で、「え、どうしてそうなった?」みたいなことがすごくあります。メールでもこの結論を読んだ人がどう思うだろうか? ということを考えて書かれているものは少ないんです。客観性に欠けていて、「もちろんこの答えが出て当たり前」だと思って書いているメールが非常に多くて、だからone wayになり一往復では終わらないメールが多くなってしまうんです。「何でこうなったんですか? どうしてこうなったんですか?」と、都度聞かないといけないことがとても多い。リモートワークの今、自分が返したメールに返信が来てしまったら、その分時間が細切れになっていきますよね? 自分の時間を細切れにされないためにも、コミュニケーション能力をあげなくてはいけない。1本で決め打ちする気持ちでメールを書かないといけない。

 

Spring Step : 何のつもりでそれを決めたのか、何のつもりでその答えを出したのか、自分の答えにある思考を教えてもらえるとすごく良いのにと思うことはあります。

 

菜衣子さん : そうですよね。どんどんリモートになって、時間が非同期になっていくと起きることですよね。この意図を聞くために、6時間後にしか返事が来ないとかあり得るわけですから。

 

Spring Step : コミュニケーション能力をあげる、というのはつまり「なぜそう思ったのか?」を伝えるということですか?

 

菜衣子さん : そうですね。経緯についてです。同じ時間を共有していないからこそ、どうしてそうなったの? が伝わらない。共有していることはとても少ないと思わないといけない。同じ場所、同じ時間を共有していることを前提にやりすぎているんですよね。

 

Spring Step : それは、日本的でもありますよね? 日本は、なぜかみんなが「中の上」「平均値」みたいに思っている人がすごく多いと思います。本当はみんなバラバラで違うはずなのに。だから「私が思っていること」を全て語らなくても「この人も分かっているだろう」という前提で話をする。

ただ、やはり海外に暮らして、全く違うバックグラウンドの違う人種の人たちと同じ目的で何かを一緒にやるとなると、本当にコミュニケーション力を駆使して、成功させるためのエナジーを共有するみたいなことが必須なので、その「違う」ということを前提に話をするんです。でも、日本では、日本人が周りに多くて色々な人種の人たちがいないから、「これは言わなくても分かるだろう」という話が成り立つんですが、これは「みんな平均値イリュージョン」だと思っています。

 

菜衣子さん : 「分かってもらえなくて当たり前」と思った方が良いと思います。同じ時間も同じ場所も共有していないのだから。たとえ「どうして?」みたいなことを上司に言われても、へこたれない。同じ場所も共有していないし、今までと違うレスポンスで対応されてもそんなもんだと開き直ること。

 

これまでは「何となくやっていれば回る」みたいなことが、日本の仕事のコミュニケーションだったので、同じものを共有しにくい状況になればなるほど、本当に相手に伝わるようにといった「親切」や「情熱」がキーワードになってくると思います。

 

Spring Step : 本当ですね! 「情熱」があるからこそ、コミュニケ―ション力をあげるということが、丁寧に仕事をするということなんだと思います。会社というのは、みんなで同じ目的に向かって行きますが、それに対して個人的に本当にやりたいのか、わくわくするのか、楽しいのか、違うのか、を考えるステップが大切ですよね。

 

菜衣子さん : そうなんです。「この仕事が好きか嫌いか」「やりがいを感じるか感じないか」というよりも、そもそもですが、そこにコミットしてやるという覚悟や、腑に落ちる状態を自分でつくることが重要になってくると思います。小さな成功体験を積み上げることもそうですが、今までは結論しか言ってなかったことに「何があって、どういう想いでこうした、こうする」を加えて伝えた時に、どういった変化が起きるのか、一度やってみて、それでもその仕事にやりがいを感じるのか、感じないのかを考える。

 

次週、【暮らしかた冒険家に聞きました】WITHコロナ時代 私たちの新しい働き方とは②をお届けします。

 

※このインタビューは、4月20日に伊藤菜衣子さんと編集長のCHICO SHIGETAがインスタライブで行なったトークを記事にしたものです。

また、このインタビューがきっかけとなり誕生した菜衣子さんのブログ

人生とは自分にかかっている呪いを ひとつひとつ解いていく冒険

では、様々な「社会的常識」とされていること、またその枠に入らなければ「失敗した人」と認知され、いつの間にか親や周りの言葉から、自分に植え付けられた他人の価値観を自分の価値観と当てはまるのかどうか、問いかけて自分らしさを探っていくことができる、素晴らしいツールとなるブログなので、ぜひ読んでみてください!

 

 

PROFILE

伊藤菜衣子 Saiko Ito / 暮らしかた冒険家

1983年北海道生まれ。クリエイティブディレクター。暮らしにまつわる常識をつくりなおし、伝えるため、広告、編集、映画制作などを手がける「暮らしかた冒険家として活動。高気密・高断熱の住宅の普及にも取り組む。著書に「新しい家づくりの教科書」や「これからのリノベーション 断熱・気密編
「人生とは自分にかかっている呪いを ひとつひとつ解いていく冒険」をnoteにて連載中!

Instagram : @saikocamera

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