【とびきりの笑顔をもつスタイリストにききました】心底つらいとき、どうやって乗り越えたらいいですか?

Lifestyle Special Interview
2019.02.28

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今、まさに直面している人生最大の壁


Text / Hiromi Tani  Photo / Spring Step

 

Spring Step : スタイリストとして、またファッションのコメンテーターとして雑誌やWEBなどでお姿をよく拝見します。スタイリングのセンスも抜群ですが、その素敵な笑顔に魅了される読者も多いとお聞きしています。

 

辻 直子さん(以下 辻さん) : ありがとうございます! でも実をいうと私、この1年くらいの間にいろんなことがあって、心身ともにバランスを崩し、かなりきつい時期を過ごしていたんです。

 

Spring Step : えっ、そうなんですか!? 

 

辻さん : いつもと変わらず、普通に過ごしているように周囲には見えたと思います。でも体も仕事もプライベートも最大の壁にぶち当たっていたというか……。落ち込んだり、こんなに涙って私の中にあったのかな、と思うくらい、たくさん泣いていました。突然体調を崩し始めて、もう体じゅうにありとあらゆる不調が噴出。いろんな病院に通って、もう無理かも、限界かも、壊れちゃうかも、というところまでいきました。結果的にはひとつひとつが重篤だったわけではないんですが、もうこれで終わるかなって思うとまた次がやってくる。苦しいことってこんなにも続くものなのかと泣いてばかりで、出口のないトンネルの中にいるようでした。これまでの私なら、泣いても3日経てばケロっとして、チャンネルをすぐに変えることができたんですが、今回ばかりはもう心も体もボロボロに疲れ果てていたんです。

 

Spring Step : そんなにつらかったんですね……。まったくそのようにはお見受けしませんでしたが……。

 

辻さん : そうですね、いつも笑っていたかったし、そんな姿をきっと見せたくなかった。見せられなかったのかもしれません。20歳くらいの頃、人生で初めての壁にぶつかったことがあるんです。今でもはっきり覚えていますが、自分と丁寧に向き合うことで見えてきたことがあって、その方向を真っすぐ見つめて、ここまでやってきました。今回のダメージはそれ以来の、そして当時とは比べものにならないくらいメガトン級のもの。私は私なりに真面目に生きてるし、人のことを悪くいったりしないし、それなのに何でこんな目に遭うんだろうって弱気になって。そんなどん底で、私の中にあるもうひとりの自分が顔を出してきて、自分に起きていることを俯瞰して見渡したら、笑えてきてしまったんです。

 

Spring Step : 笑えた?

 

辻さん : そう。なんなのこれ、ありえないよね! って(笑)。だって、仕事もプライベートもどう進めばいいかわからないし、原因不明の高熱が治ったと思ったら次は喘息や胃腸炎、婦人科系疾患にインフルエンザ、でぎっくり腰、これほんの一部ですよ! 今までにないそんな状況が、だんだん面白くなってきちゃって。目の前に仕事が山ほどあるし、明日も明後日も撮影だし、本当にシャレにならない、もう笑うしかないし受け止めるしかない。何とかなるさーってやり過ごすしかない、そう腹をくくったんです。何がきったけだったわけではないですけど、ひとつひとつバラバラだと思っていた不調やトラブルが、実はすべてつながっているんだなって、徐々に思えるようになりました。今起こっているすべてのことは私にとってすごく必要なことだし、起こるべくして起こっているって思えたんです。

 

Spring Step : そんなヘビーな体験のなかで、気づきがあったのですね。

 

辻さん : そうなんです。もしかすると、これをちゃんと経験しないと自分の行きたいところに行けないのかもって。今これを受け止めて、自分と対峙しないと、これまで通りの時間が流れる。今私は、パンチのあるさまざまな出来事に一気に直面しているけれど、まだ自分に足りないものがあって、もうひとつ上のステージに行くために必要なプロセスなのかも。目が腫れるくらいたくさん泣いたあとに、そう思えたんです。つらさが癒えたわけではないけれど、そこから気持ちが柔らかくなって、行き先が見えてきました。

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手抜きではなく、質を上げるためのペースダウン

 

Spring Step : 身をもって、貴重なご経験をされたわけですね。

 

辻さん : まだそのトンネルから抜けきったわけではなくて、学びの途中。あともう少し! って。今年はギアを入れる練習をしようと思っています。ずっとアクセル全開で走ってきたから、使い方がONとOFFしかわからなくて。ギアを使って緩やかにシフトチェンジできるようにしたいですね。それができれば、もっと笑顔でいられると思うんです。

 

Spring Step : ニュートラルのギアなんかを使えるといいのかもしれないですね。

 

辻さん : 気持ちとしてはもちろん常にフルアクセル。40歳も過ぎて今回の試練もあって、もう少し違うやり方も知っておくといいのかなと思うようになりました。仕事って常にいろんな案件が同時進行で、集中が途切れることがない。年齢とともに体力は落ちるかもしれないけど、質は上がり、効率もよくなってきますよね。だからペースを変えてもいいのかなって。

 

Spring Step : 質を上げるために時間をかけて取り組むと、必然的に仕事量は下がります。けれど生産性が落ちるわけではないですよね。そのことを、手を抜いてるとして自分を攻める女性が、少なからずいるように思います。

 

辻さん : まさに私もこれまで、自分のわがままで手抜きをするようでとても抵抗がありました。でも決してそういうことではなくて、ペースダウンして質を上げたということ、そしてそのほうがきっと、いいパフォーマンスがキープできるんです。幼い頃、いつも父から“緊張しなくていいんだよ”っていわれていたのを思い出します。ずっと真っ向から勝負してきたけれど、もう少し自分の経験を信頼して、肩の力を抜いて進んでいきたいって思うんです。

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臆病で大胆な自分を認めてあげたい

 

Spring Step : ご自身ではつらかった時期が続いたわけですが、それを人に相談したりされたのですか?

 

辻さん : そうですね、ごく数名の友人たちには。もちろん力にもなってくれたけれど、何よりわたしが立ち上がるのを見守っていてくれていたのは感謝しているし、すごく嬉しかったです。仲良しが100人いるよりも、自分の深いところまでわかってくれる人がひと握りいればいいと思う。

 

Spring Step : 日本の女性の中には、グループを作ったり、どこかに属していることで安心感をもつ人もいますね。

 

辻さん : 私の場合は、自分がカテゴライズされるのはあまり好きじゃないんです。だから周囲の皆のことも柔軟な目線で見ているつもり。どんな仕事で何をしているか、結婚しているかしていないか、家族や子供がいるかどうかとかって、その人のひとつの側面でしかない。だから私には10代の友達もいます。その子たちからもらえるヒントが豊かだったり、気づきがあったりしますよ。表面から見えていない側面に、どれだけ面白いことが隠れているかわかりませんよね。

 

Spring Step : 型にはめてしまうのはもったいないですね。

 

辻さん : 私自身は臆病で大胆。両極のようだけど、どちらももち合わせているんです。いつもドキドキしながら「私にはこんなこと無理かも……」と怖気づいてる一方で、「できるできる! 余裕でしょ」とささやいてる自分がいる。背反しているようだけど、どっちも私の中の自分なんです。

 

Spring Step : なかなかそういう方はいないかもしれませんし、決してカテゴライズできないですね。

 

辻さん : 年齢も同様で、ただの数字だとしか思っていなくて。社会的には必要な概念かもしれないけれど、年齢を絶対視して、とらわれたり縛られたりするのは寂しいなって感じます。生まれてからの時間の経過をひとくくりに語る「年齢」と、一人ひとりが年を重ね、経験値が積み重ねることは別のことだと思うので。

 

Spring Step : 何歳だからということよりも、辻さんが今「次のステージに向かうタイミングが来ている」という実感の方が、100%リアルですね。

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無常だと思うから、絶対と思う目の前のことをひとつずつ

 

Spring Step : まさに今、次のステージへ向けて動きつつある辻さんから、同様にいろんなことを乗り越えて変わりたいと思っている女性に向けて、アドバイスいただけることはありますか。

 

辻さん : 今、この瞬間に、自分が絶対と思うことを、ひとつずつ目の前に積み重ねること、でしょうか。永遠の絶対はありえないし、万人にとっての絶対もない。何ごとも無常だと思う。でも、その人のそのときに必要なものがあります。それを見逃さずに大切にすること。考えて、ときに実行してみること。それを地道に、丁寧にやっていけば、八方ふさがりで出口が見つからないときでも、きっと光が見えると思うんです。

 

Spring Step : 真っ暗な中で、辻さんはそのようにして道を見つけられたわけですね。

 

辻さん : 行き詰まったときに、あちこちこんがらがった毛糸を一度にほどこうなんて考えると、余計にからまってしまうから。1箇所や2箇所なら難しくないけど、歳とともに、からまり方もいい意味で複雑になりますよね。自分に正直になって、まず目の前の、いちばん近くにある結び目をほどいてみる。できたら次の毛玉に取りかかる。それをやっていくしかないのかなって。近道はないんです、きっと。それも今、その人に必要なプロセスだから。

 

Spring Step : そんな場面に直面している方がたくさんいるでしょうね。

 

辻さん : そうですね。そうして、心から本当に笑っていられるといいですよね。私の場合は、ずっと変わらない大切な軸が“笑顔”。笑顔でいることができれば前に進んでいけるのを知っているから、まずは、心から笑っている時間が多くあるといいなと思っています。実は泣き虫ですぐ泣いちゃうんですけど、次の瞬間に楽しいことがあると、もうケロッと忘れてカラカラ笑っている。それも私なので!

 

PROFILE

辻 直子さん Naoko Tsuji /スタイリスト

多くの女性ファッション誌のほか、CMやブランドのディレクションなどで幅広く活躍。女性らしさを失わない、コンテンポラリーなスタイリングは、働く女性たちから絶大な支持を集める。著書に『6割コンサバの作り方』(集英社)、『おしゃれの想像力』(幻冬社)など。

Instagram  @naoko.ts

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