【乳がんサバイバーにききました】闘病生活での理想を追求した最高に気持ちの良いパジャマとは?

Way of living Organic Lifestyle Special Interview
2021.10.21

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闘病生活が教えてくれたパジャマの世界

TEXT: Spring Step / PHOTO : AYUMI SHINO

 

Spring Step: 篠さん、こんにちは!篠さんはパリで活躍されているフォトグラファーでおられますが、昨年ご自身でパジャマのブランドを始められたということで、篠さんがデザインされているパジャマのブランド、Pageaerée (パージュアエレ)を立ち上げられた経緯を伺えますか?

 

篠あゆみさん (以下 篠さん): 私は2017年に乳がんになり、その後手術が終わって3ヶ月も経たないうちに大腸ガンだとわかったんです。3−4ヶ月の間に2回の手術、4回の入院を体験しました。入院の時には病院から必要なもののリストを渡されるのですが、そのリストには、例えば前あきのパジャマとか、パジャマを洗ってくれる人がいなければ病院でレンタルしてください、等の注意事項も書いてありました。私はそれまでは、パジャマにそれほどこだわりがなかったので、それを機に初めて誰もがイメージするような「パジャマ」を買うことになりました。そして、いざ探してみると、自分で気に入って「これならば!」と思えるものが全く無くて、実はパジャマの世界って遅れているなと思ったんです。そして、「あ、素敵だな!」と思うパジャマをセレクトショップなどで手に取って見ると、7万8千円。え!って値段にびっくりしたり。最終的に「このあたりで、、、」と手を打ったパジャマに決めて闘病生活を過ごしましたが、気持ちが盛り下がるんですね。手触りも満足できず、そして体型がきれいに見えない。入院中は病院内のコンビニでこれを買ってきてください、とか、CT受けてきてください、と言われて院内を歩き回らなければいけないけれど、ガラス窓に映る自分の姿を見て「こんなんじゃ嫌だーっ!」て心から思ったんです。やっぱり体のシルエットがきれいに見えて、気持ちが盛り下がらない、肌触りが良いパジャマがどこかにないかな?って考えました。そして、それを作りたいと思ったのが最初です。


Spring Step : 確かにパジャマって体がズドンと見えますね。


篠さん : そうなんです!ズドーンとね。180cmのモデルさんは何を着ても美しく見えるかもしれないのですが、私は背が低いので特にパジャマはズドーンと見えがちで。お見舞いに来てくれる人たちに会う時には、皆オシャレなのに、私は髪も染められないし、メイクもできない、そういう自分の姿で皆に会わなくてはならなかったこともすごく嫌だったんです。そんな時に、ヘアバンドがあったらいいな、って思ったんですね。点滴スタンドを引きながらコンビニに行かなくてはならない時に、お財布をそっと忍ばせてさりげなくスタンドに一緒にかけて行ける、そういう小さなトートバックがあったらいいなって思いました。私自身が入院中に病院で感じた小さな違和感や「こういうものがあったらいいに」、と思ったものを製品にしました。

でもその時は、もちろん自分で作ろうだなんて全く思っていなくて、闘病があまりにも辛かったので、目の前の闘病に必死でした。2回目の大腸ガンの時は、ステージも高かったので、抗がん剤治療が必須で、毎日それをこなしていくことだけで必死でした。ある時、抗がん剤治療が落ち着いた時に、ふと、「あ、パジャマを作りたい」という想いが現れたのです。その想いというのは、実は病気がわかってから初めて未来に向かって何かを自分でやりたいと思えた瞬間だったんで
す。


Spring Step : なるほど!

 

篠さん : その時に、「あ!わたし未来のことを思えた!」って思ったんです。だから絶対にやり
たい!と思って、立ち上げの準備を始めたのです。

この時に背中を押してくれたのが、今、生産を一手に担ってくれている会社の社長でした。

 

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理想のパジャマができるまで

 

Spring Step : 病気を治す、って実は病気を治すこと自体がゴールではないですよね。


篠さん : そうなんです。


Spring Step : その先にどういう暮らしをしたいか、何をしたいかが見えると自然にそうなっていく。病気のその先に意識を向けることが回復にも大切な気がします。


篠さん : そうなんです。お医者さまも治すことはすごく説明してくださるんですが、治った後のことについては、ケアマネージャーさんも来てくださるものの、後々の後遺症について考えるというより、まずは目の前の病を治療することに皆集中しておられると思うんです。
でも私たちにとって、実は生きていく中で病気の後の方が大切だと思うんです。病気の後も私たちのライフは継続していますから。


Spring Step : 確かに病気って手術のことをメイン話しますけど、実はその後のリハビリもとても大きなことですよね。私も親の病気を体験をして、もちろん病気の種類によるかもしれませんが、どちらかというとむしろ術後の方が長くて大変かもしれないと思いました。精神的なモチベーションをキープすることも、容易ではないですよね。


篠さん : はい。抗がん剤の治療はものすごく大変で、それを乗り越えることで必死です。その先を考えるなんてはっきり言ってとても難しいと思います。


Spring Step : パジャマを作ろうという未来が見えて、パジャマが出来上がるまでどのくらい期間がかかりましたか?


篠さん : 3年です。私はフォトグラファーになる前は、スタイリストだったので、お洋服は私の生活のなかでは割と身近な存在でした。でも生産するとなると、全く別の話で、右も左も分からない!コストついて学んだり、何を基本において製品を作るか、など。今生産に関わってくださっている所と実際にスタートするまで、構想に1年くらいかかってしまいました。また、製造地は日本ですが、私がパリにいるということでも物理的に時間がかかってしまったり。コロナの影響で技術職の人が動けなくなっていたりと、いろいろ暗礁に乗り上がってしまうことも度々ありました。


Spring Step : 数ある工夫があちこちに凝らされていると思うのですが、特に気を配られたことは
どのような所ですか?

 

篠さん : 闘病中は薬で肌がとても敏感になっています。私は、もともと縫い目が当たるとミミズ腫れになったりする体質で、闘病中はそれが特にひどくなっていて、体に直接当たるものは優しくあるよう、タグを外に出したり、縫い目を袋縫いにして体に当たらないようにしたり。また、薬で指が思うように動かなくなるので、ボタンが小さいと大変です。最初はカフスがおしゃれかな、、とも思いましたが、注射や点滴の際には大変だから、袖口はゴムにしました。
チュニックのボタンの空き具合も、乳がんの場合にパジャマを開けすぎずに済むように。またこれは出産をされたばかりのママにもきっと授乳しやすい形だと思います。他にも、襟周りがクタクタ見えないように、二重にして襟がちゃんと立つようにしたり、パジャマの丈も前は短め後ろは長めに丸くカットしてあるので、お尻がちゃんと隠れます。パジャマを着ながら心もとなくないように計算されています。全体的にシルエットが綺麗に見えるようにとパターンを決めています。

 


Spring Step : 実際に出来上がりを見た時どうですか?


篠さん : 3回目のサンプルが仕上がった時、自分で着てみて、ああ、これなら外に着ていける!病院の中も歩き回れる!って心から納得した出来上がりになりました。


Spring Step : パージュアエレのパジャマはお洗濯した後にアイロンがかかっていなくてもきれいです。洗うと生地が柔らかく風合いが出てきますよね。私は個人的にはコットンは割とアイロンかけるのが好きですが、このパジャマは、ふわっとした感じの方がむしろ心地良いですね。洗いざらしが気持ちがいいですね。そして襟の形がかっこいいです。


篠さん : 襟が空いた時に首に当たらないように、でも素敵に見えるようにという工夫をしています。私自身はパッと手を通した瞬間が好きなんです。ふーっと軽いと、まるで自分の気持ちもふわっと軽くなるようです。素材の気持ちが良いものっって、パジャマに限らず、パッときた時にフワーッとなる感じありませんか?それが、パジャマを着た時に感じられるので、私はその感覚がすごく好きなんです。

 

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最後に行き着いた、最も自然な選択肢 : オーガニック和晒し

 

Spring Step : 袖を通してみるとコットンと肌の間に空気があるのを感じますね。


篠さん : パージュアエレという名前にしたのも、そもそもアエレというのは、フランス語で「風通しの良い」という意味なのです。パージュとアエレというもともとは二つの言葉で、パージュとアエレという言葉は、レイアウトで「余白のあるページ」、という意味なんです。それを知って、パージュアエレという名前にしました。まさに風通しの良い、という部分とつながっていると思いましたしね。日本語で皆さんがどう印象を受けられるかわかりませんが、フランス語ではとてもポエティック(詩的)で良いと友人たちも言ってくれました。
闘病の経験を生かして生まれたけれども、日々嫌なことがあったり、辛いことがありますが、お家で最後寝る時に、ストレスが軽減されるようないい気持ちになっていただけると思います。パージュアエレのパジャマは外に着て行ってくださる人もいいですが。誰に見られるわけでもなく、自分のために何か一つ選んで着るという行為に意味があると思うのです。


Spring Step : 自分の時間のために着るだけでリラックスしますね。私は袖を通して脱ぎたくなくるパジャマですね。
オーガニックコットンの和晒しを使われておられるということですが、オーガニックコットンにこだわられた理由はありますか?


篠さん : オーガニックのコットンと一口に言っても本当にたくさんの種類があって、触れれば触れるほど、これは気持ちいいのか?と頭で考えていたところに、オーガニックの和晒しと出会い、その瞬間に「これだ!」と感じたんです。晒しというのは、綿を水に何度も晒す過程があって、不純物が少ない、日本の伝統的な技術です。この出会いがあって「わたし、これがやりたかったんだ!」ってその瞬間い全ての辻褄があったと思ったんです。
そしてヨーロッパに住んでいると、ビオ(オーガニック)って生活の中に当たり前にあるものです。オーガニックではない選択肢がむしろ存在しないと言ったら良いでしょうか。結局オーガニックコットンを使う決めたことで、制限が出てくることは確かにありますが、でもここでしっかり踏ん張れば、またオーガニックの市場がこれから変わるかもしれないとも思っているんです。自分の体に優しいだけではなく、環境にも負担がない、そこには自分にブレずにやっていきたいと思っています。
パージュアエレのパジャマの製造は小ロットですが、自分にとってもサステナブルに続けていける方法を模索しながらやっています。オーガニックであること、そして自分の病気のきっかけで始まったということを基盤において、これからも製品の製造を続けていきたいと思っています。

 

 

 

【パージュアエレの展示会情報】
SDI Co.,LTD
SUSTAINABLE COLLECTION 2022
日時 2021年10月21日(木)、22日(金)、23日(土) 10:00~17:00
場所 〒153-0042  東京都目黒区青葉台1丁目15-3 3F展示フロア

 

プロフィール
AYUMI SHINO 篠 あゆみさん / フォトグラファー、パージュアエレブランドディレクター

多摩美術大学卒業後、スタイリストとして活動。1999年渡仏、以降フォトグラファーとして現在に至る。2020年ライフスタイルブランド「パージュアエレ」をスタート。

 

 
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