【本当においしいヴィーガン料理のパイオニアにききました】野菜から、どのような未来が見えますか?

Organic Lifestyle Special Interview
2018.08.09

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無意識のうちに、健康で幸せになれる場所

Text / Hiromi Tani  Photo / Spring Step

Spring Step : 清野さんのヴィーガンレストラン「8ablish(エイタブリッシュ)」のお料理は本当においしいですよね。その前身のヴィーガンカフェ「Cafe Eight(カフェエイト)」や「Pure Cafe(ピュアカフェ)」で、ヴィーガン料理に初めて触れた方も多いと思います。

 

清野 玲子さん(以下 清野さん) : 私自身は肉が大好きな母のもとに産まれたのですが、母乳も粉ミルクもすぐに飲まなくなり、もちろん肉も食べず、偏食で手がかかる子と言われて育ちました。1997年にビジネスパートナー(現エイタブリッシュ共同代表の川村明子さん)とデザイン会社を立ち上げたときに、自宅兼事務所の8畳間で毎晩いろんな人を呼んで野菜料理の宴会を開いていたのが、カフェエイト立ち上げのきっかけです。

 

Spring Step : ヴィーガン料理を勉強されたわけではないのですか。

 

清野さん : 自然食とかマクロビオティックというジャンルを何も知らずにスタートしたんです。要は私が外食できなかったから、自分が食べられるものを作って、そこに人を誘ってただけ。野菜料理の店をやってみたらって言われて、皆こんなに喜んで食べてくれるのならいけるかもって。でも飲食のプロに相談しに行ったら「コストかかる上に値段も上げられない野菜なんて絶対うまくいかない。悪いこと言わないから肉もやりなさい」って言われたんです(笑)。でも野菜と違って肉は、生産者の顔が見えないし、自分で説明できないものを出すのは嫌だなと思い、ヴィーガンのメニューだけでスタートしました。

 

Spring Step : 野菜だけで、ちゃんとおいしくて満足できる料理を出していたから続いたんですね。

 

清野さん : 最初はヴィーガンだとは一切言っていなかったので、肉がないことに気づいていない人も多かったんです。当時まだオーガニックやナチュラルといった概念は希薄で、ヴィーガンも玄米も今ほどいいイメージではなかった。2006年にレシピ本『VEGE BOOK』(リトルモア)を出したときに、編集の方に説得されてヴィーガンという言葉を使ったのですが、そこで初めてカフェエイトが純菜食のカフェだと知ったお客さんがいて(笑)。おいしいって思ってもらえればいいんだなって。

 

Spring Step : フランスのヴィーガンレストランもそうだったんですが、多くは味が単調で、同じものがお皿に大量に乗っかっているだけだったりして満足度が低い。ヴィーガンとかオーガニックを掲げていればそれでいいような風潮があります。

 

清野さん : “心地がいい”“おいしい”と、肌で感じたことは忘れないですからね。「アンコンシャス ウェルビーイング(Unconscious Well-being)」と私たちは言っていますが、無意識のうちに健康で幸せになれるというのがいい。料理なら理屈抜きにまずおいしいと思ってもらうことが大事です。時間はかかりますが、そうした仕掛けが必要ですね。

 

Spring Step : どうやって野菜をおいしく食べるかというところから向き合ってきたから、出てくるお料理が嬉しそうに見えるんですね。

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日本の農業が直面している事実

 

Photo / Nahoko Morimoto 

Spring Step : おいしくてクリーンな素材を安定して得るのは、大変なことなのですか?

 

清野さん : 安心で安全な食という視点では、今の日本の農業の現場は深刻な問題を抱えています。農業従事者が激減する中で、TPP*1の締結や種子法*2撤廃といった局面を迎え、環境に優しい農業をやろうとする人たちの立ち位置が、とても難しくなっているんです。

 

Spring Step : 種子法によって、米や穀物が流出しないように守られていたのですよね。

 

清野さん : そうです。この撤廃によって種子が海外に流出すると、ブランド米も含めて日本原種の農作物がどんどん海外で作られることが危惧されています。一方で、農水省は耐病性があって安定採取が見込めるハイブリッドの種苗を推奨している現状があります。このf1種は固定種と違い、次世代の種子が親の遺伝子を受け継がないという特徴がある種子。オーガニックで持続可能な農業を目指す人の中には、あえて固定種を自家採種(自ら生産した作物から種子を採取すること)する人も増えています、それもいろんな規制がかかってやりづらくなってきているようです。

 

Spring Step : アーユルヴェーダの先生に、種子は生命の源だから種子をしっかり食べるとよいと言われたことがあります。けれど有機でない種子からは芽が出ないんですよね……。

 

清野さん : 私たちは今、アジアの有機農業団体を主宰し、世界各国の農業現場を見ている村上真平さんという方と取り組みを始めているんですが、彼は「農業こそが自然を破壊する」と言うんです。

 

Spring Step : えっ、どういうことですか?

 

清野さん : 山や森にはいろんな生態系があり均衡が保たれているけれど、農業は人間の都合のためにやっていること。かつて栄えた四大世界文明は、今すべて砂漠化していますよね。文明が起こり、人が食べ物を得るために大地から栄養を搾取した結果です。農業そのものの考え方を改めないと、肥沃だった土地が砂漠になるように、社会も破綻するでしょう。

 

Spring Step : どこに道があるのでしょう。 

 

清野さん : 日本の農業はまさしく危機に直面していると言える。「パーマカルチャー」、つまり持続可能な農業と文化について理解しなければならないと痛感しています

 

*1 環太平洋戦略的経済連携協定。関税の撤廃により貿易の自由化が進み、輸出が活発になる一方で、安価な農作物が流入する見込み。日本の農業に大きな影響を与えたり、食品添加物・遺伝子組み換え食品・残留農薬などの規制緩和により、食の安全が脅かされることが懸念されている。

*2 主要農作物種子法。コメや麦、大豆といった主要作物について、その種子の安定的な生産と普及を国が担うとして、戦後に制定された法律。2018年4月に廃止された。

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“ばちが当たる”という感覚

 

Photo : Nahoko Morimoto 

清野さん : 私が大切だと思うのは、「ばちが当たる」という感覚。小さい頃にお母さんやおばあちゃんから言われませんでしたか? お米を残したり、物を粗末にしたり、人に意地悪をしたりすると神さまのばちが当たるって。神さまはいいことも悪いこともすべて見ているから、ひどいことをすると確実にしっぺ返しが来るという意味ですよね。

 

Spring Step : 今は核家族化が進んで、そういうことを言ってくれる親戚やご近所さんもいなくなりました。

 

清野さん : 理屈でなく、どうしたらばちが当たるのか、ばちが当たるってどういうことなのかということを知ってほしいと思うんです。合理性を追求する今のやり方を続けていたら、きっと大きなばちが当たる。我が子も含め、次世代の子供たちにそういう気持ちをもってほしい。

 

Spring Step : 昨今の異常気象や災害も、大きなばちの予兆かもしれませんね。

 

清野さん : 山や土がアスファルトで舗装されて、雨を吸収できなくなってるんですよね。村上さんとのプロジェクトでは、山の斜面に畑を作る際に地滑りしないような作付けとか、溢れない水路の作り方などを実践しています。ばちが当たらないやり方ですね。昔は山や森の守り神がいると信じ、開発も土地にリスペストしてやっていた。現代の大量生産が必要な状況も理解できますが、土木会社がやって来て一斉にバンと上から押し固めるように、安く早く経済効果優先でやろうとするとそこに無理が生じます。

 

Spring Step : 意識のある人は気づいていると思うけれど、そうしたことを本当に知ってほしい層に届けるには大きな企業や社会と組むことも必要だとも感じます。企業の社会的責任として手伝ってもらえるような。

 

清野さん : そうなんです。社会的には小さな存在である私たちが、こんなことやってますといくら言っても、ある一定のところ以上には広がらない。いろんな人や業界を巻き込んでいかないとなりません。自分たちだけがよければいいというのではなく、いろんなフィールドの人にその気になってもらうことが必要です。

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ゴミを減らすことで環境の負荷も減る、そして何より気持ちいい!

 

photo : Spring Step

清野さん : 私自身が実践し始めたことなんですが、「できるだけゴミを出さない工夫をする」というのはどうですか? モノを買うとき、衣類でも食べ物でも、それは今の自分に本当に必要なのかどうかじっくり考えて、ゴミになる可能性があるものは買わないこと。これを習慣にすればゴミの量がまったく変わってきます。我が家では、ベランダのプランターで野菜を育てているんですが、料理や食事で出た野菜くずや食べ残しは、すべてコンポスト

にして土に帰すんです。プランターを置くだけで、ゴミだと思っていたものがすべて肥料になるんですよ。これって発想の転換ですよね。

 

Spring Step : なるほど!そして実践しやすいかもしれませんね!

 

清野さん : ゴミの焼却にかかる莫大な費用と、そこから発生するCO2の問題は年々深刻になっています。人が消費をする限りゴミが出ます。プラスティックや機械の廃棄は人も環境も汚染します。今、先進諸国で廃棄された電子機器が、発展途上国のスラムに運ばれ、不法投棄されている事実をご存知ですか。ガーナのアグボグブロシーという地域は、電子機器の巨大なゴミ捨場になっています。内蔵されているパーツには分解したり燃やしたりすれば資源として売れるものがあるのですが、その過程で大量の発がん性物質や有毒ガスを発生します。そこに住む若い人たちはお金ほしさに命がけでその作業をやっているんです。日本製の携帯電話やPCなどもたくさんあるそうです。

 

Spring Step : ……それを捨てた若者たちと同じ世代の子たちが、そんな危険な作業を強いられているんですね……。

 

清野さん : 正確な数量は把握できないですが、同様に相当な量の廃棄物が海に沈んでいるとも言われています。このしわ寄せはどこにいくか、私たちの子孫に対して責任がとれるでしょうか。モノがあふれる現代社会だからこそ、安易に生み出して安易に廃棄することをストップしないと、思わずにいられません。庭やプランターで野菜を育てることが、その第一歩になると思えば、やってみようと思ってもらえるのではないかしら。

 

PROFILE

清野 玲子さん Reiko Kiyono /株式会社エイタブリッシュ代表、クリエイティブディレクター

幼少よりベジタリアンとしての食生活を送る。制作会社などを経て1997年に、ビジネスパートナーの川村明子さんとともにクリエイティブカンパニー「ダブルオーエイト」設立。ヴィーガンカフェ「カフェエイト」を皮切りに、現在は本格的なヴィーガンレストランとマフィン&コーヒーショップを運営。オーガニックのさまざまなフィールドの人々とのネットワークを持ち、オーガニックフードのご意見番的存在。

http://eightablish.com

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