【福祉実験ユニット代表に聞きました】先入観やボーダーを超えた、新たな試 みについて教えてください

Way of living Lifestyle Special Interview
2021.10.07

1

障害のある方のアートをライセンスビジネスへ

TEXT :  Shiho Tokizawa / Photo :  Heralbony

 

 

Interview:ヘラルボニー代表取締役社長 松田崇弥さん

 

Spring Step:ヘラルボニーさんは、障害のある方の描く表現豊かなアート作品をライセンス管理し、さまざまなアプローチで世に放つ活動をされています。契約されているアーティストの作品を拝見しましたが、ひとつひとつがとても素晴らしいですね。感じのいい作品はこの世にたくさんありますが、そういうものとは一線を画している気がします。それぞれに、訴えるものや伝えたいこと、意思がある。その部分が、障害者の方の作品作りにおける独特なスピリットなのではないか、と感じました。

 

松田崇弥さん(以下松田さん):私たちの場合は、重度の知的障害のある方との契約がほとんどなのですが、その方々が生み出すアートの魅力にひとつに、“繰り返し”の表現の面白さがあると思っています。毎日決まった時間に同じ習慣をこなすことが得意であるというのは、自閉症やダウン症の方たちの脳の特性でもあるのですが、それがアートにも顕著に現れているんですね。ボールペンでひたすら黒丸を書いたり、何かを羅列し続けたり…。そういった本人の強いこだわりが、最終的には連続した柄になるんです。

 

Spring Step:かっこいいものを作ろう!とか、そういう意思が全く見えない。ストイックなまでに純粋ですよね。

 

松田さん:社会的な承認欲求が少ない人が多いと思います。私たちは、新聞やメディアへの露出、リツイート数などに過剰に反応してしまいますけど、彼らは違う。社会的なトレンドを狙うことはないので、そこは本当に尊敬します。それよりも、テリトリー内にいる人たち、例えばお母さんお父さん、施設の職員さんたちに「この作品いいね!」と褒められることの方がうれしいようです。

 

Spring Step:アーティストの発掘はどのようにされているんですか?

 

松田さん:会社を立ち上げた当初は自分たちで調べ、ご一緒したい作家さんの元に直接足を運んでいましたが、今は作家さんサイドからお声掛けをいただく機会も多くなりました。そのようなご縁の中で、お互いに納得できた場合に契約まで至るという感じですね。

 

 

Spring Step:“みんながうれしくて楽しい!”というビジネスの形になっている気がします。このようなビジネス感覚を持たれるまでのバックグラウンドを教えていただけますか?

 

松田さん:母親が福祉に積極的だったので、その姿を見ていたのはやはり大きいですね。私には4歳年上の自閉症の兄がいますが、昔はひとりで電車に乗ることが難しかったのです。しかし、今は母の努力により自分の力で乗れるようになっています。こういった、生活する上で必要なスキルを身につけていくことはとても大切だし、尊いことです。その一方で、それが直接お金に結びつく訳ではありません。そう気づいた時に、すでに彼らができていること、例えば出来上がっているアート作品に金銭的な文脈をつけていくのはどうだろうかと考えるようになりました。また、私は以前キャラクターライセンスの仕事も少しだけしたことがあるのですが、ひとつのキャラクターでも、世の中に認められると大きな評価と価値を生み出す。ライセンスというのは、このくらいのパワーコンテンツになりうるのだと感じました。

重度の知的障害がある方がクライアントの納期に合わせてコンスタントに作品を描き続けることはハードルが高いですが、すでにある作品をデータ保管させていただいて、ライセンス事業として運営することはできるかもしれない。うまくいけば、アーティスト本人は許諾を出すだけで、きちんとお金が入ってくる。そういう構造を作れるのではないか、と仮説をたてたのが始まりです。

 

Spring Step:なるほど。ご本人のご経験から、ビジネスモデルが出来あがったんですね!

 

松田さん:会社を立ち上げた当初からライセンスビジネスのモデルを思いついていて、双子の兄と意気込んでスタートしたんですが、実は最初の半年は全然ダメでした。ですのでまずは、ブランド事業に力を入れることにしました。BtoCのオリジナルブランドを先に作り、まず世界観を提示する。こんなに素敵なものが作れるんだよ、ということを私たちから示す。ある意味、ショールーム的な立ち位置で、先にブランドを機能させることにしたんです。

 

Spring Step:確かに、先にモデルケースを提示することによって、展開が想像しやすくなりますよね。

 

松田さん

松田さん:当初は、「無料だったら考えます」というリアクションも多かったですね。もちろん、チャリティーが悪いわけじゃないです。新しいアプローチをするためには、批判するわけではないですけど、僕たちは営利企業としてビジネスをやりたいという思いが強かった。チャリティーや社会貢献という枠にとらわれたままだと、“福祉=安いもの”というイメージから離れられなくなるんですね。ですので、こちらから世界観をしっかりと打ち出していかないと伝わらないのだなと感じました。

2

輝く才能を、社会とリンクさせる

 

Spring Step:風穴が開くきっかけというか、ブレイクスルーになった事業はありますか?

 

松田さん:大手企業との取り組みが増えたことで、わかりやすい物差しができてきた気がします。とはいえ、まだ試行錯誤を繰り返している段階です。

 

Spring Step:盛岡にギャラリーもあると聞きました。

 

松田さん:はい。盛岡は地元ですが、敢えて地方都市につくったんです。ギャラリーでは原画の販売もしていますが、まずはハンカチやエコバッグなどのアートプロダクトからアートに触れる体験をしていただけたらと思います。

 

Spring Step:最近は、いいアクションを起こしたい人が増えてきているように思います。自分がお金を使うことで、何かにダイレクトに貢献することができるという図式が見えるのは素晴らしいですね。

 

松田さん:購入するというアクションが、その方の幸福感に繋がってくれたらすごくうれしいです。そういえば、以前契約していた作家さんの親御さんが、こんな話をしてくれました。その作家さんの作品を、ご家族は当初ただの落書きだと思っていたそうなんです。ですが、実際に商品になり街でも掲出されるようになると見る目が変わり、家で飾るようになったと。作家本人だけでなく、親御さんも自信を持てるようになった。重度の知的障害の方はお金の感覚を掴むのが難しく、本人からしたら10万円でも500円でも大した差はなかったりします。ですが、本人がアーティストと呼ばれるようになり、お金を生み出せるようになると周囲の反応が変わっていくんですね。そうすると、結果的に本人も幸せになっていく。そういったきかっけを作る役割も、多少は担えていると自負しています。

 

Spring Step:障害のある方のご家族の皆さんも、いろんな思いを抱えながら何十年も育てたり暮らしたり、生活の共有をされていると思います。アートを通じ、社会からの受け止められ方が変わると、きっとご家族の自己肯定感も上がりますよね。

 

松田さん:それは本当にありますね。作家さん宛てのファンレターも届いたりしますし。手紙が届くと、多くの場合はご家族にお送りするのですが、すごく喜ばれますね。

 

Spring Step:還元されるところが、すべて「生きる」というライフそのものに直結していますよね。

 

松田さん:ありがとうございます。作家さんのご家族も含め、幸せの循環がうまく回っていけばうれしいですね。私の母親も、今はすごく楽しそうに暮らしていますが、実家の本棚を開けて見るとたくさんの育児関連本があり、過去の苦悩が垣間見れますので。“お子さんは、そのままで素晴らしいんですよ”と肯定する仕事でもあるのだろうなと思ってます。

ですがもちろん、私たちが正解だとは思っていません。作家さんも、自分たちが素敵だなと思った方とだけ契約していますので、それはある種の選別な訳です。私たちが行なっているのは、知的障害者という限られた枠の中で、さらに限られた人をピックアップさせていただき、その光を社会に見せること。そこをしっかりと自覚する必要はあると思っています。みんながみんな、アートの才能があるわけではない。ですが、ものすごく光る才能があるけれども自分の力ではアピールすることが難しい人に、きちんと社会とつながるきっかけをもたらしたいんです。誰もがフェアな状態になっていくということが、大切なのではと思っています。

 

Spring Step:言ってみれば、人間はみんな凸凹ですもんね。みんなに良いところと悪いところがあり、スポットライトは良いところに当ててあげようというのは、実は万人に共通することなのかなと思いました。「この人のここは、本当に素晴らしいね」と言い合える、そういう社会のあり方がノーマルになっていくといいですね。

 

松田さん:そうですね。できることに社会的スポットライトが当たったり、金銭的文脈が生まれることが当たり前の構造になっていけば素敵だなと思います。

 

Spring Step:今後、チャレンジしていきたいことはありますか?

 

松田さん:当面はアートによって一般の方が持つ障害者の方々へのイメージへの変革を行なっていきたいですが、その後は障害者の方たちの生活を変えたいです。例えば、福祉施設やグループホームの経営など。人生を終える瞬間まで安心して暮らしていけるような、そんな場所を作っていきたいですね。

 

 

EVET INFO:

2021年10月20日〜10月26日

新宿高島屋 1Fにて期間限定ポップアップを出店

 

PROFILE 

松田 崇弥(まつだ・たかや)さん / 株式会社ヘラルボニー代表取締役社長

 

双子の弟。東北芸術工科大学企画構想学科卒業。小山薫堂率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズにプランナーとして入社。
その後独立し、知的障がいのあるアーティストが日本の職人とともにプロダクトを生み出すブランド「MUKU」を立ち上げ、プロデュース。

2018 新しい福祉領域を拡張したいという想いから、双子で株式会社ヘラルボニーを設立。

2019年、日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。

 

Spring Step News Letter
のご登録