【髪を通してライフスタイルを考えるヘアアーティストにききました】“頭皮を育てる”ってどういうことですか?

Beauty Organic
2018.10.25

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髪の土壌は、人の土台

Text / Hiromi Tani  Photo / Spring Step

 

Spring Step : 松浦さんの主宰するヘアサロン「TWIGGY」(ツィギー)は長年、多くの女優さんやモデルさん、またビューティ業界のプロたちも通っています。私も長年お世話になっていますが、その人の良さを引き出すカットと、頭皮を健康にするためのヘッドスパで定評がありますね。

 

松浦 美穂さん(以下 松浦さん) : 私はヘアスタイリストですが、ファッションが好きだからこの仕事をやっていると言っても過言ではありません。美容師だった母の影響も大きいのですが、母は髪型だけでなく全体を見ていて、”この人は髪型は悪くないけど靴の高さがあっていないから、バランスが悪くて頭が大きく見える”といったことをいう人でした。私も背が低いうえに頭の形にコンプレックスがあったせいか、14歳のときには”あと2センチ髪を短くして、肩パットを入れたら顔が小さく見えるかも”と考えるようになっていました。個性を生かし、トータルでファッションを完成させるためのヘアスタイルを作るという視点が、自然と養われていたんです。髪で遊ぶために、毛髪は健康でなければならないし、その土台である頭皮はきちんと手入れされている必要があります。

 

Spring Step : 頭皮ケアの重要性も浸透しつつありますが、健康な髪や頭皮はどうやれば育つのですか?

 

松浦さん : 頭皮も髪も当然、血液からつくられますから、どんな血液を作るかによって頭皮も髪の状態も変わってきます。サラサラなのかドロドロなのか、つまりは食習慣です。肉や脂っこいものが好きな人、バランスよく肉も魚も野菜も食べている人、ベジタリアンの人。肉を食べている人のほうがうるおいはありますが、ベジタリアンの人の毛髪は強いんです。どっちがいいというわけではなく、その人の状態に合ったケアをすることが大事。TWIGGYのヘッドスパはまず頭皮チェックからはじめます。そして、その人の状態にあったそれぞれにふさわしいメニューを選んでいます。

 

Spring Step : そのひとの正解を見つけていくわけですね。

 

松浦さん : 髪も肌同様とっても敏感ですから、出産や病気といった体調の変化も影響しますし、ストレスなどの要因にも左右されます。2011年の震災のあと、体質や毛質が変わった人は多いはず。また、食べたものや体に取り込んだものは世代を超えて受け継がれるから、今の若い人たちの髪は、私たち世代に比べて細いんです。このように、髪を扱うには人として体全体をとらえていく必要があります。医学的な観点ではなく、髪を作るバックグラウンドとして、ひいてはファッションとして。だからこそ髪が見えてくるし、その人のためのヘアスタイルをつくることができる。髪が生える土壌をつくることは、人をつくることでもある。そしてヘアスタイル、つまり髪をつくることは子供をつくることと同じです。血液をつくることだから。

 

Spring Step : とても神聖なものに思えます。

 

松浦さん  : まさにその通り。「髪」と「神」と「紙」って音が一緒なのは偶然ではないんです。巫女が「神」の仕事に従事するときに、「髪」の一部を切って「和紙(紙)」に包んで奉納するように、密接に関連しているんですね。一方で仏の世界に入るにはその髪を剃ってすべて捨て去る。髪はその人の食習慣や生活習慣の歴史であり、

“浄のもの“とされるからです。「過去」を一掃して仏の世界に入るのだそうです。だからこそ、サロンにご来店いただいた方々のヘアカットは「楽しむ」ことが流儀と考えています。身体の一部でもある「髪」を「遊ぶ」心がなかったら、触らせてもらう意味がないと私は思いますね。

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心を読んでヘアスタイルを仕上げる

 

Spring Step : 松浦さんにとって、“髪を遊ぶ”とはどういうことなんですか。

 

松浦さん  : 頭皮は自分の土台。でもそこから生える髪はファッションの一部として遊び心があっていいと思うんです。カットやカラーやパーマでいろんなことをやってみればいい。カラーを入れるにはいったん色を抜いて、そこから染めてとかなりのダメージですが、根元(頭皮)に薬液を付けずに、髪だけを染めることも可能です。さらに髪は自分の過去だからいつでも切れるものですし。私は洋服でもちょっとアヴァンギャルドだったり、崩したデザインが好き。でもマテリアルは着心地のいい自然素材がいい。アヴァンギャルドを入れることでシンプルやシックが際立ちますよね。自分自身が小さいので当たり前のサイズ感だとこじんまりとしちゃうから、どこかで遊びたいんです。コンプレックスから生まれる発想もありますね。

 

Spring Step : 松浦さんのカウンセリングは「今日どんな感じ?」から始まりますよね。私は松浦さんにカットをしてもらうたびに、いろいろな気づきや発見があります。

 

松浦さん  : わずか1センチ、いえ5ミリで、その人が今を感じられるように真剣にカットします。まずその日のスタイルを見れば、心境や気分がわかる。ファッションはその人がどう見えたいかを表現していますからね。ちょっと冒険してみたいとか、今ひとつ気分が上がらないからあまり大きく変えたくないとか、あの人みたいになりたいとか。そんな心のひだをめくりながら、それならこうできる、これくらい切れる、次回大きくチェンジするためにこうしておこうといったアイデアをたくさん出すんです。カットやカラーが的確にキマることは当然、でも私たちの仕事はそうしたテクニックではなく、心のなかを読み取ることかもしれない。

 

Spring Step : 私が前髪を切ってもらったときもドンピシャのタイミングでした。

 

松浦さん  : 抜け毛がやや多かった時期でしたね。前髪の下には“第3の目”がありますから、意志やメンタリティと強く関わっているんです。エネルギーを貯めているときは前髪を伸ばして第3の目を出し、「目で見える現実だけでない『感』を養う」と考え、「流れを変えたい」と思ったときにはバッサリ前髪を切って第3の目を隠す。そして現実をしっかり見据え、流れに乗る! さらに“エネルギーアップ”させたいときにもっと短く前髪を切って、第3の目をピカッと光らせる。「現実」に「第6感」が加わって、エネルギーアップ……なんて、ね。

 

Spring Step : なかなかそんなことを言ってくれるヘアスタイリストさんはいないから、皆“ツイギーアディクト”になってしまうんですね。

 

松浦さん  : スタッフ全員が頭皮もちゃんとチェックできるし、アドバイザーでもあります。おっしゃるようにTWIGGYのカウンセリングは独特で、そこにもマニュアルはありません。お客さまと“交信”しながら、一人ひとりにそのときそのときで向き合っていくしかないんです。

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オーガニックができること、できないこと

 

Spring Step : 松浦さんは、ご自身で有機栽培米を育てたり、国産にこだわったナチュラルのヘアケア製品「ユメドリーミン」も作られています。

 

松浦さん  : ここ数年は“オーガニックの権化”のように言われ、体にいいことしかしていないと誤解もされることもあるようですが(笑)、ヘアサロンは化学と科学の世界。どっぷりとケミカル発想からスタートしていますし、私自身、若いころは生活もめちゃくちゃだったんですよ。連日、お店が終わったあとにディスコで夜通し踊ってお酒飲んで、明け方に油ギトギトのラーメン食べて。お酒は今でも好きですけれど、当時は量も相当飲んでたなあ。

 

Spring Step : えっ、毎日。

 

松浦さん  : そう。血液ドロドロですよね。時は’80年代から’90年代、28歳で出産した長男は重度のアトピー。けれどその14年後に産まれた長女にはアトピーも何もないんです。その間に生活を変えて、体を作り直したから。だから二人の子供たちは、性格も性質も体質も体格も全然違うんですよ。2回の出産を通して、食べ物が人を育て、土壌が髪を作るということを実感しました。

 

Spring Step : 出産を機にオーガニックライフを始められる方は多いですね。

 

松浦さん  : けれど、オーガニックだからいいというわけではないと思うんです。息子のアトピーに加え自分でも喉の病気を患い、選択肢のひとつとして自然療法を試しました。エキナセアやマヌカハニー、プロポリスなんかで喉をケアしたけれど、調剤薬を処方したら一発で痛みが治まった。ホメオパシーやフラワーレメディ、精油などあらゆることにトライしましたが、息子のアトピーは漢方でも治らず、痒くてかきむしるのでベッドにしばりつけたこともあった。ステロイドや化学療法は、使わなくてすむならそのほうがいいと思うけれど、使いようだと思うし、ナチュラルな治療法一辺倒では、危険なこともあると思います。

 

Spring Step : オーガニックや自然療法を手放しで礼賛されているわけではないんですね。

 

松浦さん  : 時折「中庸」であることを意識するのです。食生活をオーガニックの食材を基本としてベースの身体をつくり、それを確認してから再度、抗生物質や対処療法などのケミカルなアプローチも取り入れるようになり、これまでにナチュラルとケミカルを2往復くらいしています(笑)。だからこそ、今、中道を歩いている。両極端に傾いてはじめて、真ん中の道がわかるんです。

 

Spring Step : その人に合ったやり方があるわけですね。

 

松浦さん  : 私はそのために3日、3カ月、3年を目安に、いろいろなことを試します。とりあえず症状を鎮静させないといけないから3日間だけ抗生物質を使うとか、3カ月肉を抜いてみるとかね。3年間オーガニックライフを続けたら、体も髪も確実に変わります。無農薬で土壌作りからはじめて干支が一巡する12年間お米作りをしたことで、「オーガニック」とはどういうことかを体感できました。まさに「土」と「水」の発酵でした。

 

Spring Step : 髪の土壌である頭皮づくりも同じなのでしょうか。

 

松浦さん  : まさに、土にも頭皮にも常在菌の働きが重要です。頭皮は肌に比べて毛穴が大きく、経皮毒の吸収率も高い。私のヘアケアブランド「ユメドリーミン」はクリーンで安全な仕様でつくっています。なので心からお勧めしています。でもケミカルは進化して製品の使い勝手もどんどんよくなる。そこに追いつけるようなナチュラル製品をつくりたい。でもカラーやパーマもサロンには必要で、そこはケミカルの力も必要です。その人スタイルをつくるために中庸な見解をもったアドバイザーでいたい。人が幸せになるためお手伝いをする仕事ですから。

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「イメージすること」から始めよう

 

Spring Step : 自分に合ったものを見つけ、時代を心地よく生きるために、誰でも実践できるようなステップを教えてください。16歳のお嬢さんにもできるような簡単なことを。

 

松浦さん  : まさに娘によく言っていることなんですが、「イメージすること」。

 

Spring Step : 成功をイメージするということですか。

 

松浦さん  : そうです。まずはイメージング。やっていること、やろうとしていることに対して“必ずうまくいく”と強くイメージすること。ギターをやりたいといって習い始めた娘に“弾き終わったら聴いている人が明るく笑ってるよ”と言い聞かせるんです。これはサロンワークにも生かされること。新しい髪型を提案するときに、その人はやったことがないわけですから、絶対に似合うはずという強いイメージを持たないと、バシバシッと切っていけません。その方が新しいヘアスタイルで笑っている姿を想像するんです。それには鍛錬も必要。短い時間でちょっとだけ瞑想するとかね。

 

Spring Step : 強くイメージするとそうなることってありますよね。

 

松浦さん  : イメージできたら次は、「手を合わせること」。イメージしたことが本当にうまくいったら、ご先祖に、宇宙に、すべての存在に手を合わせるんです。祈る気持ちってとても大事。

 

Spring Step : 現代版のラブ&ピースですね。

 

松浦さん  : そう、感謝の気持ちがないと最後でつまずきます。ここに至るまでにいろんな振り幅でやって来て、今がある。これからもずっといいカットをしていきたいし、丁寧に仕事をしていきたい。ファッションは私の原点で、フォトグラファーやスタイリストさん、メイクさんたちとチームを組んでクリエイティブを作っていくことが好きだし、真っ白なモデルに色をつけていくのが何よりの喜び。クリティティブのプロセスとして文脈が必要で、そのために人生の経験をし、旅にも出る。ファッションはその時代のカルチャーを反映していますからね。その経験をさせてもらえたことが、私にとってのオーガニックライフ。すべてはリンクしているんです。そして、そのことに常に手を合わせています。

 

 

PROFILE

松浦 美穂さん Miho Matsuura /ヘアサロン「TWIGGY」オーナースタイリスト、クリエイティブディレクター。

美容師、ヘアメイクアーティストを経て渡英。1990年に帰国し、「TWIGGY」をオープン。サロンワークのみならずモードに精通したヘアアーティストとして雑誌、広告、ショーな度で活躍。2011年、国産原料によるヘアケアブランド「ユメドリーミン エピキュリアン」を発表。個性に応じそれを引き出すためのライフスタイルを、ヘアとともに提案している。著書に『どこから見ても美シルエット! 』(マガジンハウス)がある。

 http://www.twiggy.co.jp

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