【元VOGUE JAPAN編集長に聞きました】 ファッションを通じて、これから伝えたいことは何ですか?

Way of living Women's life Lifestyle Special Interview
2022.08.04

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デジタルによって、紙媒体に大きな変化が到来!

Text : Madoka  Natsume / Photo : Michika Mochizuki 

 

Spring Step: VOGUE  JAPANは昔から愛読している大好きな雑誌で、ファッション、ビューティ、カルチャー、時事問題など多岐にわたります。そのひとつひとつの記事が先端で、エッジが利いていて、とても刺激を受けています。

 

渡辺 三津子さん:VOGUE  JAPANをトータルで21年、そのうち13年間編集長をしていました。ひとつの媒体をずっと続けるということはこの業界では珍しいことですが、じっくり関われたのは貴重な経験だったと思います。

 

Spring Step:2000年からVOGUE  JAPANをつくっていらしたということですね! たくさんのエピソードがあるかと思いますが、媒体を通して“変わったこと”、“変わらないこと”は何でしょう?

 

渡辺さん:いろいろな時代がありましたが、いちばん変わったタイミングは、デジタルの時代が到来したことでしょうね。ウェブもまだ本格的に機能していなかった時代は、今考えるととても素朴だったかも知れません。

 

Spring Step:確かに! デジタルになる前は、紙媒体のみでしたからね。Spring Stepもそうですが、今はたくさんのウェブメディアが登場しています。デジタルになって、変わったこととは?

 

渡辺さん:情報、発信の仕方が変わりました。とくに情報量はデジタルの普及によって大きくなりましたね。その一方で、紙媒体は情報以外に何を伝えるべきか、という内容の転換期に入りました。

 

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編集することで、明確になり理解が深まる


 

Spring Step:ウェブの場合、雑誌のようにページ数が決まっていないですからね。そんな転換期のなかで、紙媒体の存在理由は何でしょうか?

 

渡辺さん:正直、答えはなくて、試行錯誤しながらつくっていました。情報量や速さでは適わないので、紙媒体は違う価値を見出すことが必要です。例えば、雑誌にはスマホの小さい画面だけで完結しない感性を伝える体験があると思います。ページをめくるたびに得られる視覚的、物質的な豊かさがそこにはありますから。デジタルは情報がどんどん流れていってしまいますが、紙媒体はひとつの企画を掘り下げて、ひとつの”ストーリー”を丁寧に作り上げることができます。

 

Spring Step:まさにエディションしているんですね!

 

渡辺さん:独立して『THE EDIT』という名前を屋号のように考えたのですが、私はもともと編集することが大好き。編集することでそのテーマが明確になり、理解が深まります。新しい知見が生まれることで、また別の角度から掘り下げてみたいと思う。編集とはとても刺激的で、私にとっては生きることに等しいですね。

 

Spring Step:そのテーマには何かしらの軸があると思いますが、どんな視点で編集するのでしょうか?

 

渡辺さん:それは本当に人それぞれ。編集者の個性の数だけ軸があります。

 

Spring Step:編集することは、“思考のアウトプット”なんですね! 実際、編集の力って、高めることができますか?

 

渡辺さん:それはもちろんできますよ。私は、一つの企画を考えるときに新人の編集者に『考えられる切り口、アイデアはすべて書き出してみる』とよく言いました。何でもいいから考えたことはすべて書き出してみようと。そうすると、自分のものの見方の癖や限界みたいなものが見えると同時に、必要な要素を取捨選択ができるようになり幅広い見方が磨かれます。答えはひとつではありません。

 

Spring step:では、時が経っても“変わらないもの”とは何ですか?

 

渡辺さん:やっぱり人間ですね。時代の変化とは別に幸せや欲望など普遍的なものはいくらデジタルになろうとも変わらない。ファッションの視点から見ても時代とともにデザインやシルエットが変わっても、美しいものを見て憧れるという感情の基本は変わらないものです。

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メディアが社会課題へのメッセージを発信する意味とは?

 

 

 

Spring step:渡辺さんが編集長を務められた頃に、『VOGUE CHANE』がスタートしました(※VOGUE CHANGEとは、ダイバーシティ&インクルージョン、サステナビリティ、ワーク&ライフの3カテゴリーに主軸をおき、社会課題への啓発や国内外の最新事例の発信を目的として、2020年3月に発足したプロジェクト)。現在、3年目を迎えていますが、当初から読者との親和性があると考えていましたか?

 

渡辺さん:立ち上げたばかりの頃は多少驚かれました。ファッションを社会課題とは別に捉えている人もいましたから。しかし考えてみると、私たちがその日に着る服を選ぶということは、自己表現なんですよね。服を通して、自分と社会がつながるし、自分と他の人たちとのつながりにもなります。服を選ぶということは、無意識のうちに自分と社会、自分と私たちが生きる世界との関係を考えるという行為でもあるのだと思います。

 

Spring step:確かに、場所や目的によって服を選びますね。服を選ぶことは、かなりの情報処理がされている!

 

渡辺さん:そうです、『なぜ、この服を着るのか』と私たちは自分に問い直してみると面白いですよね。“ファッションは時代を映す鏡”と言われますが、シャネルが提案した筒形のシルエットを女性が着ることがありえなかった時代に、結局それが支持されたというのは女性の感覚、考え方が時代とともに変わったというということの証です。

 

Spring step:そういう時代の流れを鑑みると、世の中を変えたいという欲望はファッションにも反映されるということでしょうか。

 

渡辺さん:その通りです。「こういうふうに生きたい!」という欲望によって、新しい考えた方が生まれます。つまり、服をまとうことで明確な意志表示ができるんです。

 

Spring step:確かに! ヴィヴィアン・ウエストウッドの服を着ることで、彼女のマニフェストに賛同していることにもなりますよね。

 

渡辺さん:そうそう。ファッションには社会的なメッセージを発信している面もあって、「よし、私も(変化に向かって)行くぞ!」という気持ちにもなるはず。ファッション界では今、モデルの働く環境や状況を変えていこうという取り組みがあります。これは、ショーのバックステージでは栄養面を考えたヘルシーな食事を用意したり、雑誌やブランドは人々への影響を考えて多様な体型のモデルを起用するなど。そうした活動はSNSや誌面で記事にすると読者からも大きな反響があります。

 

Spring step:新聞を読まなくても、SNSで気軽に社会問題をキャッチできるのはすばらしい!

渡辺さん:デジタルコミュニケーションのいい部分はどんどん取り入れていくべきです。

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ファッションを長生きさせること、服を愛すること

 

渡辺さん:若い世代のファッションを見ていると、とても完成度が高くセンスがいい。トレンドをうまく取り入れていると思います。その世代の方たちにもファッションにおけるサステナビリティを提案していきたいと思います。

 

Spring step:お洋服は「LIFE」ですね!

 

渡辺さん:モノにはすべて命がありますから。服を消費することだけではなく、「この服をどう長く着るのか?」を考えてほしい。そうした自分の考え方や選択、モノを愛することが自分に自信を与えることにつながります。

 

Spring step:これから、渡辺さんはどんな活動をされたいですか?

 

渡辺さん:若い世代とも一緒にファッションを通じてさまざまなことを考える活動をしていきたいですね。私、“Fashion Longevity Lab”、日本語で言うと“ファッション長生き研究所”というプロジェクトを考えていて、サステナビリティという側面だけではなくファッションを長生きさせること、服を愛してそれとどう付き合うかということを考える発信をしてきたいです。

 

Spring step:ファッションと長く携わってきた渡辺さんだからこその視点であり、活動ですね!

 

渡辺さん:ファッションによってたくさんの感動をもらったからこそ、これからもひとりでも多くの人に伝えたいです。

 

PROFILE

渡辺三津子/『THE EDIT』主宰

資生堂『花椿』で編集のキャリアをスタート。インターナショナルファッション雑誌数誌を経て、2001年に『VOGUE NIPPOIN』(のちに『VOGUE JAPAN』へ改称)のファッションフィーチャーディレクター、2008年に同誌編集長に就任。2021年12月末で編集長を退任、独立し、エディター/ライター/ファッション・ジャーナリストとして活動している。


撮影協力/TWIGGY.

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