【出版界の「SDGs切り込み隊長」にききました】自分が地球のためにできることはありますか?

Lifestyle Ecology
2020.04.16

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FRaUがつくった SDGsの大きなムーブメント

Text / Hiromi Tani  Photo / Michika Mochizuki

Spring Step : 関さんは2018年12月に初めて『FRaU SDGs 世界を変える、はじめかた』を編集長として発行され、1冊丸ごとSDGs*1(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)を特集して話題になりました。翌2019年10月には『FRaU SDGs MOOK OCEAN 海に願いを。』と題したムックを、同年12月には再び特集号『FRaU SDGs 世界を変える、はじめかた。2020』を刊行され、SDGsをわかりやすく啓蒙したことで注目を集めています。

 

関 龍彦さん(以下、関さん) : ありがとうございます。さまざまなところで取り上げてもらったり、話題にしていただいて、着実に輪が広がってるのを感じています。最初の号のバックナンバーはいまだに売れ続けていますし、今年6月に次の特集号も予定しているんですよ。

 

Spring Step : 地球環境問題が深刻化して、誰もがリアルな問題として捉える時代です。ファッションやビューティの情報を雑誌で得ている女性たちも、サステイナブルなトピックやSDGsの話題に関心があったわけですね。

 

関さん : その通りです。専門的な知識をもつ人や地球環境に関して問題意識のある人だけでなく、トレンドに敏感な生活者である読者に受け入れられたのだと思います。「こういう雑誌を待っていた」「知りたいことが満載で隅から隅まで読んだ」「SDGsに興味があったけれど、初めて自分が読めるものが見つかった」といった好意的な声が寄せられています。読者にプロジェクト会員として登録してもらうシステムをとっているんですが、会員を集めたイベントで、このFRaUがきっかけで再生可能エネルギーの電力会社や環境系のNGOに転職したという方もいて、さまざまな形で影響があったことが判明しています。

 

Spring Step : 読者の人生まで変えてしまったということですね! 関さんご自身は『FRaU』のほか『ViVi』『VOCE』と女性誌や美容誌を手がけられてきたわけですが、SDGsを題材にしてプロジェクトをはじめようと思われたのはどうしてですか?

 

関さん : ファッションやビューティ、エンターテインメントにフィーチャーしてきて、それらはとても面白くてやりがいもあるトピックですが、“楽しい”とか“きれいになれる”ということは別のベクトルで、社会や地球のための発信ができたらと考えていました。そんなときに出合ったのがSDGsというテーマだったんです。弊社にはいろんな雑誌がありますが、FRaUはワンテーマ型の女性誌。大部数ではないものの、1冊丸ごとSDGsというのにインパクトがあるのではないかと思いました。今の時代、デジタルマガジンとかWEBマガジンというスタイルもありますが、あえてこのテーマを紙の雑誌でやったことにも、意味があったと考えています。

 

*1 :「SDGs(エスディージーズ)」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月に国連で開かれたサミットで決められた国際社会共通の目標で、「17の目標」と「169のターゲット(具体目標)」から成る。

詳細はこちら→ 外務省公式サイト

 

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メディアが地球のためにできること

 

Spring Step : FRaUという女性誌でSDGsをテーマにするにあたって、企画や制作の段階で困難はありましたか?

 

関さん : 難しかったということではないのですが、「エコとかSDGsのような取り組みって“意識高い系”の人がやるもの」とか「チャリティって富裕層のものですよね」という声がつきまとったのは事実です。けれど実際に取材して掘り下げてみて、決してそういうことではないと確信しました。一部の意識のある人や一部の経済的余裕がある人だけがやってもだめ。社会に生きる我々すべてがやることだし、全員でやらないと解決しない問題なんです。

 

Spring Step : 確かに、全員で行動を起こさなければならないことですよね。そのように意識がシフトしたきっかけは?

 

関さん : いち早く地球環境問題に危機感をもってSDGsに関わっていた方たちが、僕たちの話を聞いて“メディアの力”を信じてくれたんですよね。僕たちメディアが動くことによって、僕らと彼らの間にいる、行政や企業や個人が動く。それを実感しました。このテーマに取り組んでみて強く思うのは、個人も企業も行政も国も、どこが欠けてもだめだということ。国が必死にリードしたとしても人がついてこなければ意味がないし、草の根的に一般市民がバズを起こしても、自治体や企業が動かなかったら具体的なことは実現しない。この国だけでなく世界中が同様で、どこかに所属する一部のプレイヤーがやればいいというものではないんですね。

 

Spring Step : それに気がついている人も増えているでしょうし、このFRaUを読んだ方たちがまさにそう思っているのではないでしょうか。

 

関さん : FRaUがそうしたきっかけ作りにひと役買ったのかなという気はしています。SDGsに関するプロジェクトや取り組む機関、人は広がりつつありますが、FRaUがはじめたのを機に潮目が変わったといってもらえたりします。今ではいろんな業界のいろんな方からお声をかけていただき、日々、ミーティングをもったり、意見交換をしたりしているんです。農水省や環境省、外務省といった省庁の方、教育機関の方、金融関係の方など、通常、女性誌の取材活動ではなかなかお話をすることのない方々ともお会いして、何かやりましょうという話をしています。想像していたより何倍も大きなうねりになっていますね。

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プロフェッショナルが本気になってこそ持続可能な取り組み

 

Spring Step : この『FRaU SDGs』を通して、関さんが目指すものは?

 

関さん : 読んだ方が「自分にもやれることがある」と思ってもらうこと。気づいてもらうこと、意識を変えてもらうことが何より大事だと思っています。

 

Spring Step : 具体的にはどのようなことですか?

 

関さん : SDGsに参加しようと思ったら、2つのやり方があります。ひとつめは、自分の生活、つまりプライベートの中で実践する。レジ袋を断るとか、マイボトルやマイ箸をもつといった、自分自身ができることを粛々とやる。そしてもうひとつは、自分の本業、つまりプロフェッショナルな部分で取り組むことです。主婦の方だってもちろん家事や育児など家庭を差配するプロフェッショナル。ここがすごく大事で、僕は、SDGsは本業でやらないと意味がないと考えています。たとえば飲料のメーカーなら、主力商品の飲料事業の開発や製造の中でそれをやるべき。主たる産業じゃないところ、たとえば健康食品事業もやっているとしてその中でちょこっとやってます、というのは単なるポーズでしかなく、それでは何も意味がない。今、世界は紛れもなく危機の渦中にあって、プラスチックゴミをなくそうといっても生半可なことでは実現しません。その道のプロたちが知識の粋を集めて本気で考え、イノベーションを生まないと解決するはずがないんです。

 

Spring Step : なるほど、皆さんが自分の本職の領域で、本気になってやるということですね。

 

関さん : そういうことです。たとえば僕の本業は編集者で、プロとして雑誌を作っている。その分野で力を尽くしているわけです。地球環境問題を踏まえ、できることをやろうと思ったときに、多くの人がギャップを感じると思うんです。温暖化ストップといいたいけれど、飛行機にも乗るし、牛肉も食べる。100%コミットすることは、普通の生活者には無理で、相反することが必ず出てくるんですよね。僕のいる出版社は1冊の書籍や雑誌を作るために、大量の紙を消費します。だからといってFRaUを作ることが悪なのか、作っちゃいけないのか。いやそれは違う。やれないことがあるのは、やらない理由にはならないと僕は思う。 SDGsに取り組みたいけど、自分自身はエコな生活をしていないから、というのは言い訳でしかありません。それならば、いえ、だからこそ、自分の本業の部分で本領を発揮すればいいと思うんです。

 

Spring Step : それこそがサステイナブルですね、得意なことだから続けられる。

 

関さん : そうなんです。実は自分だって、プライベートではEV(電気自動車)でなく普通のガソリン車に乗っているし、エコバッグを忘れてレジ袋をもらうこともある。そういうことに矛盾を感じて悶々としていた時期もありました。でも、本業でがんばろうと思えるようになって、ラクになりましたね(笑)。でも最近ね、コンポストを始めたんです。デニムバッグのようなすごくおしゃれなコンポストを見つけてね。これまでごみだと思って捨てていた野菜の切れっ端や魚の骨が肥料として生まれ変わると思うと、すごく嬉しいものですよ。

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はじめの一歩−−お金の使い道を考えてみる

 

Spring Step : 『Spring Step』の読者の中にもSDGsに興味をもっている方がいます。そうした皆さんに、こんなことからはじめてみよう、という提案をしていただきたいのですが、地球のために誰もができる簡単なことを何か教えていただけますか?

 

関さん : そうですね、「お金の使い道を考えてみる」というのはどうでしょう。お金を使うということは、自分が支持し、共感することへの投票。そのことに価値を認めて対価を払うということです。自分の消費が地球を救うことにつながるかもしれない、そんなお金の使い方を探してみるといいのではないでしょうか。

 

Spring Step :  なるほど、たとえばどんなことが考えられますか? 

 

関さん : 環境を考えた投資ファンド「グリーンファンド」といった金融商品を買ってみるとか、エコな事業に寄附や募金をするとか、支援したいと思う国の国債を買うとか。いつも買うスーパーの野菜ではなくてマルシェで有機の野菜を買う、でもいいし、化学繊維の衣服ではなく、オーガニックコットン素材の製品を選ぶのでもいい。自ら考えて、“地球のためにこういうお金の使い方をする”と自分が思えればいいと思うんです。一般的な商品より100円高いかもしれないけれど、100円分の気持ちよさがあるし、その分、自分はいい選択をしているんだという心地よさが得られるわけですから。

 

Spring Step : それは素敵ですね! そういう選択をする人がいることによって、経済が回る仕組みができるといいですよね。エコロジーを考えてやっている事業主がいて、それを選ぶユーザーがいて。

 

関さん : 経済界では、 SDGsによって新たなビジネスチャンスが広がったとされている んです。例えば、投資手段として注目されている「ESG投資」。 環境(Environment)や社会(Social)、 ガバナンス(Governance)を考慮した投資手法ですが、 これらの要素が持続可能な企業経営につながり、 ひいては長期的に優れたパフォーマンスを生むと評価されているん ですね。 そうしたサステナビリティを考える企業や団体は増えていて、 そういう事業主こそプロフィットを得られるべきだと思います。

 

Spring Step : 同じ業界の人たちが、ひとつの目標をもってやれたりするといいですよね。

 

関さん : これからは共創、地球に暮らす私たち皆が“共に創っていく”ことを呼びかける時代。FRaUが主催する共創会議にも、高校生や企業の幹部や若手ビジネスマンやフリーランスの活動家の方など、あらゆる年代、あらゆるジャンルの皆さんが集まって、海のプラスチックごみを減らすにはどうしたらいいかを、立場関係なく時間も忘れて話し合っているんです。SDGsは誰もがフラットに対峙でき共通目標なんですね。

 

PROFILE

関 龍彦さん Tatsuhiko Seki 

『VOCE』『FRaU』の編集長を歴任。現在は女性コンテンツ プロデューサー兼 『FRaU』プロデューサーとして SDGsに関するトピックを陣頭指揮する。

ツィッターアカウント:@sekitatsu74

『FRaU』公式サイト:https://gendai.ismedia.jp/frau

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