【日本の田園風景を守りたい】棚田を愛する元専業主婦が、アイスづくりで環境保全活動!

Women's life Organic Ecology Special Interview
2021.06.03

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一家で葉山へ移住、棚田との出会い

TEXT: SHIHO TOKIZAWA / Photo : BEATICE 

 

SpringStep: 山口さん、はじめまして!棚田でできたお米を使ってアイスを作られておられるそうですね!まずどのような経緯で棚田に興味を持たれたのか伺ってもいいでしょうか?

 

山口さん: 私はもともと専業主婦で、都内で3人の子供の子育てに奮闘していました。ところがある日、たまたま訪れた葉山で海越しに見える富士山に感銘を受けた夫が、そのわずか1ヶ月後に移住を決めてきまして……。

 

SpringStep: わぉ、すごい行動力!

 

山口さん: 思い立ったら即行動、という感じで(笑)。それで2015年に、一家で葉山に引っ越してきたんです。当初は葉山に棚田があるとは知らなかったのですが、とあるお蕎麦屋さんを訪れたときに、そのお店の裏に素晴らしい棚田があることを知りました。それが棚田との初めての出会いです。そのときはそれで終わったのですが、しばらく経った頃に知人から、“ある田んぼで手伝いをしているんだけど、人手が足りないから来てくれない?”と声をかけられました。それが偶然にも、そのときの棚田だったんです。まさか棚田のお手伝いをできるとは思ってもみなかったので、ラッキーでしたね。

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棚田を応援したい! 自宅キッチンから始まったアイス作り

 

SpringStep : それからどのようにして、アイス作りが始まったのでしょうか?

 

山口さん: お手伝いをしているうちに、近くの農家さんから“棚田があることで苦しんでいる、後継者がいない”という話を聞くようになったんです。私たちのように、棚田の風景を見てきれいだな、癒されるな、と感じる人達がいる一方で、棚田によって辛い思いをしている人がいる……。そこに大きなギャップを感じました。そこで、せっかくこんなに素晴らしい場所が残っているのだから、ここで収穫したお米を使って棚田を応援する仕組みを作れないかな、と思ったんです。

 

SpringStep : お米をそのまま販売する、という考えにはならなかったのですか?

 

山口さん: お米を販売できたらベストなのですが、収穫量がすごく少ないんです。

 

 

SpringStep : それは棚田だからですか?

 

上勝の棚田(徳島県上勝町)

 

山口さん: はい。1年間お手伝いをして、私たち家族が分けていただいたお米は30kgほどでした。

ところで、葉山って海のイメージがありませんか?

 

SpringStep : あります! 棚田があるなんて知りませんでした。

 

山口さん: そうですよね。やはり葉山というと皆さん海をイメージされますし、海を訪れる人のほうが多い。そこで、葉山の山の魅力が詰まったアイスを、海に遊びにきた人に食べていただいたら良いのではないか、と考えました。バラバラになっている山と海のイメージを繋ぐためのツールにもなるかもしれないと。山と海は離れているので接点がなさそうな気がしますが、実は繋がっています。山が枯れたら、海も汚れてしまうんです。

 

SpringStep : お米を甘酒に加工してアイスにしよう、という発想が素晴らしいです。乳製品も一切使われていないですよね? そのようなアイデアは、どこから湧いてきたのでしょうか。

 

山口さん: もともと料理やお菓子づくりは好きでしたが、商品開発の経験はゼロでしたので……、最初は勘ですね(笑)。“お米を甘酒にしたらアイスにできるかも!”と思い立って、自宅の冷凍庫で作ってみたのがはじまりです。甘酒に加工すれば、カサ増しをすることもできますし。また、葉山にはオーガニックやヴィーガンフレンドリーのお店が多く、健康志向の方も多く住まれていますので、乳製品フリーにすれば地域との親和性も高くなり、より多くの方に食べていただけるかなと思いました。

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クラウドファンディングを行い、自社工房を設立

 

SpringStep : アイスを置いてくれるお店も、自分たちで探されたんですか?

 

山口さん: そうですね。もともと好きだった農園レストランのお店に持ち込み、オーナーさんに試作品を食べていただきました。そしたらすごく感動してくれて、“ぜひお店に置かせてほしい”と。

 

SpringStep: その一言が、後押しになったんですね!

 

山口さん: 大好きなお店の、尊敬しているオーナーさんに褒めていただいたのは大きかったですね。その日をきっかけに、本格的な商品開発を始めました。自宅で作ることはできないので、茅ヶ崎にあるアイスクリーム屋さんにお願いし、小ロットでの製造からスタートさせました。それから徐々に、他の棚田農家さんから“うちのお米でもアイスを作って欲しい”というご依頼をいただくようになって。

 

SpringStep: 棚田のネットワークはどのように築かれたんですか?

 

山口さん: 数年前に長野で行われた「棚田サミット」に参加し、各地域の棚田農家の方と交流したことがきっかけです。その後、ご紹介などでだんだんと交流が広がっていったので、それならば違う棚田のお米を使ったアイスも作れるように設備を整えよう! ということになり、クラウドファンディングで資金集めを開始しました。

 

SpringStep: とてもチャレンジングですね! 多くの支援が集まったのですか?

 

山口さん: 300万円ほどの支援が集まりました。その資金で工房を立ち上げ、それからは自社でアイスを作っています。今は葉山を含め、6地域の棚田アイスを販売していますが、年内にまたいくつか増える予定です。

 

SpringStep: なんとも素敵なお話です。地道に棚田で頑張ってきた方はうれしいでしょうね!

 

山口さん: 何か新しいことを始めるときはスムーズにいかないことも多いと思うのですが、ありがたいことに地元の農家さんたちからも応援していただいています! お米を寄付していただく機会も増えました。

 

SpringStep: 商品開発で、大変だったことはありますか?

山口さん: 当たり前の話かもしれませんが、毎回同じものを作らなければいけないことです。最初は甘酒を作ることにすごく苦労しました。試作とは比べ物にならないほどの量を、一気に作らなければならないので。

 

SpringStep: 最初は家庭用の炊飯器で作っていたんですもんね。

 

山口さん: 工房では温度管理など、細かな部分にまで気を配らないといけません。初めのうちは失敗も多く、大切なお米を無駄にしてしまうこともありました。機械の前で泣いたこともあります……。数え切れないほどの試作を繰り返し、ようやく今のアイスが出来上がりました。

 

SpringStep: 実際に食べさせていただきましたが、お米の種類によって味がほんのり変わっていました。やさしい味ですよね。

 

嶺北の棚田(高知県土佐郡)

 

山口さん: アイスには、私から見た葉山のイメージを投影しているんです。引っ越してきて分かったのですが、葉山って実はすごく素朴な場所。ご近所さん同士がお互いに支え合うような、昭和的な風景もまだ残っていて、私にはそこがとても魅力的に映りました。そういう葉山のアットホームな雰囲気を、アイスで表現できたらいいなと思っています。パティシエが作ったスイーツではなく、お母さんが作ったおやつのような安心感を目指しています。

 

SpringStep: ご自身も3人のお子さんを育てているお母さんでいらっしゃいますが、専業主婦から今のご自分の職業を構築されてきた中で、心境の変化はありましたか?

山口さん: 先日鎌倉の小学校で給食に棚田アイスを出していただいた際に、5年生の1クラスで授業をさせていただいたのですが、 “棚田を守るために、どんなことができるか?”という問いかけに、子どもたちならではの柔軟な意見がたくさん集まりました。例えば“棚田ガチャを設置する”、“トロッコ列車を走らせる”などです。枠に捉われていない自由なアイデアばかりで、改めて子どもは宝だなと気づかされましたね。また、子どもたちの好物であるアイスをツールにして話を広げることで、棚田保全という難しい課題に対しても、楽しみながら意識を向けてもらうことができたと思っています。これからは、このような活動も積極的に行っていきたいと考えています。

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楽しみながら棚田を守っていく取り組み

 

SpringStep: お話を伺っていて、地主以外で棚田を守りたいと思う人がたくさんいることに大きな価値があるなと感じました。今までは、畑や田んぼを引き継ぐのは家族じゃなければならないという風習があった気がしますが、その土地が好き、守りたいと思う人が引き継いでいくのが、一番理にかなっていますよね。

 

山口さん: そうですね。理屈ではなく、誰もが見た瞬間に「後世に残していきたい」という気持ちが湧いてくるような美しい場所なので、魅了される人が多いのかもしれません。都内からたった1時間の場所にこれだけの場所が残っているのは奇跡的だと思います。

 

SpringStep: 本当にミラクルなことですね!

 

 

 

山口さん: アイス作りを始めて、人はワクワクするところに集まるのだと知りました。自分自身が楽しんで活動を続けていれば自然と人が集まり、協力をしていただけるようになります。ちなみにこのアイスは、1個あたり10円が棚田に還元される仕組みになっています。遠方に住んでいても、アイスを食べればそれだけで棚田の応援に繋がるんです。

 

SpringStep:美味しいアイスを食べてもらうことでたくさんの笑顔が生まれ、その結果として棚田も守られるんですね!

 

山口さん: はい。直接的な寄付という形ではなく、楽しみながら応援できるスキームを取り入れています。このような取り組みがひとつのサンプルとなり、何か新しいプロジェクトを始めるときの参考にしてもらえたらうれしいです。

 

SpringStep: 棚田を守っていくことは大変なことだと思いますが、それでも多くの人がその魅力に惹かれ、手を差し伸べたくなるのでしょうね。いつかぜひ、現地を訪れてみたいです!

 

山口さん: はい、ぜひ遊びに来てください! 

 

PROFILE

山口冴希/株式会社BEATICE 代表取締役


葉山在住、3児の母。
「日本の原風景」とも言われる棚田の魅力を広めるべく、2019年より全国の棚田農家と協力し「棚田アイス」の取組を開始。
地域の飲食店や学校給食でのアイス提供を通じて「おいしく」「楽しく」「ゆるやかに」棚田と地域を結ぶ活動を行っている。
現在、連携地域は全国7ヵ所に広がり、2020年「第8回環境省グッドライフアワード」にて、実行委員会特別賞を受賞。

棚田アイス公式ホームページ

 

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