京都の老舗西陣織のメゾンが見た、伝統技術の未来

Way of living Lifestyle Green Tech Ecology Special Interview
2019.11.21

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西陣織1200年の歴史が、世界に広がった瞬間

TEXT: Spring Step / PHOTO :  HAL KUZUYA

Spring Step :  細尾さん、お久しぶりです。今日はここ烏丸御池にあるショウルームにお邪魔していますが、ここは9月にオープンされたということで、本当におめでとうございます。


細尾さん : ありがとうございます。


Spring Step : まず、「細尾」について少しご紹介いただいてもいいでしょうか?


細尾さん : もちろんです。「細尾」は元禄元年1688年に西陣織の織屋として創業しました。お坊さんの袈裟を織る仕事をしていて、「細尾」という名前をいただいて始めたと聞いています。西陣織の歴史は1200年にも遡ります。京都の旧市街にある西陣の3キロから5キロ圏内のエリアで作られているものが西陣織です。

当時のクライアントは、天皇家、貴族、将軍、寺社仏閣。お金に糸目をつけずに、美しさだけを追求する人たちのために献上するテーラーメイド的なものを織り続けてきたわけなんです。だからこそ、西陣織は、西陣にしかない素材や織りの技法があって、1200年間続いてきたんだと思っています。

西陣織のDNAとは何かと聞かれれば、「ひたすら美を追求すること」だと僕は思っています。だから、西陣織は身にまとうジュエリーだと捉えています。


僕自身は、もともと家業を継ごうと思っていたわけではなくて、クリエイティブなことをやりたくて、音楽をやっていました。その後着物市場の縮小により、西陣織の需要も少なくなったことで、父が海外進出の事業に取り組み始めていたことから、海外への事業展開はクリエイティブだと思って興味を持ち、2006年に細尾に入りました。


Spring Step : 現在はディオールやシャネルなど世界の旗艦店の内装に細尾さんの西陣織が使われているそうですね。その機会はどんな風に訪れたんですか?


細尾さん : それまで、パリの展示会メゾンオブジェに出店したり、ロンドンのLiberty香港のLane Crawfordにも卸していましたが、確固たるビジネスとして成立するほどではなかったんですね。そして2008年にパリの装飾美術館で「日本の感性価値展」というのが開催されて、そこに帯を出展しました。それがその後2009年の5月にNYで巡回することになり、展覧会が終わった直後くらいに、建築家のピーターマリノ氏から連絡があって、それは西陣の技術にすごく興味があるから、壁面に使うテキスタイルの開発に使いたいという依頼だったんです。


僕は、それまでは海外に打ち出すのなら和柄でないと差別化できないと思っていたのですが、マリノ氏から送られてきたのは、まるで鉄が溶けたような、とてもコンテンポラリーな柄だったんです。そして、それを西陣織で織ってほしいということだったんです。


そこには一点大きな壁がありました。それまでの帯幅の織機では、継ぎ目だらけになってしまうことでした。そこで世界初となる150cm幅の西陣織の織機の開発に着手しました。

 


Spring Step : このお話が来た時に「広い幅は織ることができない」と答えようとは考えなかったのですか?


細尾さん : 既に日本の織物産業市場の縮小は明らかでしたし、それまで何年間か海外進出事業のためのトライ、リトライを繰り返していた経験値があったからこそ、オファーがあった時に「これだ!」と肌で感じたし、「今この波に乗らなければ!」と思ったんです。

このお陰で、和柄でなくてはならないのではなく、技術、素材を生かした作品であれば良いんだ! と大きな気づきをいただきました。だから、その世界で最高の素材を作る会社を目指そう! と大きく舵を切りました。

我々の工房長の金谷は天才肌の職人で、彼がいたからこそ、150cm幅の織機が完成したと言っても間違いはないでしょう。


Spring Step : 職人さんが織機を作るんですか?


細尾さん : はい。もともと職人は自分の手の延長として織機をいじるんです。


Spring Step : 手が機械を動かすのではなくて、機械が手の延長! それはとてもユニークな発想ですね。


細尾さん : それは、織機の由来というのが、体に糸をくくりつけて体を織機にして布を織っていたことに由来するかもしれませんね。

それから今10年ほど経ちますが、ディオール、シャネル、カルティエ、ヴァンクリーフ&アーペルなどの世界中の旗艦店の店舗の素材を作らせていただいています。

 

HOSOO Official Brand movie 

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伝統とは、壊しても壊れない本質を持つ。

 

Spring Step : 今回細尾さんにお話を伺いたかったのは、私は「伝統は究極のサスティナビリティー」だと思っているんですね。同じことをリピートしているだけでは伝統って終わってしまう。だからアバンギャルドさ、それはある意味時代の先端をいくことで時間を超えて続いていくのではないかと思うんです。伝統の特殊な技術を守り、盛り上げて、継承していくことは、自然と地域の還元になっているはず。時と人が変わっても伝承されていくことに、サスティナブルさを感じるんです。

 

細尾さん : まさにその通りです。

「伝統を守る」ということは、伝えられてきたことを変えないことだと考える人もいます。僕は逆説的に考えていて、時代は常に変わっていて、その変わる時代の中でどうやって変わらないポジションを守っていくかということだと思うんです。それは時代に合わせて変わり続けていくことだと思います。

100年経っても生き残り続けるものは何かと考えると、ダーウィンの進化論のように最強のものが残っていくのではなくて、時代の流れに沿って、変化し続け、変わり続けるものが残っていくと思うんです。

僕は、むしろ変わらないことの方が怖いことではないかとさえ思っています。

 

 

 

Spring Step : 確かに。必要なくなるものは無くなりますよね。会社でも同じことです。

 

細尾さん : はい。伝統は生き物のように変わり続けます。また伝統には変な引力みたいなものがあると感じています。それは固定観念なんかに関係しているのかもしれませんが、良かった時代はもうとっくに終わって時代は変化しているのに、それでもどんどん取り残されていく引力があるんです。時代とのギャップが大きくなることで、最後には滅んでしまう可能性を孕んでいます。そこに引っ張られないようにするには、どれだけコントラストを持って、そこからジャンプできるかだと思っています。

またそれは、どれだけ伝統を壊せるかということであったりもするんです。伝統には、どれだけ壊しても壊れない基礎と強さがあります。伝統を信じるならば、伝統を壊して、そこに残ったかけらを持って次の未来につなぐこと。それでも残るものが伝統であると僕は思います。

周りを常に壊し続けていっても、揺るぎない本質があるのが伝統です。新しいものを取り入れても壊れない強さがあるんです。

 

 

でも、常に叩きながら、本質を確かめ続けることは重要です。放っておくと、どこが自分の現在地なのか見失います。

僕らは、西陣織を「素材」と捉え直したことで、ポジションを大きく変えました。

伝統を繋いでいくには、ちゃんと理解している人が壊して編集し直して、伝えていく必要があります。

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織物の未来

 

Spring Step : 細尾さんは、2016年からマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ ディレクターズフェローとなられていますが、私はそれを知った時本当に驚きました。日本人で世界最高峰のエンジニア達を輩出しているMITのDFなんてものすごくかっこいい! だけでなくて、でもそれが西陣織と最先端のテクノロジーの融合がテーマだと聞いて、ますます想像不可能で興味津々なんですが、どのような研究をされているんですか?

 

細尾さん : ここでは最新のテクノロジーを融合させた新しいテキスタイルの研究開発を行なっています。

僕は建築にとても興味があって、そこで考えたんです。建築の定義とは構造があって、機能があれば良いのだと。機能とは暖をとるとか虫除けとか。じゃあ、結局構造と機能があれば、織物も建築になるのではないかと思ったんです。

昔アニメのドラゴンボールが大好きだったんですけど、その時に「ホイポイカプセル」というのがあったんですが、カプセルを投げると家になるというものです。それを織物で作ってみたいと思いました。

 

Spring Step : なんと!

 

細尾さん : 1200年に渡って美を追求してきた西陣で、美しさを伴いながら機能構造を兼ね備えたモバイル性のある建築物を作ったらどうかと思ったんです。

そして、布が家になったいるところと言えば、、と考え、モンゴルで生活してみよう! と。

遊牧民はシーズンごとに遊牧して移動しながら暮らしているのですが、パラボラアンテナやソーラーパネルを立てて、子供達がYouTubeでアニメのOne Pieceを観ている姿を目の当たりにして、ある意味最先端だと思ったんですよ。自分たちが必要な情報とエネルギーだけを取り込み、環境にもノーダメージ。これはとても未来的に見えました。

 

Spring Step : そうですね、とても根源的な生活の姿に思えます。

 

細尾さん : 現在、ソーラーパネルを糸化するベンチャーも出ています。昼間は美しい布だけれど、その間に太陽のエネルギーを貯めていて、夜になると発光するというテクノロジーを取り込んだ布があります。

コニカミノルタも有機ELの研究を進めていて、数年後には、有機ELをプリンターで出力できるようになります。それができて糸化できれば、布自体が発光するものを作ることができるでしょう。

 

砂漠で生活していた時、iPhoneのスクリーンが明るすぎて眩しいと感じたんですね。まるで自分がストロボの強い光を浴びているような感じさえしました。しかも虫が一気に寄ってくるんです! この体験から、僕らは普段こんなに強い光の中で生活しているんだとわかったんです。本当はこんなに光は必要ないと思います。だから、発光する布で家を作ることできたら、夜は少し本が読めるような明るさの光があるくらいにできたらいいなと思っています。

構造をどうするかという部分で、人口筋肉という方法も探りながらMITと東京大学と共同開発をしています。

 

Spring Step : 細尾さんのその発想は、一体どこからくるんですか?

 

細尾さん : 完全に妄想が多いと思います。ドラえもんに出てくるのび太君みたいな感じですかね。笑

だからドラえもんを探さないといけないわけです。どうやって構造を作るか! そのためのドラえもん探しです。

モンゴルへ行く時には、アウトドアに強いスノウピークと一緒に。家の構造に関しては、東京大学、と言った具合です。

例えば、空気圧を入れて動く人口筋肉を使ったパワースーツがあります。これは布に力を与えることで、お年寄りの動きをサポートします。チューブを通して空気圧を動かすんですね。今これを応用して構造作りにならないかと研究中です。

僕はド文系なので、サイエンティフィックな方々に対してプロデュースをするという役割だと考えています。

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織物はテクノロジーの原型

 

Spring Step : 今日伺っているHOSOOの旗艦店2階にある展示室では、日本中の工房から細尾さんが自ら赴いて収集された、日本各地の美しい布が展示されていますが、この展示を見て、織物ってものすごく数学的だなという印象を受けました。

 

細尾さん : 全くその通りなんです。西陣織は明治時代に、フランスのジャガード織りを学ぶためにリヨンに職人を送り込み、立体的な織物のテクニックを学びました。それによって時代を生き延びたんですね。

それまでは、縦糸、横糸を手で持ち上げながら織っていたので、膨大な時間を要したのです。フランスのジャガード氏がそれを機械でできる仕組みを発明したのです。そして、ジャガード氏に着想を受けて発明されたのがコンピューターなんです。だから実は織物がテクノロジーの起源なんです。

 

Spring Step : 縦糸と横糸の組み合わせ、つまりゼロイチですね!

 

細尾さん : そうです。機織り機ができる前は、人間は体に糸を絡ませながら布を織っていました。それから時代とともに機織り機は進化していくわけですが、自動機織り機を生産していたトヨタは車を作るようになります。このことからも、テクノロジーの原点が織物にあることがわかります。

 

Spring Step :  なるほど。細尾さんは文系とは言っても数学的な空気で育ってきたので、サイエンティストをプロデュースするための素質をもともと持っていらしたということですね。

 

細尾さん : そうかもしれませんね。織物はエンジニアティックな世界で、レオナルドダヴィンチ的な世界を包括しています。その中から生まれる美というのを想像いただけるとわかりやすいでしょうか。

 

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伝統技術の未来への伝承

 

 

Spring Step : 今後、さらにチャレンジしていきたいことはありますか?

 

細尾さん : この旗艦店が完成したので、ここから西陣織の可能性と美を知っていただきたいですね。「伝統」とい要素がありでも、無しでも純粋に「美しいもの」を見るつもりで、多くの方に来ていただきたいです。

 

若い人たちが、好きなクリエイターの小物を選ぶセレクトの中に、伝統のものがあるっていいなと思うんです。フランスではエルメスがそういう立場にあったりする思うんですが、日本はまだまだだと思います。これからの西陣の職人のために、西陣がこの先50年、100年続いていくためには、どうやって現在を未来系に変えていくか、ということにつながるはずです。

 

西陣の3kmから5kmのエリアには、織りを完成させる20の工程のそれぞれを担うマスタークラフトマンがいます。自社で全ての工程を内製化しているのではなくて、西陣の中で代々染めをする職人さん、和紙に本金を貼る職人さんなど、この地のエコシステムが循環していないと僕らはものが作れないんです。

西陣では、現在200件の織屋さんがいます。その中でお互いにどうやって切磋琢磨して、仕組みをどう進化させていくかということが大切だと思っています。

 

僕らの行なっていることだけで、大きく流れが変わるとは思っていませんが、変わるきっかけにはなるかもしれない。細尾がやっているんだったら、俺たちもやってやろうというと他の企業も何かスタートしてくれたらいいなと思っているのです。思いが先行していますけれど。

 

 

またこれまでは、西陣織で職人の募集をしてもなかなか集まりませんでしたが、現在は募集すると一枠に10から20倍の募集人数が全国から集まってくるんです。多くの方のバックグラウンドはアートスクール出身とか、ファッション出身だったり、織物を間違いなくクリエイティブなものとして捉えていますね。織物は古いものではない。みんなの感覚の中では全然止まっていませんよ。20代の子たちが多いですが、日本の良いものを世界で勝負したいと思っている若者たちですね。

 

Spring Step : それは素晴らしいですね。これまでの細尾さんの活動の結果でしょうね。

 

細尾さん : そうかもしれませんね。またGO-ONの活動も大きく付与していると思いますし、いろんな理由があると思います。またデジタル、AIの進化によって、より人が本質的なものを求めるようになった。こういう理由もあると思っています。

伝統ってなんだろうって考えた時、紀元前からあるものを見て、過去を習うと、その分だけ未来を見ることができると思うんです。ノスタルジーではなくて、未来を作るために伝統を活用させていきたいと考えています。

 

よく伝統的なものというと「何代目」という風につながっていくじゃないですか。そこには「先代」への想いというのがダイレクトにあるんです。つまり過去をフィーチャーすることが自然にできるんですよ。それはつまり、未来を担う何代も先の当主のことも同じです。未来の当主にどうやってバトンを繋げるかを考える、そこにサスティナビリティを感じています。

そういう時間軸のダイバーシティーが存在するのも京都ならではかもしれません。

時間のレフェランスを平安時代に持っていく、とか。

 

Spring Step : それは、確かに京都ならではですね!

 

細尾さん : 京都で先端技術の研究が盛んなこともありますし、意外と京都に未来があるのは、そのおかげかもしれません。

 

 

PROFILE

MASATAKA HOSOO  細尾 真孝さん 

株式会社細尾 常務取締役/MITメディアラボ ディレクターズフェロー

 1978年、西陣織老舗 細尾家に生まれる。
細尾家は元禄年間に織物業を創業。人間国宝作家作品や伝統的な技を駆使した和装品に取り組む。
大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後フィレンッェに留学し、2006年に細尾に入社。西陣織の技術、素材をベースにしたテキスタイルを海外に向けて展開し、
建築家、ピーター・マリノ氏のディオール、シャネルの店舗に使用されるなど、世界のトップメゾンをクライアントに持つ。また、アーティストとのコラボレーションも積極的に行う。
2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の若手後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成し、国内外で伝統工芸を広める活動を行う。
2014年日経ビジネス誌「日本の主役100人」に選出。

2016年、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ ディレクターズフェローに就任し、西陣織と最先端のテクノロジーの融合による革新的なテキスタイルの開発を行う。

 

HOSOO GLOBAL SITE

HOSOO 

 

2019年9月に初の旗艦店をオープン

店舗内のギャラリースペースでは、オープニング展として「THE STORY OF JAPANESE TEXTILES―日本の美しい布―」が開催中(〜12月14まで)

京都市中京区姉小路下ル柿本町412
TEL:075-221-8888
営業時間:10:30-18:00(日曜日・祝日・年末年始を除く)
 

 

【編集後記】

 

 

HOSOOの旗艦店の入り口は、まるで美術館のような佇まい。

4色の土壁と黒のグラデーションが美しい漆喰の外壁。どこを切り取っても、伝統技術への愛情しか感じられない。

そして、細尾さん自ら二階のギャラリーの「日本の美しい布」の展示の解説をしてくださった。このドキュメンタリーのプロジェクトは彼自らが立ち上げ、日本各地の職人さんのところに出向いたそうです。一つ一つの展示は、どのように見せたら、その良さが伝わるかを熟孝していることは、すぐに伝わる。そして職人さんたちの写真を見て、彼らのカメラに向ける眼差しに驚く。どれだけ細尾さんとの距離が近いかを肌で感じる。

西陣織の歴史1200年と話す細尾さんのDNAに、その1200年が濃く刻まれていると思った。

彼は多分、これから先1200年を見ているんだろうな。と思わずにはいられないほど、経過した時間と、その長い年月の間に人間が残してきた技術に対する深い愛情を感じました。

HOSOOの店内では、西陣織のテキスタイルで彩られたTea Roomが併設されていて、その場でテキスタイルを堪能しながらお茶を飲むことができます。また気軽にお茶を飲みに行きたいです。

(編集長 CHICO SHIGETA) 

 

 

 

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