【植生復元のスペシャリストに聞きました】自然と共生するために、私たちにできることは何ですか?(前編)

Way of living Organic Lifestyle Green Tech Special Interview
2022.02.24

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専門的知識に裏付けされた持続可能な森づくり

TEXT: Shiho Tokizawa

 

Spring Step:本日はお時間いただきありがとうございます。まずは、シルワの活動内容を教えてください。

 

川下さん土地本来の植物による森づくりや緑化の活動をベースとしています。シルワのメンバーは高校生から社会人までとバラエティ豊か。現状の地球環境に懸念を抱き、何かをしたいという気持ちを持った同志が集まっている感じですね。また森林再生指導員という指導員研修制度を取り入れ、若い世代の教育にも力を入れています。ボランティアや、会費や寄付で支援してくださっている方もいらっしゃいます。シルワの形態はユニークで、運営の中心を担っているのはオール専門家です。森の保全活動をされている方は全国にたくさんいらっしゃいますが、その活動内容を見ていると専門的・学術的な知見が抜け、趣味的なところで落着しているように感じることも多々あります。そういった状況に危機感を感じておりましたので、シルワでは“科学的根拠のある処方箋を出すことができる法人”というものを目指してきました。森づくりに携わる時には、50年〜100年後までのシナリオを描き、何を目標にしていくのかを明確にして動かなければなりません。植物には約36億年の歴史があり、森は地球にとって非常に大きな役割を担っています。人間が勝手に変えてはいけない範疇があることを理解することが大切です。

 

Spring Step:ずっと先の未来までを見据えて活動されているということですね。

 

川下さん:現代は経済社会が確立し、小さな戦も起こらなくなりました。しかしそれにより、私たち人間の価値観は非常に残念な方向に偏ってしまったなと思います。お金儲けをする人が偉いですとか、そんな悲しい物差しが横たわっているわけです。そしてそれに伴い、植物に対する価値観も“見栄え”や“癒し”など、いわゆる人間目線に偏ってしまった。植物本来の存在意義というものが見失われてしまったんです。本質を見抜けないというのは悲しいことですよね。人間としても、森の民である日本人としても。

 

Spring Step:確かにそうですね。癒しを求めて山へ行くとか、そういう側面も確かにあるけれども、そもそもなぜ森がそこにあるのかと考えるだけでも目線が変わる気がします。

 

川下さん:スタッフにも、何のために自分は存在しているのか、本当にお金儲けのためにこの世に生まれてきたのか、そういったことを常に自分自身に対して問いかけるようにと伝えています。そこがクリアになっていれば、芯がブレないからです。そしてそれは、森についても同じことが言えます。“なぜ森が存在しているのか”という疑問を常に問うことです。基本的な部分を押さえないまま活動を行っても、それこそ人間本位のものになってしまいます。

 

Spring Step:森を“いつもそこにあるもの”という風に捉えてしまうが故に、粗末に扱ってしまったり、本当の意味での機能やありがたみが見えなくなってしまうのかなと思います。以前川下さんのお話をラジオで聞いていたときに、原生林に生えている木は土が選んでいるとか、土地が森を作っているというお話されていて、とても驚きました。聞けば聞くほど、地球というものは意思を持っているとしか思えないですね。

 

川下さん:その通りですね。例えば私は、土の中の生態系にも気を配り、土壌生物の多様性をボトムアップしてから苗木を植えています。面白いことに、土壌のネットワークが変化すると、植物たちはすぐに気づいて引っ越してきたり、覚醒したりするんですよ。電話もメールもしていないのに、です! どう考えたって神がかっています。パソコンやITネットワークを超えた、人知の及ばないレベルの働きかけがあるとしか思えません。土の中では、コンピュータのような緻密な計算や采配が当たり前に行われています。なんてことない出来事が、未来に繋がる大事な布石だったりするわけです。そのひとつひとつが震えるほどの感動の積み重ねで、自然は本当にすごいなと感じています。

 

Spring Step:自然界ってすごくマスマティックじゃないですか。誰かが計算しているではないけれど、花びらの数や葉っぱの形は美しく完成されている。自然界には、数学や物理が存在しているような気がしています。

 

川下さん:最近は「多様性」という言葉よく聞くと思いますが、多様性をとることで、地球は一体何を目指したのか、ということです。例えば今ここに4人いますが、それぞれに得意・不得意がありますよね。仮に私が4人いたとしても立ち向かえない問題は世の中にたくさんありますが、異なる人間がそれぞれの得意能力を使えば、あらゆる問題をクリアすることができるはずです。地球上の多様性も、結局そういうことではないでしょうか。環境ストレスや外的な圧から身を守り、生き残っていくために目指されたもの。先ほどおっしゃられたように、花や種の形、あるいは散布の方法。そういったものも含め、それぞれの種類が全てにおいて違うスタイルをとることにより、足りないところをカバーし合っている。そのための多様性なのです。

ここで注意すべき点があります。このようなお話をすると、「種類の多さ=生物の多様性」だと思われる方が非常に多いのですが、これは誤った解釈です。例えば人間は今、地球上の様々な場所を開発していますね。開発された跡地は、地球が傷を負いダメージを受けたところ。血を垂れ流している場所です。そういう場所では元に戻そうという作用が非常に強く働き、動植物たちがたくさん干渉します。すると、一時的に動植物の種類の指数が高くなる。一時的に作り込まれるわけです。しかしそれは永続的なものではありません。地球の真の多様性であるかと問われたら、そうではないわけです。多様性というのは立体でなければならず、かつ次の世代に継続していける持続可能性がないといけません。持続可能な環境がなければ、本当の多様性は生まれないのです。

 

Spring Step:地球が傷口を治しているところなんですね。

 

川下さん:そう、治している。多様性どころか、お医者さんにかかって入院しているような状態ですよね。異常な状態であって、それは多様性ではないのです。

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真の多様性は、原生林にある

 

川下さん:では真の多様性は何かと問われたら、それは地球が自ら求め作り込んだ世界一の生産者である森=原生林にあると言えます。原生林が多様性における究極のステージなんです。なぜかと言うと、森は一度再生したら次の氷河期まで約9000年生き延びていくから。半永久的な生態系フィールドになるからです。半永久的な生態系フィールドになれば、そこで動物や植物などあらゆる生物たちが住処や食料を獲得でき、平和に生きていくことができるわけですね。

 

Spring Step:原生林と林の違いを教えて頂けますか?

 

川下さん:原生林=森には、多種多様性があります。時間的にも空間的にも立体的で、それが半永久的に続いていくものを「森」と言うんですね。ですので、人間がコントロールして同じ種類の樹木だけを植えたエリアは、森とは言えません。遠く離れて見るとグリーンの塊ですから、一見すると林も森に見えてしまいますが、本質的には森にあらずなんですよ。人間が人口的に作り上げた植生=林は、地球から見ればダメージを受けた場所ですので、動植物が元に戻そうと干渉してきます。ですので、草が生えてきて草刈りをしなくちゃいけなくなったり、定期的な間伐が必要になったりします。メンテナンス費、維持費をかけなければ、林というフィールド自体を永久に保存することはできないわけです。対して原生林に近い森は、人間の干渉を一切必要としません。そういうところでも見分けはつきます。

現在日本の山岳部は非常に大きな課題を抱えています。日本狼をただ怖いというイメージで駆逐し、絶滅させてしまったことで日本の動物の生態系が破壊されてしまいました。日本における動物界のトップがいなくなってしまったので、鹿などの獣害が日本の山岳部に横たわっています。先ほどお伝えした通り、林には地球が干渉し元に戻そうとする力が働くので、放っておけば原生林に近い森に還っていくはずなんです。ところが日本狼がいなくなり、大量発生した鹿が新芽を喰ってしまうので、経済林が元の森に還ることができないという非常におかしな状況になってしまっているんですよ。獣害といっても、動物に罪はないんですけどね。厳密には人間が未来を考えずに引き起こした生態系の乱れが、本来元に戻るはずの経済林が自然に還らないという問題を引き起こしているんです。

 

Spring Step:なるほど。森とそこに生きているものの、どのバランスが崩れても成り立たないんですね。

 

川下さん:人間が地球上の主役で、人間にすべての決定権があるという考え方をされている方は非常に多いと思います。ですが、みんなが主役なんですよ。バクテリアも菌類も。

 

Spring Step:本当にそうですよね。

 

川下さん:すべてです。もっと言うと、人間の数よりも菌類の方が多い。地球は菌の星と言ってもいいくらいです。そもそも人間の歴史はとても浅いです。46億年以上の歴史がある地球の中で、約700万年くらい前に誕生したと言われている人類は桁違いに歴史が短いんですね。しかも人間が火を持って自然界に干渉し始めたのは約200万年前と言われていて、つい最近の話なんですよ。さらに産業革命が起こり開発のスピードが加速したのは、ここ100年くらいの話。本当に歴史の浅い生物なんですが、なぜか主役になったつもりでいるという。本来地球上の動植物みんなが主役で、誰が欠けてもだめなんです。むしろ一番最後に誕生しているぶん、人間がいなくなったって地球はやっていけます。

 

Spring Step:むしろ地球のためにはいない方がいいような……(笑)。

 

川下さん:よく地球のために環境活動をしなきゃいけないという話を耳にしますが、地球は約17億年から25億年は存続可能であろうと科学的に解析されています。もともと地球は死の星で、活火山やマグマ、有毒ガスに包まれていました。生物の誕生さえ何十億年もなかったわけですよね。激動の時代を生き残ってきた地球っていうのは、想像よりも遥かに強いのです。ですから、地球の心配をする必要はありません。昨今の気温の変化も、地球にとっては痛くもかゆくもないわけです。ここで気がついて欲しいのは、地球上で起きている自然災害は誰にとって危険なのか?という点です。地球環境のためになんとかしようという発想自体をいい加減考え直さないといけません。私たち人間が存続するために、どうぞ穏やかになってくださいと地球にお願いする立場なんですよ。

 

Spring Step:本当にその通りですね。私たちが今後も暮らしていけるか、私たちの次の世代がまだこの地球に使命を持って継続できるかどうか、という話ですもんね。

 

川下さん:そうなんです。そして、穏やかな環境の中で人間を含む陸上の生物、海の中の生物たち、地球に依存する消費者と言われる生物たちを今後も存続させていきたい、あるいは愛する人のため、自分自身のために生き残りをかけて何かしたいのであれば、大地に木を植えることしか人間は直接的にできないと私は思っています。なぜかというと、人間はどこまでいっても何をしても消費するという宿命を背負っているからです。森は二酸化炭素を吸収して酸素を供給してくれますよね。たとえ太陽エネルギーが暴れて気温を上げても、二酸化炭素を吸収して酸素を恵んでくれる。そうすれば、地球温暖化の対策になるわけです。だから、森を増やそうと。そのような考えで私たちは活動しています。もし仮に、森に頼らずテクノロジーで解決しようとして、太陽エネルギーや二酸化炭素を吸収して酸素を作る装置を作るとします。しかしその装置を作るためには、地球の化石資源を使うわけですよね。さらにその機械を起動させるためには電気エネルギーか太陽エネルギーを消費し続ける必要があり、それを作る過程でもCO2の発生を大量にさせるわけです。結局そんなことをしてもプラマイゼロというか、むしろマイナスです。

 

Spring Step:燃費が悪い(笑)!

 

川下さん:何もないところから形を作り出すという、地球上で求められる究極の生産という役割をこなせるのは、植物たちだけ。逆立ちしたって人間には真似できないのです。森がやっていることは太陽エネルギーや二酸化炭素の吸収、酸素の供給だけではありません。棲家の提供や水・大気の浄化、あらゆることをやっているわけです。生物への食料の提供までをやり遂げてしまうわけですから。それを兼ねた装置なんて、人間には作れません。一切のストレスを地球に与えずに、この機能を与えることができるものを人間が作るなんて不可能です。人間はどこまでいっても、消費寄生するという宿命の上に命が成り立っています。だからと言って、人間が悪だというわけではないですよ。植物たちが作り出す酸素を安定的に消費し二酸化炭素を供給するという意味では共生していますから。

 

Spring Step:原生林ができたらその先9000年間持続できるという、その桁を考えたら、そんなに保つ機械は作れないですよね。

 

川下さん:植物たちの歴史ってすごく奥深いです。そもそもあるがままのその姿で野外に立ち続けることができるってこと自体がすごいことですよね。

 

Spring Step:確かに! 

 

川下さん:最近の話でいうと、パンデミックで人間は非常に震撼しているわけですけど。よく考えてみてください。植物たち、動物たち、大騒ぎしてますか?

 

Spring Step:全く騒いでないですね。

 

川下さん:植物は桁違いの強さを持っています。それくらい遺伝子が練りこまれてきているんです。自然界が全然影響を受けていないことを当たり前のように捉えていて誰も話題にしませんが、超越した存在だっていうことがよくわかりますよね。

 

(後編に続く)

 

PROFILE

川下都志子さん / 非営利型一般社団法人Silva(シルワ)創立者・代表理事、植生管理士、環境省認定 環境カウンセラー。

 

湘南国際村めぐりの森 混植・密植方式植樹推進グループ長。地球環境へ違和感を抱き、“土地本来の木を植える森林再生こそが人類が出来る最良の環境貢献である”として、生態系機能回復式植生復元による気候変動への緩和貢献に勤しんでいる。

 

Silva HP : https://www.silva.or.jp/

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