【教育界のスペシャリストにききました】 これからの未来を生きる子どもに必要なことはなんですか?

Way of living Women's life Lifestyle Special Interview
2020.11.12

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小学校は、社会人を育てるための予行練習

TEXT:MADOKA NATSUME / PHOTO : HAL KUZUYA

 

SpringStep: 以前、先生のセミナーに参加させていただいき、先生の学校での「教育」のお考えは、自立した一人の人間を作っていくということを感じました。先生は、日本の学校教育の中でも、“見える教育”、“見えない教育”の二つの教育のうち、後者の“人間を育む”カリキュラムを実践されています。

 

清水弘美先生(以下、清水先生): 学校は勉強や知識を教えるものだと思っているけれど、じつは、社会に出た時の予行練習で、心の使い方も練習しているんですよね。子どものうちは失敗しても許してもらえるし、転んでも大きなケガにはならない。そういうことをたくさん経験するために、小さな社会の縮図を学校は作っています。そして、社会にはいろんな人、考え方を持った人がいます。私は、学校には老若男女いたほうがいいと思っていて、若くて、元気で、前向きな先生ばかりじゃなくていいと思うんです、私は “青い空を背に白い歯で笑う人”って言ってるんですけど、そんな人ばかりが教員じゃダメなんです。

 

Spring Step: 確かに! 本当にその通りだと思います。

 

清水先生: だから、おどおどして気が小さそうな先生がいたり、いかにも怖そうなガンコ親父みたいな先生がいていいんです。子どもたちは、そういういろんな先生のキャラをくぐり抜けて、“生きる力”を身につけていく。そういうことが必要です。

 

Spring Step: 社会っていろんなレイヤーがあって、そのレイヤーの色々な人たちとの関わり合い方って、子どものうちから身に着けていくべきだと思います。

 

清水先生: そうなんです。例えば、「この子は人によって態度を変えるんです」っていうけれど、そんなの当たり前。人によって態度を変えられるようにならなきゃいけないんです。ある先生の前では大人しくしたり、一方の先生では図々しい態度をとるなんていうのも、その先生と子どもとの関係がつくりだしていること。だからそれはよいことで、賢くなっているということです。

 

2

自分のつよみを見つけ、役割をもつ

 

Spring Step: 先生のお話は聞けば聞くほど、人間味に溢れています。先生が教育者として「子どもを育てる」ことをどのように考えていますか?

 

清水先生: わあ、それはいい質問ですね。教育基本法の第1章第1条に「日本の教育は人格の完成と社会の形成者をつくる」と書いてあります。人格の完成というのは、その子が持って生まれた能力を最大限引き延ばしていくこと。それを私は“つよみ”と言っています。別のいい方をすれば“よさ”ですね。そしてもうひとつは、社会の形成者。正確には平和で民主的な国家・社会の形成者っていうんですけど、平和で民主的な社会をつくらなくてはダメなんです。つまり、そこに参加している全員の気持ちを大事にした集団ということです。簡単な言葉でいうと、“役割をもつ”と決めています。だからまず、自分の強みを見つけること、そしてその強みを生かしながら、社会の中で役割を持つこと。これができる子どもにしたいというのが私の教育のベースになります。

 

Spring Step: すごくわかりやすいです! 先生のお話を聞いていると、ひとりの人として生きること、学習していくことって大人も子どももぜんぜん変わらないと思いました。

 

清水先生: そうです、一緒。私たちが日常の中でやっていることとまったく同じです。それを小学校の中できちんと教えて、どうしていいかわからないと困っているときに、子どもたちに、頭で論理的に考えて解決できるようにするっていう課題解決を教えています。感情だけで動いていては結局何も解決しません。だから、今ある現状をつかんで、何が原因かを探っていく。これは私たち大人と変わらないことで、うまくいかないこともあるわけです。トライアンドエラーを繰り返しながら、自分に合う解決策を考えていくという、何度も何度もトライして、正解にあたればちゃんと結果はでるんです。そのトレーニングを小学校からしています。

 

Spring Step: 具体的にどんなトレーニングなんですか?

 

清水先生: 日常の困りごとを感じさせるんです。例えば、子どもたちに教室に散らかったゴミの写真を見せて、「君たちは汚い教室で勉強するのがいいですか? それともゴミのないキレイな教室で勉強するのがいいですか?」と現実をつかませるわけです。でも、自分たちの教室は汚い、掃除が終わったばかりなのになんで?と、原因を探ります。そうなったときに子どもたちは、正しい使い方でほうきを掃くとか、さぼっている人がいたら何人かで注意するとか、いろいろ解決法を見つけるわけです。でも、それを全部するのは無理ですから、じゃあ自分でできるものは何か?と考えるんです。ある子は、ほうきの使い方を徹底する、またある子はほうきの使い方がすでにできているから、さぼっている子を注意するとか、それぞれの子どもが“すべきこと”を決定させます。そのステップを踏んでから掃除をすると、見違えるように教室はピカピカになりますよ。子どもたちのやる気や結果を先生は、「ゴミがひとつも落ちてなくてキレイだね」、「教室の隅っこまでゴミが一つもないね」と言葉ににします。それは、子どもたちも同じように思っている気持ちですよね。子どもが自分で気づいて感じた気持ちを言葉にして、きちんと整理整頓して伝えてあげることが教員の仕事だと私は思っています。

 

 

Spring Step: これも子どもに限ったことではなくて、大人にも通じていることですね。私たち大人も自分で気づかないと直らないことがままあります。

 

清水先生: そうなんです、気づかせることが大切なんです。だから私は、「FIDS(フィッズ)メソッド」に取り組んでいます。これは、Feel(感じる)、Imagine(想像する)、Do(行動する)、Share(共有する)という順番の循環によって、豊かな心を育みながら社会と共存できる、自立した子どもを育てていくための仕組みです。この最初のFeel=感じさせることがすごく大事で、子どもたちは素直だから受け入れやすいんですが、大人になるとなかなか通じないですよね(笑)。だから、子どものうちからちゃんと練習して、改善策を見つけられるようにしないと。だって、大人はなかなか変われないから。

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子どもと同じものを見て、共感すること

 

Spring Step: コロナ禍で先生もマスクをして教えているので表情が見えないこともあり、子どもの人格形成のなかで何かしらの影響があるかもしません。家庭では、どんなサポートをすべきでしょうか?

 

清水先生: マスクをしていると、顔の半分以上が隠れていますから、コミュニケーションがしづらくなります。コミュニケーションって言葉よりも目から伝わるのが9割。だから言った内容よりもどういう表情で言われたっていうほうがはるかに大きい。でも今は、そこのトレーニングができないんです。だから家庭では、マスクしていない同士だから、豊かに表情を見せながら話すことが大事。子どもの目線まで下がって、相手の目をまっすぐ見て話しましょう。あともうひとつは、協調面を育てること。例えば、お笑い番組を見て一緒に笑う、散歩に行って一緒に虫を見て気持ち悪いとかかわいいとか感情を共有する、共感することを親がいちばんしなくちゃいけないことです。子どもに向き合って、子どもと同じものを見て共感することと同時に、“あなたと私は同じものをみて同じように感じる仲間”、つまり、“ここにいれば子どもは安心”だと思えるような基地になること。このコロナ禍で人とコミュニケ―ションがとれないとしたら、家族のなかの共有体験をたくさんつくりましょう。本当はお出かけして、自然の中で風とか香りとか五感を感じて共有したり、外に出られないなら一緒に絵本を読んで感想を話し合うのもいいですね。

4

受け身からの脱却。特活脳を育てよう

 

Spring Step: 先生は、教科書だけでは学ぶことができない「特別活動」に取り組んでいます。子どもたちにどのような影響を与えますか?

 

清水先生: 私は教員に「先生、次どうするの?」っていう子どもになっていたら、「あなたの指導が悪いんです」って言います。特別活動の中で、クラブ活動があるんですが、これは自分が好きなことをする時間です。先生が主体ではなく、あくまでも子どもが主体。どんなことをしたいのか、何が必要なのかをすべて子どもたちが決めて、先生はサポート役に徹します。子どもがやってみたいという好奇心ですすめて、受け身というものから脱出させるためにも、主体的に考えるということがとても大事です。そのためには、自分のこととして捉えて、どんどん行動するという回路が必要です。私はそれを「特活脳(特別活動脳)」と呼んでいます。

 

Spring Step: 特活脳! それは、カッコいいいですね。

 

清水先生: 特別活動できっちり育てられた子どもは特活脳が育つので、もう何をやっても全部うまくいきますし、特活脳になると何でも面白いんです。新しいことをすることがとにかく面白い。今、学校教育も新しいことがどんどん取り入れられていて、理科と社会が混ざったような「生活科」や「総合的な学習をする時間」という授業があります。特に総合的な学習をする時間は、どこの教科にも当てはまらないことについて学ぶ時間です。本当に子どもが必要なものを調べて、まさにFeelするわけです。環境問題でもいいし、貧困問題でもいい、課題はいっぱいあるじゃないですか。そこで気になったことに対して、自分は何ができるかを考えて実際に行動できるようにするところまでもっていきたいです。教員は、あくまでも新しい視野を広げるために、Feelさせるわけです。見たことのない世界のことや命のこと、宇宙のこと、歴史のことなど何でもいい。見えないものの世界に心を寄せて研究していくこと、Feelさせることは教員の仕事だと私はいつも言っています。

 

 

Spring Step: 先生はそこにいくまでのガイドをするということですね。子どもにFeelを体験する、そしてそれぞれのFeelがみんな違うから、次にImagine(想像する)と続くわけですね。

 

清水先生: そうです、だからFeelしたもののなかから自分たちがセレクトして、どうなっていけばいいのかなって想像していくわけです。つくりたい未来はどういうものなんだろう、そのためには何ができるのか、どう行動するのかっていうところを組み立てていく。実際に自分たちで調べて、これをやるというところまで決めていく。小学生にできることは小さなことかも知れませんが、でもそういうところに意識をもって自分が関わろうとするトレーニングなんです。”誰かやってよね~、”、ということではありません。

 

Spring Step: 自分が何をすべきか、FIDSでいうDoの部分を決めて行動する。そして、授業の中だったらみんなに発表して、Shareするとうことですね。それが、できるってすごいことですね!

 

清水先生: すごいです。大人だって難しいですから。大人は社会の中でやっているけれど、子どもは学校の中の社会でやるわけです。それぞれ子どもたちは役割をもつわけです。最初にお話した強みと役割を果たすことで、よりよい学校にしていく社会の形成者になるわけです。

 

Spring Step: 学校がひとつの国家みたいになっていますね!

 

清水先生: そうなんです。それをするのが特別活動です。つまり、社会の形成者をつくるトレーニング。でもそれは、この子は何点頑張ったなんて評価できるものではありません。自分の中の精一杯を頑張ればいいし、時にはやる気がぜんぜんでなくて頑張れないときもあります。そういうときは誰かに頑張ってもらえばいいんです。

 

Spring Step: そうですね、それも社会の縮図ですね。

 

清水先生: 「ひとりで頑張ってつぶれるな」って。できないんだと言ってSOSをだす、困って暴れる、周りが面倒を見る、それも社会の縮図です。

 

 

Spring Step: トレーニングしないとできないですよね。1回できたからといってクリアできるものではなくて、行動して、共有してということを繰り返して続けて鍛えていくという、筋トレのようなものですね。

 

清水先生: まさにそうですね。「FIDS」は、一連の活動を最後までやる、途中でやめちゃダメなんです。すべてをやらなければ効果がでません。自分が成功した体験をみんなに広げていかないと社会は変えられませんから。つまり、ひとりで回っているだけでは独楽なんです。そうではなくて、らせん階段をのぼるように上に上がっていく、向上していく。

 

Spring Step: でも、それっていちばんこれから生きる社会に必要なことですよね。今後社会はますます複合的になっていって、そんな世の中で生きていくためには特活能が必要だなと聞けば聞くほど思いました。しかも、その特活脳は大人にも必要ですよね!

 

清水先生: 大人も子どもも特活脳の育て方は同じです。それはたったひとつ、体験させることです。やってみせる、やらせる、そして褒める。それを繰り返していくしかないんですね。それが育てるということだから。特活脳は言葉で教えられるものではなくて、鍛えるものなんです。Doをするしかない。行動あるのみです。地球は行動の星です。行動しなくては何も変わらない!

 

Spring Step: 確かにその通りですね。

 

清水先生: 失敗を恐れずに行動させる。“You Can!なんでもできるんだよ”、ということです。そして、自分の得意を生かしていくこと、そして、人の役に立つということが究極の活動の動機になります。人の役に立つことを目標に行動できる人間になったらすごく幸せに生きられます。逆に、見返りを求めていたら幸せにはなれない。

 

Spring Step: その通りですね、他人の評価なしには前に進めないということですからね。

 

清水先生: 自分で自分を褒めるためには、自分でたてた目標に自分でたどり着くということが大事です。だから、自分で決めるということが大事です。

 

Spring Step: 本当に勉強になりました。大人の世界に置き換えて、共通することがいっぱいありますね。先生、ありがとうございました!

 

 

PROFILE

清水弘美さん / 東京都八王子市立浅川小学校 校長

日本における特別活動の権威。全国学校行事研究会会長・東京都学校行事研究会副会長・全国道徳特別活動研究会副会長等等を務める。保護者や地域を巻き込み、学校全体で特別指導を柱にした教育活動に取り組み、校内の学力・体力向上、学級崩壊のない学校づくりを実現。多くの子に「人の役に立つ喜び」を知ってもらいたいという思いで、校外でも特別活動の普及に努める。また、日本の特別活動を発信するため、エジプトやモンゴル、インドなど世界中からの視察を受け入れている。著書に『子供の心を伸ばす特別活動のすべて』他多数。

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