【人権活動家にききました】人権を守るとは、具体的に何をすることなのですか?後編

Way of living Special Interview
2021.07.08

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「人権」の反対側にあるものとは

Text & Photo : Spring Step

 

【人権活動家にききました】人権を守るとは、具体的に何をすることなのですか?前編はこちらから

 

 

 

牧野聖修さん(以下牧野さん) :  僕は、国家権力による人権弾圧を扱ってきました。ウイグル人を守る会がイスタンブールで行われた時、僕が参加していることを知って様々な国の国会議員が集ってくれました。そして僕は自分の理念を各国の議員と共有させてもらうことができたんです。

 

Spring Step : 牧野さんの理念をぜひ教えてもらえませんか?

 

牧野さん :  僕はチベット問題を長年取り組みながら、なぜ中国政府はチベットとウイグルを弾圧するのかを、常に問いかけてきました。毛沢東は、「宗教と神は敵である、と」早い段階から言っていました。鄧小平もそれを踏襲しています。チベットは仏教、ウイグルはイスラム教です。だからこそ潰そうとしてるのではないかと、ジェノサイドがエスカレートしていったことで、この考えに行きついたんです。だから、この弾圧の背景は、神を崇め、宗教を大切にする人たちと、神や宗教を否定する人たちとの戦いであり、民族の問題ではないと思うのです。人類の価値観が争点なのだと理解しています。

僕は、「命より大切なものはない。人を殺しても良いという理屈は地球上に存在しない。これを徹底してほしい。」と伝えました。

 

 

Spring Step : 牧野さんは、今取り組みたいと思われていることはありますか?

 

牧野さん :  僕らはこれから人権を守るためのヒューマンライツリーグ(人権の和)を作ろうという動きをスタートしています。日本、韓国、台湾、香港、インド、チベット、ウイグル、トルコ、また中央アジアの国々でのそれぞれの国家間の活動は容易ではなく、つとに平和や環境の話をまとめていくとなると、さらに難しくなります。だからこそ「人権」をテーマにした一つのリーグを作って、助け合って歩んで行こうと始めた活動です。天安門以来の民主活動家たちも、牧野が人権財団として活動するなら、と賛同してくれ始動し始めたところなんですよ。この活動から、中国やウイグルを助けていく世界的に大きなムーブメントにしていこうとしています。

 

Spring Step : それは、大変素晴らしいことですね。同じ目的の人たちが手をつないで進んでいく方が、国家間で解決法を見つけるよりも、うまくいきそうな気がします。

 

 

牧野さん :  「人権」の反対に位置するものはなんだか知っていますか?

 

Spring Step : 何でしょうか?

 

牧野さん :  それは国益です。常に人権を邪魔するものは国益なんです。国益や経済発展よりも大切なものは人の権利、人の「いのち」です。「人権」という価値観で統一した運動体で繋がっていこうというのが僕の考えです。

 

Spring Step : なぜ日本は難民の受け入れ人数が少ないのでしょうか?

 

牧野さん : 日本の法務省はトラブルに関わり合いたくないのかなと僕は思っています。トルコはクルド人難民を1万数千人受け入れましたが、日本は48名です。難民は認めないけれど、でも安い労働力になる人たちは積極的に受け入れています。コロナになってからは強制送還された人もかなりいます。日本の難民政策は最低レベルだと言えるでしょう。

 

Spring Step : 日本はそもそも単一民族と思い込まれていることが多く、表面的にはウェルカムでも、一皮めくると外国から来る人たちに友好的ではない傾向がある様にも感じられます。

 

牧野さん : そうですね、外国人を遠ざけ、単一民族という幻想を持ち、そしてその幻想のままで行きたいという盲目的な非現実を実現しようとしています。外から来た人たちは良くないと信じさせようとしているんです。

歴史的に見ると、日本では海外から来た人達とうまくやっていた時代と、その反対に弾圧した時代があるんですが、江戸時代では、割と良好であったようですが、明治維新からガラリと風潮が変わったようです。人権問題や難民問題は、時の政府のあり方、社会のあり方によって、流動的なものなのです。

今度難民の法律改正案が出されます。3回難民申請をして却下されたら本国へ送り返される、と言った内容が含められているのですが、実はこれはとても深刻な問題です。今まではそうならないように、なんとか対処をして工夫をし、それを避けるられる様にしてきました。なぜなら送り返されたら殺されてしまうからなんです。僕はこれを最悪の国家の人権弾圧だと思っています。これはなんとかしなくてはいけません。

 

Spring Step :  明治から続く難民への弾圧とは、とても長い期間な訳ですが、この後変化することは考えられるのでしょうか?また、もし変えられるとしたら、どんなことがカギでしょうか?

 

牧野さん : それは、月並みかもしれませんが、やはり教育でしょうね。誰でも幸せになりたい、不要な苦労はしたくない。これは人間として万事共通です。日本は差異のある人を嫌う人もいますが、病気など、本人の選択ではない差異だってあります。差異も認めあい共存することを学ぶことですね。

 

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人権問題の解決の糸口は自分と同じように他の人も大切にすること

 

Spring Step :  私の夫は日本人ではないのですが、日本のシステムや時にはコミュニケーションの中にも「日本人とそうでない人」、という枠がある様に感じます。日本なぜ日本は差異を嫌うのでしょう?

 

牧野さん :  「日本は一つの民族として成り立ってきた」ことを信じているからでしょう。

また、人というのは自分よりも下に人がいると思うと安心するのです。それは平安時代から、江戸時代でも同様です。士農工商って覚えていますか?実際は農民は一番下でありつつも、自分達がいないと武士が食べていけないとわかっていたわけです。自分の下に誰かがいることで成り立っていたんですよね。また現在はなくなりましたが、部落民と呼ばれ、差別を受けた人たちも同様です。

 

現在の中国でいうならば、暮らしが貧窮していてもチベットやウイグルよりまし。という発想が生まれるわけです。階層が救いになっている構造が見えてきますよね。

その時の産業構造によって、国家構造が変わります。日本に来たくなくても、送られて働き手とされる。しかし敗戦して用がなくなればほっぽり出されて難民になった人もいるんです。

現在、企業でも難民の受け入れが始まっています。そのような企業は本当に救済のために行なっているところもあれば、企業イメージアップのために行なっているところもあります。もしイメージのためにやっているとしたら、それはいつか行き詰まるでしょう。

 

また、人権問題の性質として常に波があることも知る必要があります。例えばアメリカの歴史をのぞいてみても、黒人を守ろうという動きが安定してくると、黒人より地位が低くなる白人が現れ増加します。そうなると、白人が挽回しようとする動きが現れるのです。このような動きは世界各地域でマイノリティーを大切にしようと、世界で動く人が出てきて大きな動きになっていくと、その反対側では、自分の地位を失ったと感じる人たちが動き出すのです。また、それとは別に景気に左右されることもあります。

マイノリティーの問題を完全に解決することは難しいのは、人間の「性」がそこに存在しているからなのです。だからこそ教育で皆平等であると教えていくことが大切だと思います。

 

そしてまた貧富の差が及ぼす問題もあります。、富の共有の大切さも感じます。なぜなら日本経済がよくなったことで、在日朝鮮人や部落民の存在が消えていったからです。今、ヘイトスピーチが出てくるのは、虐げられてきた人たちが救済されたことによって、反対に新しく地位が低くなった人が出てきたからです。だからこそ教育で徹底していのちの平等さを伝えることが根本なんです。

 

Spring Step :  私の今住んでいるタイはマイノリティーに寛容で、子供や妊婦、LGBTに対しても平等である気がします。妊婦さんや赤ちゃんを抱く女性に年配者が席を譲るのです。これは宗教や信仰と関係ありますか?

 

牧野さん :  そうですね。信仰と関係があると思います。以前見たOECDの調査によると、神を信じるかどうか?という質問では、回答した120カ国中、日本は117番目くらいだったと記憶しています。さらに宗教を大切に思いますか?と質問においては85番目くらいでした。その際に日本人は宗教家のいうことを信じない国なのだと感じたことをよく覚えています。僕は、それが弱いものに対する気持ちに現れていると思うんです。そしてまたこれは自分を大切にしていない、とも言えると思います。

ここに言えることは、経済優先というシステムの問題なのです。経済最優先システムは、身を粉にして働く人を奨励されます。それはつまり、自分に厳しくなくてはなりませんから、自然と人にも厳しくなります。だから人に対する寛容さがないのです。

 

自分が何かしらの責任を問われた時、自分でその責任に答えられない苦労が生まれたとしたら、それは皆で解消していかなくてはならないのが、民主社会の基本理念だと僕は思っています。自分が好きで苦労していくのは当たり前です。多くの場合、勤め先や家族によって生まれた不幸、本人に責任のない不幸を皆で守らすに、皆が後ろ指をさすのです。このことが人権問題の根幹にあるかと思うのです。

 

Spring Step :  私は、フランスでの生活も長かったのですが、フランスはディスカッションの国です。日本人は話し合って、双方の意見に摩擦を起こしても最善の解決法を見つけていくことは苦手かなと仕事でも感じています。

 

牧野さん :  フランスは、フランス革命などで民衆が盛り上がって王政を転覆させたりと日本とは歴史の歩み方がそもそも違います。日本は明治維新までは穏やかで、西洋の考え方が入ってきたら、貧富の差の拡大、人権弾圧が生まれたのは、国益優先に進んでしまったからです。でも国益よりも大切なのは人権です。経済優先よりも人間の生活を優先する大きな転換が必要です。でなければ社会は成り立たちません。コロナで変わるかと思ったけれど、意外とまた元に少し戻りつつある。そういう状況を見ても、やるべきは教育でいのちの尊さ、平等さが伝えられる様に変えていくことが大切だと思います。

 

僕らだって、良い時は良い、悪い時は助け合っていこう。というなんでもないことを皆でやらないといけないのです。人権問題をやればやるほどそう思います。

 

Spring Step :  人権問題に向かう解決法、とまでいかないかもしれませんが、自分の近い社会、つまりご近所さんが困っていると助けることや、そういった身近なことから始めることは大一歩になりますか?

 

牧野さん :  そうですね。今は見て見ぬ振りをする人が多いですからね。

 

Spring Step :  先日、知り合いが自転車で転倒して、道に倒れたままでも誰にも声をかけられなかったと聞きました。近所や社会、身近なコミュニティーでの関わりあいを自分や家族で持つことで、人間同士の関わり合いをしっかりと体験できると、助け合う気持ちが芽生えるのかなと思いました。

 

牧野さん :  今、芽生えはすでに生まれていると僕は感じています。まだ体制が整うまでにはなっていませんが。

 

Spring Step :  それは、具体的にどのように感じていらっしゃいますか?

 

牧野さん :  ホームレスへの炊き出しやコロナで職を失った人たちの子供を助けるとか、子ども食堂とか、そういった流れはあちこちに生まれているんです。そういったことをもっと広げていけば世の中少しは変わるのではないかと思います。

でも残念ながら国を動かしている人たちは、やる気がないというか、関心がないというか。。

 

Spring Step :  それはなぜですか?

 

牧野さん :  有権者がその問題をさほど問題としないのが根本ではないかと思うんです。有権者は他のことを求めているんです。個人が自立していけば、意見を持っていそうな誰かに巻かれることはないと思います。自分なりの意見を持つことが大切ですね。

 

Spring Step :  有権者の問題意識が人権にあれば、政治の方向性が変わるということですね。有権者の問題意識、それもそもそも教育の問題と結びつきそうですね。

今日は貴重なお話を本当にありがとうございました。

 

PROFILE 

牧野聖修さん / 人権活動家

一般財団法人人権財団 理事長、中国民主化世界フォーラム 副会長、セイブ・チベット・ネットワーク・ジャパン代表、アジア太平洋未病医学会 常任理事、

満州国生まれ、静岡市育ち。アソカ幼稚園、静岡大学教育学部附属静岡小学校、静岡大学教育学部附属静岡中学校、静岡県立静岡高等学校、中央大学法学部法律学科卒業。

家業の青果商を継いだ後、1971年、25歳で静岡市議に初当選。その後静岡県議を3期務めた。

衆議院議員(4期)、経済産業副大臣(野田内閣)、法務政務次官(羽田内閣)、衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員長を歴任。2015年に政界を引退し、一般財団法人 人権財団を設立し、理事長に就任。同年11月に旭日重光章受章。

著書「ダライ・ラマの微笑 最新チベット事情」(五十嵐文彦との共著) 蝸牛社 

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