【暮らしかた冒険家に聞きました】WITHコロナ時代 私たちの新しい働き方とは②

Way of living Women's life Lifestyle Special Interview
2020.07.23

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自己肯定感を無駄に下げない!

 

Photo : Saiko Ito

※【暮らしかた冒険家に聞きました】WITHコロナ時代 私たちの新しい働き方とは①をご覧になっていない方はこちらから。

 

伊藤菜衣子さん(以下、菜衣子さん) : (前回)自己肯定感が必要ですね、というお話がでましたが、私は本当に自己肯定感を育てないといけないと思っているんです。離れていて相手のリアクションがすぐに見えない時に、それに対して毎回クヨクヨしていたらやっていられないので、「悲しい」「悔しい」「伝わらない」「レスがイマイチだった」ということは自分で分析します。


数年前に、「こんなこと言う?」と思ってしまうような返事をしてくるクライアントがいたんですが、こちらは経緯も説明しているし、前提も共有しているし、私としてはやることはやっているのに、それでもなおこの返事が来たということは、もはや私たちがおかしいのではないよね? と思い、メールがあった日を全てカレンダーに入れてみたんです。その結果「もしかしたらこの人、生理前症候群かも?」と、突き止めたことがありました。スタッフの子に「もしかしてそういうことあったりしますか?」って聞いてみたところ「あります」という返事があって。

昔の私であれば何の分析もせずにただクヨクヨしていましたが、今私はこの文章を書いたときの相手の精神状態まで考えるようになりました。私の問題ではないということが分かれば、すごく楽になりますからね。


Spring Step : 本当そうですね。


菜衣子さん : これはもう本人の問題でもないし、こちらの問題でもない。誰も悪くないので、ただ自分がそうゆう時期には返信をしない、ということにすればよかったと思うのですが、日本社会にある「すぐにレスをしなきゃいけない呪い」にかかっているので返信してしまいますよね。私はこういうとき、誰の自尊心も傷つけないために「生理的な問題だ」「社会問題だ」と片づけることが多いです。


Spring Step : 私は元々自己肯定感が高い方ではないんです。昭和っ子だからか、「自分はダメだからまだまだやらなくてはいけない」と思ってしまう。「全然ダメだな」と思うこと、毎日たくさんありますが、自分で自己肯定感を上げるにはどうしたらいいですか?


菜衣子さん : 上げるっていうよりも無駄に下げない、ということのような気がします。くよくよする程度のアウトプットややりとりをしていたら、永遠に「自分が悪いのではないか」と思い続けることになってしまう。私が「クライアントのPMSのせいじゃないのか」と思ったのは、自分はしっかり説明もしたし、アウトプットも出しているのにそれでもなおこの返事なの? おかしいな? と思えたからです。

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リモートワーク中の夫婦関係

 

 

菜衣子さん : 今、夫婦でそれぞれがリモートワークをしている方も多いと思うのですが、夫婦関係、大変ではないですかね? 私は再婚しているんですが、夫婦間のやりとりとか、差とか、埋まらない溝は、個人の問題でもあるけどこれも「社会問題」だなと思うことが結構あります。特に、子育てや家事とか本当に「社会問題」だと思います。一緒にいる時間が長ければ長いほど、そこの問題も出てきますし、「こうして欲しい、あーして欲しい、なんでやってくれないの?」となるよりも、「そっか、そっか、これ社会問題だね、なぜなら社会はこういう風になっていて、こういう風に考えてる・・・?」と、今の夫の前では言うようにしています。

 

たとえば、保育園の防災頭巾。買ったものではだめで、サイズ指定がある、という時点で「保育園どうなってるんだ?」と思うところがそもそもあるのですが、“妻が作って当たり前だと思っている夫”に関して言えば、もう社会問題だと思っています。すごい真顔で、「俺、将来こんなことしないといけないと思ってなくて、真面目に家庭科の授業受けていないもん」となるんですよ。それは当時の空気感だったわけで、現在に続いてしまっている。

 

Spring Step : 私の夫はフランス人なのですが以前に「何で日本はこんなに家電のテクノロジーが進んでいるのに、日本製の食洗器ってこんなに使いづらいの? これは問題だ!」と言っていました。日本製のものは、使いづらくて手で洗ったほうがいい? と思ってしまうものが多いのですが、ドイツ製などの食器洗い機は、入れやすくて洗いやすくて、機能的。日本製のものを見ると、「もしかして、これは女性を働かせようとしているのかも?」なんて思ってしまいます。笑

 

菜衣子さん : 無意識に「手で洗った方が綺麗になるもん」と洗い始めたりしますしね。まだ擦りこみとして、圧倒的に母親・妻がやらなければいけないと思っているタスクの量、が多いと思います。 全部じゃないけれどふとした瞬間に「これは妻の仕事」だと、こんなに仕事していても思ってしまう自分もいます。旦那が遅く帰ってきたら「遅くて大変だったね」とごはんを温め直すみたいなこと、それはやっぱり自分の母親の習慣なんですよね。専業主婦だった母親の。それをやっていたら私の身体は持たないのに、でも習慣としてなんとなくそういうものだと思ってやっている。

 

Spring Step : そうですね。私がやって当たり前じゃない、その事実を自分で咀嚼しなくてはいけないですよね。

 

大事なことは、夫婦間の会話だと思っています。「What do you want?」「あなたはどういう家族にしたいの?」だと思うんです。たとえば、お母さんがバックでがんばる、そういう状態を「家庭」と呼びたいのか? 子供と一緒に楽しい時間を過ごすという目的を一緒に持ちたいのか? まずはそれを話し合うことが大前提だなと思いました。その上で、家で仕事をする時の時間割に子どもと遊べる時間がゼロの日であれば、「今日頼むね!」とお願いしてしまう。お互いの時間割を相談しながら、家が難しければ公園に行って仕事するとか。その代わり、旦那さんが集中してやる時には「この時間あげるから」と。お互いのその日のTO DO LISTの中で時間の擦り合わせを行えばいいと思います。お母さんも夜は仕事をするより寝たいですよね、だから家族での相談が絶対に大事だと思います。

 

菜衣子さん : 専業主婦のお母さんがやっていたタスクを共働きの妻がやろうとしているので「ウチは共働きだからできない」という棚卸しもやっぱり必要だと思っています。「これは無理、あれも無理、これはどうしても私1人じゃできません、そもそもこの家事必要ですか?」とか。自分が受けてきた環境をコピーしたいとか、自分が受けた母親からの愛をそのまま子供に与えたいとかは無理なので、女性側もやはり「ロールモデルとしているもの」に無理があることを認識しないといけないですよね。

 

今は愛知県の「THEサラリーマン」という環境で夫が働いていて、「男の人が主になって働いて」という家庭が多いような気がします。そういうところで働いている人に「ハーフ&ハーフにしましょう」と言ってもできるような状況ではないですよね。会社には「妻がやってくれるだろう?」と思って仕事での活躍を期待している上司がいて、家では「半分やってくれ」という妻がいるのはすごく無理だなと思い、それも「社会問題だ」と思うことにしました。

 

Spring Step : 本当そうですね。家、暮らし、家族の時間をどうしたいのか、その中で私は何をしたいか? 彼は何をしたいか? 子どもは何をしたいか? 何をさせたいのか? ということが軸になってくると、「ここにはこれ置きたいよね」「ここには食洗器マストだよね」みたいにそこではじめて条件となって必要なものが出てきますよね? どういう家族の時間を持ちたいか? を掘り下げる自分の棚卸しが大切ですね。

また、本当はお互いに何を求めているのか? ということを夫婦間で知ることもすごく大事ですよね。家の中のことをやってもらうために結婚しているわけではないと思うので。

 

菜衣子さん : 結婚する前の人は本当にその点を確認した方が良いと思います! 夫が妻に求めること。

 

Spring Step : 問題を定義する、問題を共有する、私は行き詰ったらそれをやっています。今回の自粛で、子どもたちが常に家にいることで、夫がめずらしくイライラしていることが続いていたので、静かな時に「ねえ大丈夫? イラつくエネルギーが多いと身体を害するよ。歳をとった時に大きな病気の原因になったりもするから本当にこの期間に怒りをためない方がいいよ。」と伝えました。なぜかというと、彼は病気に対する恐怖感が強いから。どうしたらその人がプリプリしている場合じゃなく、楽しいことを考えるようになってくれるかなと、そこをくすぐるつもりで伝えました。

 

菜衣子さん : 子どもがずっといる状況で旦那さんがそんな風になってしまうのは、こちらとしても見たことがないシーンだったりしますよね? 彼には彼のキャパがあるし、コンプレックスかもしれないし、そこはセンシティブで、バックグラウンドの違いみたいなものがポーンっと出てきますよね。

 

前の夫とは、4~5年仕事をずっと一緒にしていたんですが、仕事では対等だと思っていたのに、子どもができた瞬間にアンフェアな要求がたくさんあったことに結構びっくりしました。コロナの影響で、今まで子どもが寝た後に帰ってきていた夫がずっといるとか、夫婦間の前提が変わっていると思うので、きっと色々と勃発しますよね。

 

Spring Step : お互いに精神的に余裕がない時、自分自身も心にもないこと言ってしまったり、それこそ前振りがなく一部だけ言われて傷ついたり、そういう事ってあると思うのですが、私はでも、そういうのを絶対に見逃してはいけないと思っています。本当はその時に解決した方が良いけれど、私も含めて日本は夫婦のコミュニケーションが少ないので、後から「こんな風に傷ついたよ」とか一切感情は抜いてLINEのメッセージで送っておくとか、自分でメモをしておいても良いと思います。時差があっても、自分の心さえ解決できればいいので。大切なことは、お互いに表現して、毎回クリアにしてリセットすること。

 

菜衣子さん : 私はそれをExcelでやっています! 私がすごくハッとした出来事は、離婚した時に何年も揉めていた旦那さんから「いきなり離婚を切り出された」、「いきなり色々なものを持っていかれた」と言われたのですが、「あんなに言っていたのに、いきなりということになるってことがあるんだ」と思ったんです。でもそれは、私が怒りながら言っていたので、耳がシャットダウンされていたのだと思います。意図的に「何があって、どう思って、こういうことが続くとどういう風になるよ」とか「それに対してこういう風に改善してくれたら、こういう風になるよ」というのを全部フォーマットで作っています。冷静に書けばいいので超おすすめです、Excel!

3

明日の社会づくりは今日の小さな行動で決まる

 

Spring Step : 働きかた1つとはいえ、生きかたですよね。

 

菜衣子さん : そうです、結局生きかたです。何を大事にしたいか、相手も自分もどうなりたいか、みたいなことを真ん中においてコミュニケーションを取りまくらないと幸せにはなれない。その前に、自分は相手にどのような扱いをされて、自分はどのように生きたら幸せなのかを分かっていない人もたくさんいて、そこに対しては周りも何かをしてあげにくい。

 

Spring Step : 日常から隔離、切り離されている今だからこそ、思いつくこともたくさんあると思うので、自分の棚卸しには本当にすごくいい機会だと思います。今回、「リモートワークの鍵」となるヒントを菜衣子さんからもらいましたが、その前にまずは自分の棚卸し、家族の棚卸し、夫婦の棚卸しが必須ですね。

 

菜衣子さん : (インスタライブ上のコメントに)「お二人だからできるのでは?」というのがありました。飛び出す時はいつも「バンジージャンプ」を心掛けていて、バンジーのゴム紐が今から自分がしようとしていることに対して耐え得るかどうかには、実はすごく慎重なんです。バンジジャンプーのゴム紐の強度を少しずつ上げてきたから、いろんな挑戦ができる。その確認作業は、他者からは見えないものですが。

 

Spring Step : 確かにそれは、自分にしか見えないことですよね。

 

菜衣子さん : そもそも私が9年前熊本へ行ったのも、お金の引力が東京では強すぎて、さらに高い家賃を払わないと子育てできないという状況は、私には難しいのではないかと思ったことがきっかけです。日本の地方都市では今、少し辺鄙なところへ行くと家は50万円とか100万円で買えるんですが、「地方に住んで、家賃がこれくらいならどうにかなるだろう」というところから「バンジーのゴム紐の強化」を始めて、「そうか、これくらいの感じで私は生きていけるんだな」ということが分かりました。今回も、このコロナの危機がどれくらい私の人生にダメージを与えるのか具体的に考えた時に、今は国が無利子の貸付とかしているし、それを借りまくって5年後くらいに「全然返せませんでした!」と言って自己破産したらいいのかな、と少し思ったんです。(笑)

自己破産したら、バイトをたくさんして、クラウドファンディングもしたりして、それで50万円を集めてとか、「あ、友達の家の隣の家50万円で出てたしな」とか、色々考えていたときに、「あー最悪って最高だ!」と景色がパーッと開けたんです。

 

本当にやるかは別として、バックアップとして置いておく。最悪「友達家の隣の50万円の家」っていうのが見えているから、旦那と自分は対等だし、そうすると旦那に言う時だって「この交渉がうまくいかなかったらこいつ離婚する気だな」くらいのオーラが出てくる。“What do we want?” のWeの部分に歩み寄る努力ができないのであれば、バラバラで大丈夫ですよ、みたいなカードも常に持っておく。

少しずつバンジーのゴム紐を太くしていったら交渉に有利です。それは、仕事でも一緒だと思っています。私にとっては、子どもができて仕事の時間が減ったことは不利でしたが、逆に「高断熱、高気密の家に住む、超働いているお母さん」としてのコラムも書けるし、その家でインタビューもとれる。不利な状況でも、どうやったらバンジーのゴム紐が太くなるか、少しずつ積み上げ続けるしかないんです。そういう意味では、夫婦のことに関してはその部分を諦めている人がすごく多いように感じます。

 

Spring Step : 精神的な自立、そこの景色が自分の中でみえたらそこまでストレスがないですね。フランスでは夫婦共働きが当たり前で、奥さんが専業主婦というのは「Wow, luxury!」

ということになります。女性の自立についても歴史が長いので、「お父さんが育児に参加」なんていうことはなく、「いやいや、いやあなたの子どもですから!」といった感じで「参加」という言葉を使うこと自体ナンセンスです。

 

菜衣子さん : 今はたとえ自分が強く言えなくても、せめて息子を「こんなことを当たり前だと思うような人間」にしてはいけないという思いが強いです。防災頭巾も結局私が作りましたが、「たまたまママが得意だったから作ったけど、パパが作っても良かったんだよ」と言って渡したり、夫婦間の会話でも「本来はこうあるべきだけれど、仕事の都合でできません、あなたお願い」と話しているのを聞かせると、「そうか、本当はパパがやらないといけないんだけど、ママがやるんだな」と思うようになる。社会問題として実働できないこともたくさんありますが、マインドとしてはどうあるべきか、ということは伝えられます。お母さんがしょうがないと思って飲み込んでやっていたら、やってくれるものだと息子も思ってしまうから。社会問題は根深いので何世代かかけて変えていかないと。だから、せめて息子が社会問題を色濃く遺した人にならないようにする、ということは重要ですよね。

 

Spring Step : そうですね。子どもたちが自分の生きてきた経験値で新しい社会を築いていく時に、本当に平等な社会を築いていける土壌を持った子になってほしいですよね。

 

菜衣子さん : こんなコミュニケーションに時間を費やしている人生なんて正直面倒だと思います。だけど、ここで何もしないと次世代までアップデートされない価値観で生きなきゃいけないなんて、すごく無駄なのでみんなで少しずつやっていけたらいいですよね。

 

※このインタビューは、4月20日に伊藤菜衣子さんと編集長のCHICO SHIGETAがインスタライブで行なったトークを記事にしたものです。

また、このインタビューがきっかけとなり誕生した菜衣子さんのブログ

人生とは自分にかかっている呪いを ひとつひとつ解いていく冒険

では、様々な「社会的常識」とされていること、またその枠に入らなければ「失敗した人」と認知され、いつの間にか親や周りの言葉から、自分に植え付けられた他人の価値観を自分の価値観と当てはまるのかどうか、問いかけて自分らしさを探っていくことができる、素晴らしいツールとなるブログなので、ぜひ読んでみてください!

 

 

PROFILE

伊藤菜衣子 Saiko Ito / 暮らしかた冒険家

1983年北海道生まれ。クリエイティブディレクター。暮らしにまつわる常識をつくりなおし、伝えるため、広告、編集、映画制作などを手がける「暮らしかた冒険家として活動。高気密・高断熱の住宅の普及にも取り組む。著書に「新しい家づくりの教科書」「これからのリノベーション 断熱・気密編」
人生とは自分にかかっている呪いを ひとつひとつ解いていく冒険をnoteにて連載中!

Instagram : @saikocamera

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