【植物療法(フィトテラピー)の第一人者にききました】植物が優しいって、本当ですか?

Beauty Organic Lifestyle Special Interview
2018.09.27

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植物のしたたかな力とたくましい生命力を借りること

Text / Hiromi Tani  Photo / Spring Step

 

Spring Step : 森田敦子さん主宰の植物療法専門学校「ルボワ」では、一般の方たちとともにジャーナリストやメイクアップアーティスト、コスメブランドで働く方など、ビューティーのプロフェッショナルたちが真剣に植物療法を学んでいることでも知られています。それほどに質の高いレクチャーを提供されているわけですが、そもそも、植物療法とは何なのでしょうか。

 

森田 敦子さん(以下 森田さん) : ハーブで薬を作ったり、エッセンシャルオイルの香りを嗅いだり、といったイメージをもっている方も多いかもしれませんが、私が考える植物療法とはもっともっとシンプルなもの。植物とは、ハーブや薬草だけでなく、野菜や果物、穀物のすべてを指します。そうした植物たちが種の保存のためにやっていることを、私たち人間が活用させていただくことにほかなりません。

 

Spring Step : 具体的にはどういうことでしょうか。

 

森田さん : 誰にとっても必要でベーシックな方法は、穀物や野菜、果物を食べること。穀物の炭水化物、野菜や果物のビタミンやミネラル、たんぱく質は骨や筋肉や血管などを生成し、体をつくります。さらに食べることで、私たちが体内で作れない抗酸化物質も摂ることができます。

 

Spring Step : 米や野菜を食べない人はいませんから、誰もが日々、植物療法を実践しているわけですね。

 

森田さん : そう。そして、不調をきたしたときにはもう一段階上の方法、植物の薬理効果を利用することです。植物の花や葉、茎、種には自らを守るための働きがあり、人にとっては症状の改善に作用します。そうした成分の剤型を、香る、塗る、飲む、食べるなど人の体に合った状態で取り入れて生理活性を起こさせ、代謝させてケアに活用します。健康な状態をキープし、病気に対峙するための方法です。

 

Spring Step : そうして治癒に用いられるためか、「植物はマイルドで優しい」と思っている方が多くいらっしゃいます。

 

森田さん : ケミカルに比較して、ボタニカルはソフト、というイメージがあるけれど、必ずしもそうではありません。動くことができないながらも、種を残すためにありとあらゆる能力を身につけた植物は、ものすごくたくましくて、感心するくらいしたたかで、驚くほど残酷です。ある花が匂いを出して花弁の中に虫をおびき寄せて閉じ込める。次に別の匂いを出して鳥をおびき寄せて、自分を虫ごと食べさせる。鳥の体内に入っても、中に虫がいるから花は完全に消化されず、糞と一緒に種子を排出する。こうして種をあちこちにばらまいて、子孫を増やす植物もあるんです。

 

Spring Step : すごい能力ですね!

 

森田さん : 卓越した自己保存能力ですよね。例えば、スギの木に菌が入り込んでガンのような腫瘍ができる。放っておくと朽ちて木全体が枯れてしまうので、光合成の仕組みを変えて根から栄養素の配給を工夫して、その部分を自ら排出しようとするんです。木にとっても非常に負担がかかる作業で、その部位に殺菌作用のある精油を生成しながら樹液まみれになって排出を試みる。木全体が生きるか死ぬかの瀬戸際、その間に大量の花粉を撒き散らしていろんな場所へリスクヘッジをしておく。スギ花粉は木自体の子孫を増やすポジティブな意味もありますが、危険信号でもあるんですね。そうして無事に排毒されると何食わぬ顔して元の状態に戻る。そんなことを、土から生えている植物がやってのけるんです。

 

Spring Step : それもすべて、種の保存のためなんですね。

 

森田さん : このことは、私がフランスでフィトテラピーを学んで帰国したときに、林業に携わっているご近所のおじいちゃんが教えてくれたことなんです。実際にスギから排出されたこぶのような木材を手にしながら「フィトテラピーとかよくわからんけど、お前が分析とかせんでも、木々は勝手に自分で自分を治すぞ」って。植物療法という言い方は、人間目線の考え方。成分がどんな症状に作用するか化学分析をして、この香りは落ち着くとか、つけると肌が潤うとか、飲むとよく眠れるなど言っているとあたかも人間がマネジメントしているように錯覚します。でもそうではないんです。植物が自らが生き残るために作り上げてきた薬理効果を利用させてもらっているだけ。自然の中での摂理として、人と自然が共存するひとつのすべであり、あらゆる手段を使って生き延びようとする植物の生命力の強さの提言でもあるんですね。

 

Spring Step : 植物療法士は植物の理解者だと言われますが、メカニズムを理解しただけでは足りないと思います。森田さんのように、植物に対する感謝と畏敬の念があってこそ、真の理解者になれるのでしょうね。

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薬箱に入れたい森田さん推薦のハーブ9種

 

 

Spring Step : そんなしたたかで力強い植物の力を借りるにあたり、セルフケアとしてどのような取り入れ方がありますか?

 

森田さん : もっておくと薬のように役立つハーブをいくつかご紹介しますね。

 

〔常備しておきたい和のハーブ3種〕

1 くず〜漢方では葛根(かっこん)。大和の本くずは風邪の引き始めや下痢のときにお湯に溶いて飲むといい 

2 はと麦〜漢方では薏苡仁(よくいにん)。粒のものは第3類医薬品として売られていて、効果効能がかかれています。イボやタコの除去や肌の炎症を鎮めたいときに。夏の日焼け後の色素沈着やシミ予防にも。お茶にしたり、そのまま米の代わりに調理してリゾットにしたり。スキンケア目的なら2週間とり続けてると効果が現れます。1のくずにはと麦を混ぜたものは脂漏性湿疹にもいい。

3 よもぎ〜お灸に使うもぐさの原料。神経性や炎症の鎮静に。煮出したものをバスエッセンスにすると炎症によるかゆみも緩和します。またよもぎ蒸しでも知られるように婦人科系の疾患や女性ホルモンバランスを整えるなど。清潔な葉なら膣パックに。気管支の疾患にも。

 

 

 

〔知っておきたい洋のハーブ6種〕

1 エキナセア〜風邪のひき始めや気圧の変化に。お茶にして飲んだり、抽出してチンキにしたり。 

2 ラベンダー〜精油を1本もつならこれ。擦り傷、切り傷、やけど、虫刺されといったあらゆる外傷や肌ダメージに。 

3 ティートリー〜高い殺菌、抗ウイルス効果。精油を胸や喉に擦り込むと風邪の予防に。

4 タイム〜高い殺菌、抗ウイルス効果。風邪のひき始めにお茶にして飲む。 

5 バレリアン〜抗ストレス効果。眠れないときや不安なときや緊張しているときにお茶にして飲む

6 ギンコ(イチョウ)〜血流の改善。頭痛、肩こり、腰痛の緩和。お茶や料理に。

 

Spring Step : ハーブの種類もいろいろあるけれど、これくらい絞ってもらえるとわかりやすいですね! 私も原因不明のイボが体にできて、粉末のはと麦をミューズリーに入れて毎日食べていたら、いつの間にか消えていたことがあります。

 

森田さん : これからの時代、重要になってくるのはセルフメディケーション。知っておくと自分だけでなく周囲も救うことができます。こういう役立つ植物を知ったうえで「手当て」、つまり人の手で触れてケアしてあげる。手でオイルを塗ったり、マッサージしたりすることで、効果はさらに高まるんです。こんな「緑のくすり箱」が、全国津々浦々、どの家にも常備されるようになるといいなと思います。

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植物が手助けする、女性がいくつになっても自立できる社会

 

 

Spring Step : 植物療法を人に伝えていくうえで、どのような社会を実現したいですか?

 

森田さん : 女性が植物から学んだこと活かして、自分も周囲もハッピーにでき、さらにそれによって報酬を得ることで生きていける、そんな仕組みづくりができたらと考えています。植物は知識も実践も含めてたくさんのことを教えてくれます。そうした知恵を体系化して、人に伝え、ケアすることで感謝されればそれがビジネスになりますから。高齢化社会が進み、気候変動や社会通貨の仕組みも崩れ価値観もどんどん変わっていく中で、女性が社会を生き抜くサポートツールになるはずです。

 

Spring Step : 60歳で定年になっても、今どきの皆さんはまだまだ元気で健康ですものね。

 

森田さん : 60歳で定年になるのに、2008年以降に生まれた人は107歳まで生きると言われていますし、あと20年すれば年金も出なくなるかもしれません。ますます予防とセルフメディケーションの必要性は高まる一方ですから、植物療法を学んでセミナーやケアのサービスができるようになれば、いくつになってもそれが仕事になります。

 

Spring Step : 森田さんのご実家のお母さまは地元でセミナーをされたり、ケアサービスのチームと作って活動されているそうですね。

 

森田さん : そうなんです。定年後に植物療法を学び、80歳になった今でも月に6日間、計100人にセルフケアセミナーを有料でやっているんですよ。精油などの物販も入れればさらに追加の収入があるというんです。

 

Spring Step : すごいですね! ケアのサービスというのは?

 

森田さん : セミナーで学んだ人たち、これも高齢の方たちばかりなんですが、少しでも知識のある人たちでいくつかのチームを作って、どこかで誰かが腰が痛くて動けないという情報が入ると、そのチームで精油の入った薬箱を持ってマッサージやケアに出かけるんです。それについては“臨床だから”と言ってお金は取らない。マッサージしながら、息子が最近顔を見せないとか、猫が来るようになったとか、そんなよもやま話も。戻るとノートに、日時と名前、その症状に対してどんな精油を使用したかとか、息子が疎遠、といった情報も含めて記録するんです。立派なカルテですよね。高齢者が高齢者に対して、こんなことができるんです。

 

Spring Step : 高齢の方でも、人の役に立っているという実感がもてますね。

 

森田さん : やればやるほどやり甲斐を感じて、どんどん元気になっていきますよ。80歳で「やっぱりローズのオイルは気分が上がるなあ」なんて言ってる(笑)。世の中にはいろんな学びがあるし、さまざまな知恵やテクニックを身につけるといいと思うけれど、植物が教えてくれることは確実に、自分も周りも変えてくれます。

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2行でいいから書き留めて観察してみる

 

Spring Step : 食べることから、人にケアすることまで、植物療法には実にさまざまなステージがあることがわかりました。そんな植物療法を始めるうえで、誰でも実践できるような簡単なことをひとつ教えてください。

 

森田さん : 5秒でできることなんですが、植物療法を試した結果を、1行でも2行でもいいから書いてみること、そしてそれを続けること。つまりごく簡単でいいから記録することです。例えば、眠れない人はバレリアンのお茶を飲んでどうだったか、シミを薄くしたい人ははと麦を食べたとき、どうなったか。イエス、ノー、○、▲、×の記号だけでもいい。やった結果を書いてみること。これを続ける、というのを意外と皆さんやらないのです。

 

Spring Step : そんなに簡単なことでいいんですか。

 

森田さん : 簡単ですが重要なことなんです。女性誌やヘルス雑誌などで植物療法に関してのさまざまな取材依頼をいただきますが、毎年毎年、同じ不調や悩みなどの特集が組まれている気がします。もちろん新たな読者の方が読んでいると思うので、できるだけ丁寧にお答えするようにしていますが、これはせっかく公開されているいろんな方法や情報を実行し、継続することが意外と難しいということの表れなのかとも思うのです。ただ記事を読んで、頭では「あ、こういうことをやったらいいんだな」と思っても実行していないのではもったいないですよね。

 

Spring Step : メディアには私もお世話になっていますが、確かに毎年同じことを話している気がしますね。

 

森田さん : でしょう。本当に辛くて「これやってみよう」と思ったら、毎日もしくは実践するたびに書き留める習慣をつけること。これが自分の観察日記になって、変化を体で感じるだけでなく理論でも理解できるから、漠然と続けるよりも実は継続しやすいんです。小さなアクションでも積み重ねれば必ず何か結果が出ます。自分で続けることができたら、今度は周囲や家族にもケアしてあげて、それを書いてみるんです。まさに臨床、人のことの方がよくわかる場合もありますからね。観察して書き留めることで、いろんなことが見えて、体にも頭にも入ってきます。

 

Spring Step : 自分をどれだけ自発できるか、そうでなければいつまでたっても「何を使ったらいいですか」と人に尋ね、雑誌の特集の文字を追うだけに終わってしまいますね。

 

森田さん : 植物が優しいなんてうそです。私はそのしたたかさが好きで今の仕事をやっている。その世界を少しでも知ってほしい。金魚鉢の中の金魚が、広い世界を見なくちゃといきなり大海に出ていくのは怖いし不安ですよね。ならばまずは金魚鉢のまま、海に入ればいい。金魚鉢の中からしばらく海を見て過ごして、慣れてきたな、いけるなと思ったら金魚鉢をゆっくりと傾けて、今度こそ広い海へ泳ぎ出せばいい。そんなイメージです。いきなり大きなことをしなくても、いつかは自立するつもりで、できることからやってみてほしいなって思います。

 

PROFILE

森田 敦子さん Atsuko Morita /植物療法士、AMPP認定・植物療法専門校ルボア フィトテラピースクール代表

客室乗務員として勤務しているときに体調を崩し、植物療法に出合う。フランス国立パリ13大学で植物薬理学を学び、帰国後、植物療法に基づいたサービスと商品の開発とスクール事業を始め、医療や介護のフィールドでも活動。またデリケートケアの提言も積極的に行い、「アンティーム オーガニック」をローンチ。著書に『潤うからだ』『自然ぐすり』(ともにワニブックス)、『自然のお守り薬』(永岡書店)など。

http://www.phytoschool.com/ http://intime-cosme.com

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