【全米トップ校の校長に聞きました】“知的情熱にあふれた オンライン教育”って、一体どんなものですか?(後編)

Way of living Lifestyle Special Interview
2022.01.13

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「共感力」とは何か?

Stanford OHS HPより」

TEXT: Shiho Tokizawa

 

CHICO:次に「共感力」について教えてください。近年、社会が多様化し、デジタル化も大幅に進み、さらにコロナが起きて……。今までの暮らしに疑問を持つようになった方も多いのではないかと思います。ものすごい速さで世の中が変わっていくので、大人が子供に教えられることって実はあまりないのでは?という気持ちになるほどです。私自身は、自分の子供たちには“社会を生き抜いていくこと”だけは貫いてほしいと思っていますが、その中で共感力はすごく大事なパーツなのではないかと感じています。

 

星先生:私は、共感力というのは“相手は今こう感じているんだ”ということを理解することから始まり、さらに一歩進んで、 “相手に何をしてあげることができるのか”ということを考えるまでの一連の流れを言うのだと思います。共感から与える力まで、ということですね。ときどき「共感力というと響きはいいけれど、相手のことばかり考えると自分を殺すことに繋がってしまうのではないか」というご質問をいただきます。しかし、決してそういう訳ではありません。相手がどう感じているのかを理解したとしても、自分が同じように感じる必要はないのです。あなたはそう感じる、でも私は違う。それで良いのです。同じ気持ちになるということではなく、相手が今どんな気持ちなのかを理解してあげることが大切です。

 

CHICO:同情ではなく、理解するということですね。私は日本を離れて既に20年以上経ちますが、文化や言葉が異なる国で人と関わる際は自然にその能力を問われると感じます。それができないと、相互理解をすることはとても難しい。コミュニケーションをとるとき、相手のことを理解しようとすることを前提に話をする、それだけでも意思疎通の精度は全然違います。逆に日本では「言わなくてもわかり合えるでしょ?」という空気が流れているので、みんなその能力があるのにあまり使えていない気もしますね。

 

星先生:仰る通りです。海外に身を置くと余計感じますね。言葉が通じないのであれば、人間がもともと持っている共感力に頼らざるを得ません。

 

CHICO:共感力ありき、ですよね。これからグローバルな社会を目指そうと考えたとき、最初に大事になることは、“お互いがお互いの考えを正しく理解できていないかもしれない”という前提を持ってコミュニケーションをとることなのではないかと思います。

 

星先生:その通りだと思います。特に当校はオンラインであるが故に、余計に共感力が大切だと感じていますね。 距離があるので、“大丈夫か?”と生徒の背中を直接叩いてあげることもできませんから。生徒の共感力を研ぎ澄まさせてあげることにも力を注いでいます。

 

CHICO:普段の生活の中でも、見える他人と見えない他人が存在していますよね。社会生活の中で実際に関わりあっている人と、それ以外の他者。環境問題はまさにそうだと思うのですが、目の前に他者の姿が映っていなくとも、確実に存在しているわけじゃないですか。見えない他人への共感力が養われたら、それこそ選挙などに対する意識も変わってくるのではないかと思います。

 

星先生:今実際に会っている相手の気持ちを理解しようというところから、見えない他人がどう思っているか、どういう状況に置かれているか、という部分にまで思いを馳せる想像力ですね。環境問題は、本当に想像力の問題ですよね。自分が心地いいからOKということではなくて、そこにはどういう資源が割かれていて、どんな人たちがどういう役割を果たしているのか、ということを理解しないといけない。理屈としてわかるだけじゃなく、その思いにまで想像力を働かせないと、なかなか継続的な努力には繋がらないのではないかと思います。

 

CHICO:たとえ社会が目まぐるしく変わっても、自分が舵取りして未来を生きていかなければなりません。そのためにも、何を軸に生きていくかという哲学が大事なのではないかと思っています。これからの時代は特に、物事の本質を問うことの大切さ、そのためのスキルが問われていく気がするのですが、そのような力はどのようにすれば養っていくことができるのでしょうか。

星先生:今お話をさせていただいている中で改めて思ったのですが、やはり共感力が大事なのではないかと。物事の本質を問うたり、自分自身の心の根っこに戻るときに役立つことは、“違うものに触れること”だと思うんですね。例えば、日本にいた時はこう考えていたけれど、海外に来てみたらそうじゃなかったとか。異質なものに出会うことによって何かを考え直したり、本質を問い直すことができると思うのです。そしてその前提にあるのは、やはり共感力です。まずは、相手のことを理解しないとならないので。

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親と子のコミュニケーション

CHICO:読者の方の中にも、お子さんの教育に対して熱心な方は数多くおられると思います。そういう方々に、親子で共感力を養っていくためのはじめの一歩を提案するとしたら、どんなことが挙げられますか?

 

星先生:まずは、「スタンフォード式生き抜く力」を読んでいただいて(笑)。

 

CHICO:そうですね(笑)! 

 

星先生:共感力というのはコミュニケーションを前提にしていますので、まずはコミュニケーションを親子でしっかり取っていただきたいです。慌ただしい現代社会ではじっくり話す時間を取ること自体が難しかったりしますが、親子いう関係性であれば、そういった時間を生活の中に意識的に入れていただくといいのではないでしょうか。親の方から子供に“どう思っているの?”と聞く機会を作る。最初はなかなかうまくいかないと思いますが、根気強く問いかけていくことが大切です。

 

CHICO:意外と親は子供に対し、“あなたはどう思っているの?”という問いかけをすることが少ないんじゃないかなと思います。

 

星先生:先ほどの日本の文化の話じゃないですけど、“言わなくても分かっているでしょ?”という感覚が、家族だとさらに強く出ますからね。スイッチを切り替えるためにも、定期的に話す時間を作るといいと思います。

 

CHICO:子供って、例え4歳であっても自分なりの意見をちゃんと持っていますよね。彼女たちなりのロジックがあって、驚くことも多いです。

 

星先生:最近の研究結果によると、「ごっこ遊び」は共感力を正しく育むために重要な遊びです。例えばおままごとは、お母さん役やお父さん役など、ロールを変えていきますよね。その役になりきることによって、共感力が養われる訳です。それから、ときどき子供がそこには実際にいない人とまるで一緒にいるかのように遊ぶ現象が起こるかと思うのですが、これは精神的な部分が発達してきている証拠なんですよ。起きる子と起きない子がいますが、もし起きた場合は、どんどんやらせた方がいいです。共感力が強化されますので。おかしなことなのではないかと心配して止めてしまう方も多いようなのですが、実はとてもいいことなんですよ。全てのロールを自分で演じているわけですから。自然な発達の中で出てくることですし、創造性もついてきます。もし架空の友達がいないようだったら、「こういう人がいたら、どう思うかな?」と問いかけてみるのもいいかもしれません。

 

CHICO:余計なお世話かもしれませんが、個人的に日本の教育の未来を少し心配しておりまして。これから日本の未来を担っていく子供たちのために、私たちができることはあるのでしょうか?

 

星先生:いくつもあると思います。私は日本の教育の未来に関しては、比較的楽観的に考えているんです。例えばこの記事のように、教育に関する情報を伝えていくということがまずひとつですよね。啓蒙活動をしていくことは大事だと思います。親御さんが情報を得ることできれば、「こんな方法もあるけれど、現状のやり方はどうなのだろう?」という風に、意見を持てるようになりますし、実際の教育現場でもそのようなやりとりは少しずつ増えてきているようです。それから、お役所に関しては考え方がちょっと硬すぎるように感じますが、その中にも光は確かに存在しています。若い人たちの中で、変化を起こしたいと思っている人たちは多いですよ。私個人としましては、様々な提案をアメリカから日本に持ち込んで、ケミストリーが起きればその相手先と共に仕事をしていきたいですね。


CHICO:先生ご自身も、活動されている中で世の中が変わっていく手応えみたいなものを感じられているということですね! お忙しいなか、大変貴重なお話をありがとうございました。

 

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星友啓 (ほしともひろ)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長

/哲学博士/Education & EdTechコンサルタント

1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、Texas A & M 大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士を修了。同大学哲学部の講師として教鞭をとりながらオンラインハイスクールのスタートアップに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアに向けて教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。全米や世界各地で教育に関する講演を多数行う。

著書に『スタンフォード式 生き抜く力』(ダイヤモンド社)『スタンフォードが中高生に教えていること』(SB新書)がある。

 

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