【インディペンデント雑誌「ハイアーマガジン」編集長に聞きました】 自分の気持ちに正直に生きるためにはどうしたらいいですか?

Way of living Women's life Lifestyle Special Interview
2022.01.27

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“足りない”を埋めるために始めたZINE作り

Text : Shiho Tokizawa / Photo : Hal Kuzuya 

 

CHICO:haru.さんは「ハイアーマガジン(HIGH(er)magazine)」の編集長をされるなど、各方面で精力的に活動されています。まずは、どんなきっかけでマガジンを作り始めたのか教えてください。


haru.さん: ZINE自体は高校の頃から作り始めたのですが、初めてのZINEが出来上がったとき、“この方法なら言葉以外で人と繋がることができる”と感じたんです。そこで大学に入ってすぐに仲間を集め、ハイアーマガジンをスタートさせました。私はもともと、他人とコミュニケーションを取ることがあまり得意ではないタイプ。ドイツと日本を行ったり来たりしていた(編集部注:haru.さんは小学校時代の2年半と高校時代をドイツで過ごした)影響もあり、自分のなかに確固たるものがないというか、どこにも属せていないような感覚がありました。ドイツ語であっても日本語であっても、自分の思いや感じていることを的確に伝えられているという自信を持てずにいたんです。ですので、ZINE作りは言葉以外の方法で自分のことを知ってもらうための策といいますか、“足りない”を埋めるための作業だったのだと思います。雑誌以外のお仕事をするときも、クライアントさんが世の中に伝えたいメッセージに共感できたら、そのメッセージをどのように表現するのかを一緒に考えます。基本的に自分が思っていないことは形にできません。クライアントさんは、プロジェクトを共に完成させるパートナーという感覚ですね。完成させるまでの過程をどれだけ一緒に体験できるかということを、特に大事にしています。


CHICO:プロセスも含めてのコミュニケーションというか。


haru.さん:誰しもが作品を作る必要はないし、作品を作らずとも人と対峙できていると思えるのなら、それはそれでいいことだと思います。ですが、せっかく一緒にお仕事をするならば、普通に生活を送るなかでの交流よりももっと深いところで繋がる、という体験をしてもらいたいのかもしれないですね。


CHICO: 過程の中に、ものすごく深い価値を見出されているということですね。haru.さんは、ポッドキャストでお話しもされていますが、声もすごく素敵! とってもリラックスできる聞きやすい声だなと思っていました。お話をいろいろと聞いていて、伝えたいことがたくさんある方なんだろうなと感じたのですが、伝えることの必要性というか、伝えなきゃという気持ちを強くお持ちなのでしょうか。


haru.さん:伝えなきゃ、と感じたとしても、それは自分の探究心のためですね。社会や環境のためだと思って無理しすぎると、それが苦しい体験になってしまい結局続かないと思うんです。SDGsもそうですが、“社会のために頑張る”ことが目的だと、対象が大きすぎる。なので、そこにある問題に自分はどう向き合いたいのかということがとても大事だなと思っていて。

先日お世話になっている印刷工場に行き、いろんな人の手によって冊子が作られていく過程を見てきたんです。それでやはり、そういった過程を読者にも伝えていくことが大事だなと思いました。本って誰が書いたとか、表紙が誰とか、そういう部分は見られるじゃないですか。でも、印刷所で行われている作業まで想像するのはやっぱり難しいし、見る機会もない。けれど、自分が手に取ったものがどういう経緯でここまできたのか、そういう背景を知ると、そのものをより大事にしようと思えるんじゃないかなと思って。私はそちらに目を向けたいですね。“環境にいい素材で作りました”とか、“環境に悪いからもう作りません”ってことではなく、こういう過程を経て今ここにありますよっていう背景のストーリーまでちゃんと届ける。それにより、ものとの出会いがよりパーソナルな体験になって、その人の心に残ればいいなと思っています。


CHICO:いろんな角度からの見方がありますよね。私たちは生きている以上、何かしらの形で環境に負荷をかけているわけで。買い物ひとつ取っても、買うという行為自体が環境負荷に繋がってしまうし、無意識の加害者にみんながなっている。でも、みんなが加害者になっちゃいいけないという切り口で正義は語れないというか。さっき仰ってくださったように、手に入れたものに対して愛情を持って長く大切に使うとか、そういったことが自分を豊かにしていきますよね。そのものとのコミュニケーションを育んでいくというか。方法はいろいろあると思うんです。


haru.さん:本当にそうですよね。よく、“ネットの時代になんで紙なんですか?”って聞かれたりもしますが、やはり触れるものとして残したいという気持ちが大きいんです。オンラインに載せた方が、より多くの人に届くというのはあるのかもしれませんが。


CHICO:役割がありますもんね。何のために存在するのか、存在意義がはっきりしていたら、それがwebであろうが紙であろうが私はいいと思います。


haru.さん:私の活動の主軸は冊子ですが、今後は音声や映像にも派生していきたいとも思っています。平面だけでは表現しきれない部分もたくさんあるので。


CHICO:どんなことを表現されたいと思っているんですか?


haru.さん:日常的に過ごしていて気になることとか、些細なことです。すごいことを発信しようという気持ちはなくて、手の届く範囲。例えば誰かの、人生のストーリーなどですね。

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普通のことを、普通に表現したい

 

CHICO:haru.さんが発信されている内容に、共感する人たちは多いのではないでしょうか。今まで社会的に間違っているとされていたり、見て見ぬ振りをしてきたことに対して、“そう感じてもいいんだ”と思えるきっかけを与えてくれるというか。最近は今までマイノリティにカテゴライズされていた人がスピークアウトするようになってきましたよね。私は世の中にはマジョリティはないんじゃないかと感じていて。たくさんのマイノリティが集まって世の中が成り立っているのではないかという印象を受けているんですけど。


haru.さん:私の周りにはいわゆる性的マイノリティの方もいますが、そういう方達がネットなどで発信すると、言葉の一部だけが抜粋されて紹介されることが多い気がします。彼女たちは、“今日友達と食べたご飯が美味しかった”とか、そういった日常的なことについてはわざわざ発信しないかもしれないけれど、当たり前ですがごく普通の幸せな時間も過ごしているわけです。トランスジェンダーの友人と話すときによく話題になるのが、“こうやって普通にご飯を食べていることを理解している人が少なすぎる”ということです。マイノリティだから可哀想とか不自由みたいな、そういうところばかりにフォーカスが当たるけど、私たちだって普通に生活しているのにって。私が何か表現をするときに見せたいのは、社会になじめない人が苦しんでいるということだけじゃありません。もちろんその部分をなかったことにして話すことは、それはそれで暴力的だと思いますが、どんな人にもその人が個人的に感じている幸せな時間があって、性別関係なくみんなと楽しく過ごしている空間がこの世に存在しているんだということを、普通に表現できたらと思っていて。今までハイアーマガジンでも性について取り上げたりしてきましたが、メディアとしては珍しかったのか、タブーに切り込んでいるっていう表現をされてたんですよ。でも私はタブーに切り込んでいるつもりは当時まったくなくて。言っちゃいけないことを敢えて言っているというよりは、こういう風にみんなで楽しくお茶会をしていること、それが普通の状態で、以前からそこにあったんだよ、という世界観を作りたかったんです。


CHICO:イクオリティーですよね。


haru.さん:特別な存在を扱うという感覚では全然ないですね。


CHICO:性的な意味だけでなく、自分の思考がマイノリティだと思っている人って意外に多いなって。こんなにいっぱいいるのなら、マジョリティというのは、実は幻想なんじゃない? っていう感じがちょっとしてるんです。


haru.さん:環境によっても力関係や状況って変わるなと思います。ドイツにいた時はアジア人が全然いない学校だったので、その時はマイノリティでしたが、私には帰る国があるというか、日本に戻ってしまえば見た目に関しても言語的にもすっとなじめるという感覚がありました。だけど移民の子たちには帰る場所がない。ドイツにいたら同じ条件だけど、戻る国があるのかないのか、そういうことも含め、いろいろなレイヤーでマイノリティになったりマジョリティになったりっていうのはあると思いますね。

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昨日の自分より今の自分を好きでいられたらそれでいい

 

CHICO:ドイツでの生活が今の発信や表現の仕方や思考などに影響しているなと思われることはありますか?

haru.さん:ドイツと日本、二つの視点を持っているのは物事を見て何かを判断する時にすごく影響している気がします。


CHICO:ドイツでの高校生活は、何が大変でしたか?


haru.さん:まずは言葉の壁ですね。全然ついていけなくて、1年半〜2年くらいは、授業をただひたすら聞いている感じでした。当時は祖父母と住んでいたのですが、それも私にとって初めてだし。環境がすべて変わってしまって、自分がわからなくなってしまいました。知っていたものが全部揺るがされるような。思春期でしたしね。


CHICO:どう乗り越えたんですか?


haru.さん:修行期間みたいでした。自分の見た目もすごく嫌だったんですよ。周りの同年代の子は、いわゆる西洋人の考える女性らしさとか、セクシーを目指していたんです。でも私はアジア人で、そもそも体の作りが違うし、そこに理想としている自分像が当てはまらなすぎて。なので敢えて髪の毛を男の子みたいに短くしたり、男の子の服を着たり、外見を変えることに執着していた時期もあります。何かで自分をコントロールしていないと立っていられない、みたいな感じだったんですよ。結局自分は外国人だし、周りと比べちゃダメなんだって気づいたのが3年目くらいですね。周りと比較してどうこうじゃなくて、1年前や2年前の自分と比べれば、今の自分はすごい! って思えるようになった時から変われた気がします。昨日の自分より今の自分を好きでいられたらそれでいいやって。そう思ってからは楽になりました。


CHICO:他の人と比較をしないということを10代でできるって、すごいことですよね!


haru.さん:救いでしたね、それは。生きて行くために発見した術だったと思います。


CHICO:荒行だったってことですかね。


haru.さん:荒々しすぎて、全然おすすめできないですけどね(笑)。


CHICO:逆に今、自分に正直でいながら日本で活動していることに心地よさは感じていますか?


haru.さん:はい。感じています。仕事も、その時の自分とその時の仕事の相手としかできないことをしようと思って取り組んでいるので、その体験を何かと比較されても意味ないと思っていますし。周りの人をライバルと思ったこともないし、心地いいなと思いながらやれています。日本に帰って来てメディアで取り上げてもらうようになってから、期待に応えないといけないとか、役割を全うしないといけないという思いが強くなってしまった時期もありました。頑張りすぎて体調を崩したりもしたんですけど、そういうのも一旦通って、今は落ち着いてものづくりする姿勢になれている気がします。

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何かを伝える時に、自分を犠牲にしちゃいけない

 

CHICO:私生活ではパートナーもいらっしゃって。

 

haru.さん:そうです、はい。

 

CHICO:事実婚だそうですね、おめでとうございます!


haru.さん:ありがとうございます。


CHICO: haru.さんのような20代の女性が事実婚という選択をされたというのを知って、自分とのつじつまを合わせていく作業をとことんやっている人だなと感じました。


haru.さん:そうですね、確かに。自分の人生だし自分の生活だから、相手としっかり話し合って、二人にとって本当にいい形ってなんだろうと考えました。


CHICO:そこがかっこいいなって思います。肩に力を入れずに、自分のいいなと思えることを自然にやっているところが。


haru.さん:環境に恵まれているっていうのもありますね。事実婚を選択したいと思っても、パートナーはもちろん、その周辺の人たちや家族の声も大きく影響するじゃないですか。幸いなことに、私の両親も彼の両親も事実婚にすごく肯定的だったんですよ。二人が一緒にいて一番居心地のいいあり方でいなさいって言ってくれて。今後どうなっていくかはまだ分からないけれど、もし良いことがあったら、それをいろんな人に伝えていきたいですね。もしかしたら、誰かが事実婚を選択しようと思った時ときのひとつの材料になりえるかもしれないですし。そういった発信をしていくことも、自分が持っている特権みたいなものを社会に還元することにもなるのかなと思っています。いいことも悪いことも、今みたいにお話をする機会をもらった時にシェアできたらいいですね。


CHICO:メインストリームとは違う選択をしているのに、この人すごく幸せそう! というような。そんな情報がharu.さんを通してみんなに伝わっていくといいですね。そこから一人ひとりの幸せに落とし込めるように。


haru.さん:何かを伝える時に、自分を犠牲にしちゃいけないなって思うんですよね。社会のために身を捧げながら、アクティビズムで切り開いていった人たちにはもちろんリスペクトがありますが、みんながみんなそういう風に問題に取り組むことは不可能だし、続かないことだと思うので。“これは自分のためにやってるんだ”という感覚は、絶対に忘れちゃいけないことだと思います。


CHICO:自分を満たして行くってことが、いろんな解決につながっていくような気がしますね。


haru.さん: 私自身も経験があるんですけど、社会をよくするって思うと本当にしんどくなってきちゃうんですよね。私の周りでも情報発信している若い女性がいますが、実は少し心配しているんです。彼女たちには、ちゃんと健康でいてほしいから。私も頑張りすぎて、体を壊したので。


CHICO:他人が軸になっていると人ってなかなか動けないし、長続きしないんですよね。haru.さんは、自分の軸に合わせていくことが自然にできていると思うんですけど、それがうまくできなくて努力を要する人の方が世の中的には多いのかなと思います。そういう人たちが自分の気持ちに正直であるためには、どこから始めたらいいのでしょうか?


haru.さん:その人によって、物事の重要度って違うじゃないですか。私は割といろいろなことをどうでもいいと思っているんですけど(笑)、ルールを守ることで自分が満たされるという人もいる。秩序を乱さず、その輪の中に率先していることが心地いい人ですね。それはそれで、すごくいいことだなと思っていて。私自身は、ものづくりにおいてはこうしたいとか、こういうものは作りたくないとか、意見がはっきりあるんですが、それ以外、例えば生活においてのあれこれにはこだわりがないんです。


CHICO:私も似たタイプです。


haru.さん:“ここだけはこうしたい!”っていう軸を持っていれば、ブレることはあまりないのかなと思います。嫌だなと思うことに対しては素直にいて、あとはサプライズとして受け入れらたらいいかもしれないですよね。


CHICO:なるほど! それはすごく分かりやすいですね。イラッとか、モヤッとすることが起きると、“あれ?”ってなりますもんね。逆に好きなことを教えてって言われると難しいけれど。


haru.さん:イラッとかモヤッとしたら、そのポイントが結構その人を表しているんですよ。なので、そこだけは自分の心に忠実いればいいと思います。それ以外のことは、いろんな世界があるんだと思って気にせず飛び込んで、見聞きして、インスピレーションソースにしていけばいいのかなって。


CHICO:自分らしさを出すことで批判されるのが怖い、と感じる人も多いと思うのですが、haru.さんはそこは気にならないですか? 


haru.さん:あまり気にしたことないですね。


CHICO:そもそも気にする必要がない、というカテゴリーに入っているということなんですかね。


haru.さん:そんな気がします。何か言われても、「ふーん」みたいな(笑)。

自分の意見を伝えた上で、相手がそれを受け入れられないってなったら、それはそれでしょうがないですよね。


CHICO:それが普通ってことですよね。どこを守りたいかが、はっきりしている。


haru.さん:はい。それ以外はなんでも、結構ウェルカムなんですよ。なのであんまり怒らないとか、人が良さそうとか言われるんですけど……。実はめちゃくちゃ頑固です(笑)。


CHICO:あはは(笑)。haru.さんの魅力的なお人柄が伝わってきました。貴重なお話をありがとうございました!

 

PROFILE

haru.  

HIGH(er) magazine編集長 / HUG 代表取締役

1995年生まれ。東京藝術大学在学中に、同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌HIGH(er) magazineを編集長として創刊。多様なブランドとのタイアップコンテンツ制作を行ったのち、2019年6月に株式会社HUGを設立。代表取締役としてコンテンツプロデュースとアーティストマネジメントの事業を展開し、新しい価値を届けるというミッションに取り組む。

HIGH(er) magazine オフィシャルサイト

HUGオフィシャルサイト

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