【大草直子さんにききました】“自分の軸”のつくり方

Lifestyle Special Interview
2019.01.03

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大草直子流”自分軸のつくり方”その1〜自ら行動すること


Text / Hiromi Tani  Photo / Spring Step

 

Spring Step : 編集者、スタイリストとして、多くのメディアでご活躍。リアルな言葉で生き生きと綴られるメッセージに多くの女性が励まされ、絶大な信頼を得られていらっしゃいます。その理由はご自身では何だと思われますか?

 

大草 直子さん(以下 大草さん) : そんなふうに言っていただき、ありがとうございます。そうですね、“自分の軸”がブレることなく、自分の言葉で発信しているからでしょうか。

 

Spring Step : まさにそうですね、確固たるご自分の軸があり、そこに共感する方が多いのだと思います。大草さんの“自分軸”は、どのようにして培われたのですか?

 

大草さん : 最初からそんなものがあったわけではなく、学生の頃は常識とか世間体とか、両親の価値観や社会性なんかにすごくとらわれていました。人と自分を比較し、容姿や持ち物なんかを引き合いにして、生きづらさを感じていたんです。もっと楽になりたい、そうしたものを手放したいと思って、行動を起こしました。

 

Spring Step : 具体的に何をされたのですか?

 

大草さん : まず、寝食を忘れて打ち込める仕事を見つけようと思ったんです。文句をいう暇もなく、人と比べるような時間もなく、とにかく自分が打ち込めるもの。それが雑誌『ヴァンテーヌ』の編集者でした。この雑誌をやりたくてやりたくて、就職試験のためにとことん研究して準備して、やれることはすべてやりました。”やりきった”と自分で思えるくらいに。それが、“自分軸づくり”の始まりですね。

 

Spring Step : そうして、念願の『ヴァンテーヌ』編集部に配属されたんですね。

 

大草さん : やりたかった仕事を思いきりやりました。がんばればがんばっただけ評価されることが嬉しくて、さらにやる気が出ました。5年間はとにかく突っ走ろうと思っていて、5年経ったときにやっぱりこの仕事が好きだと実感でき、これからはこの世界で生きていこうと心から思えたんです。

 

Spring Step : ここで、ご自身の土台ができたんですね。

 

大草さん : そう。このときに初めて、人と比べなくても、“自分でよかった”と思える自信が養われたのだと思います。“自分軸”って人から預けられるものではなく、ときには死ぬほどの思いをして自分でつくる、人生の実績。仕事の成功という意味ではなく、子育てに夢中になって子供と向き合うこともそんな実績のひとつだと思います。

 

Spring Step : なるほど。それから中南米に行かれたのですよね。

 

大草さん : 当時没頭していたサルサを本場で踊りたくてキューバに向かったんですが、ここがひとつの転機でした。それまでファッションの方程式や女性の品格を伝えていた私からすると、ラテンの世界は何もかもが型破りだけど、魅力的だった。経済的に豊かではないけれど皆すごく楽しそうに暮らしていて、品があるよりもセクシーな方がよくって、赤や黄色の原色ばかりを合わせて着こなして。自分がいた世界でスタンダードとされている欧米の基準と、それが支えていた価値観が大きく変わったんですね。強くなきゃいけない、富がなきゃいけない、シックでなければ、計算されていなければならない、これまで当たり前だと思っていたそんなルールが、ラテンのカルチャーに触れることで音を立てて崩れ去ったんです。目が見開いた気分でした。

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大草直子流”自分軸のつくり方”その2〜周囲が教えてくれること

 

Spring Step : お子さんから学んだことも大きいと伺っています。

 

大草さん : 中南米から半年後に帰国して結婚し、長女を出産しました。そのあとに離婚というさらなる転機を迎えることになりました。

 

Spring Step : 当時お子さんは3歳だったそうですが、理解してもらうのは難しかったのではないですか。

 

大草さん : 容易ではありませんでした。この決断は自分が選びとったことであり、それに自信をもって誠実に達成する必要があります。娘にはそのことを真摯に話すしかありませんでした。「パパが」ではなく、「おじいちゃんが」「おばあちゃんが」という他人の目線を一切入れず、自分を主語にして自分の言葉で、できる限り丁寧に伝えたんです。そのときに「あなたのため」と言えば“=あなたのせい”になるし、「ごめんね」と言えば彼女は犠牲者になってしまう。それだけは口にしてはならない。「悲しいかもしれないけど、パパもママもひとりの人間なんだよ」ということを、3歳の娘に説明するためにすごく考えて言葉を選んだんです。結果、わかってくれたように思います。

 

Spring Step : それは何にも代えがたい大きなご経験ですね、その言動の中にすごく大草さんらしさを感じます。

 

大草さん : 自分は言葉も行動も、こうして選びとっていこう、と娘から学んだんです。メディアに携わる者として、人の口を借りてはいけない、人の価値観を借りてはいけない。メッセージでもスタイリングでも、自分の言葉と自分の信じる価値観で伝えられる人間でありたい。当時3歳の娘によって、軸が一段太くなったといえますね。

 

Spring Step : そのあとに今のご主人とご結婚されて、2人のお子さんに恵まれるのですね。

 

大草さん : はい、三人三様ですが子供たちと向き合うことで、ともに自分も成長していくと実感しています。子供たちに伝えることは真実でないとならないし、自分が納得していないとならない。子供たちに話すために言葉を選びながら気づくことがたくさんあります。たとえば、近所のトラットリアに家族で食事に行くとき。息子がいつものようにジャージのまま出かけようとするのを、なぜ着替えないといけないかと、とうとうと説明するんです。

 

Spring Step : どのように?

 

大草さん : そのトラットリアは木のテーブルの上にカトラリーが置いてあるカジュアルな店なんですが、シミひとつないリネンのナプキンにはきちんとアイロンがかけられているし、働いている人たちはエプロン姿なんだけれど、パリッとノリの効いた白いシャツ着ているんです。ファッションは対する人への敬意の表れです。「スタッフ皆がTシャツとデニムで働いている焼肉屋さんならいいけれど、そういうきちんとした恰好でサービスしてくれる場所に、寝巻き兼用のジャージで行くのは失礼でしょう?」といえば、息子もめんどうくさそうにではありますけど、ちゃんと着替えるんですよ。

 

Spring Step : なるほど、日本の伝統的なビューティのコンセプトと一緒ですね。きちんとメイクをするのも、その場にいる方に対するリスペクトですから。

 

大草さん : そうですね。これを「ジャージなんて、よその人が見たらみっともないじゃない」と軸を人に預けてしまうような言い方をすると子供は混乱します。子供に発する言葉にごまかしはきかないから、もっとも身近でシビアな読者のように思っています。

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4分割のライフステージ

 

Spring Step : 自分軸をつくるために“寝食を忘れて打ち込めるもの”を探したということですが、やはり必死でやること、やりきることが重要なんでしょうか。中途半端にやってもだめ?

 

大草さん : “やりきった”という達成感を覚えることが大事だと思います。たとえうまくいかなかったことでも、やるだけやったと思えればいい。自分で中途半端だと思ったらそれはやりきっていないのかもしれません。“やりきる”というのはあくまで主観で、客観的なやりきりというのはないんです。

 

Spring Step : やりきったかどうかは、自分にしかわからないということですね。

 

大草さん : そう。“成功”というのは他者のものさし。一番になるとか、高いところに登るとか、いくら以上稼ぐとか、そこに比較の対象がある。やりきる、達成するというのは、自分で感じることです。他者と比べなくていい。そして他人に承認欲求を求めなくていい。自分の思いは自分にしかわからないから、“私はやりきった!”と自分で認めてあげればいい。そうするとすっごく楽になります。

 

Spring Step : 自分にいちばん近いのは自分ですものね。

 

大草さん : そして、人生のステージを4つに分けて考えられると、生きるのがさらに簡単に思えるはずです。今は人生100年時代っていわれていますよね、今働いている人も子育てしている人も、あと数十年は元気だし、働かなきゃいけない。65歳で定年なんていっていられないんです。充実した人生を長く送るために、4分割の人生設定を提案したいですね。

 

Spring Step : 4つのライフステージとは、どのように区切るのですか。

 

大草さん : 人によっていろんな設定があっていいんです。大事なのは、いくつかの区切りがあって、大まかにその単位で考えること。今できていなくても、次のステージがある、そこで達成できなくても、さらに次のステージでやればいい、と思えればいい。たとえば、学校を出て働き始めてから、40になるまでを第1のステージ。そのあと60歳くらいまでを第2ステージ。そこから80くらいまでが第3ステージ。そのあとがファイナルステージ。今はまだ最初のステージで仕事や家庭の土台づくり、まだ焦らなくていい、とか、だんだん人脈やネットワークも増えてきたから、次のステージで何か始めようかな、とか。そんな大まかなライフステージの中で生きていれば、今に固執したり焦ったりすることから解放されて、余裕が生まれます。

 

Spring Step : 大草さんご自身のライフステージは?

 

大草さん: 100歳まで生きるとして、私は95歳まで働こう! と思っているんです。今は第2ステージの終盤かな、大学を出て編集者になった第1ステージ、フリーランスとしてスタートしてからの第2ステージを通して、自分のやりたいことを探し、多くの方々に助けてもらいながら自分の夢を追いかけてきました。先輩や同僚や取材先の方々、そして読者の皆さん。次は、今まで頂いたものをそんな方たちにお返しをするステージにしたいと思っています。

 

Spring Step : 素晴らしいですね!

 

大草さん : 私たちの親の世代までは、女性の生き方はもっと制限されていたから、誰しも2段階ほどのステージしかなかったかもしれない。社会に出てから40歳くらいまでの間に何かを成し遂げて、そのあと60代までその貯金で生きていくといった具合。ピンポイントすぎて生きづらいですよね。今に生きる私たちは、もっとゆとりをもって生きられるんです。

 

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自分を表彰してあげたい10個のできごと

 

Spring Step : 大草さんのように、楽に生きられるブレない自分軸をつくるために、誰でもできる具体的な方法をひとつ教えていだだけますか?

 

大草さん : では、自分がやったこと10個に、賞をあげる、というのはどうでしょう?

 

Spring Step : 自分を表彰するということですね!

 

大草さん : そうです。この10年から15年くらいの間に自分がしたことで、すごいと思えること、よくやったと感心すること、褒めてあげたいことを10個探すんです。プライベートでもいい、家族のことでもいい、もちろん仕事でもいい。肉じゃががすごくおいしくできたとか、介護を3年頑張ったとか、パートの時給が100円上がったとか、プレゼン資料がわかりやすく作れたとか、自分の基準でいいから、とにかく10個考える。絶対にあります。そんな中に、明日につながる気づきがあるはず。そして生き方を楽にするための大きなヒントになります。

 

Spring Step : 自分で考えるって大事ですよね。SHIGETAが提唱しているセルフケアも同じ発想です。大草さんがローンチを計画されている新しいメディアにも通じるものがあるのですね。

 

大草さん : まさに!自分軸という経験値を自分の中で積み上げていくことって、いかに楽に生きられるかに結びつきます。楽って”楽しい”って書くでしょう? 心も体も楽チンでなおかつ楽しいなら、絶対にそのほうがいい。そのためのトレーニングを精神論ではなく、体系化してわかりやすく伝えていきたいと思っているんです。毎日家でできる「お腹引き締め体操」みたいに!

 

PROFILE

大草 直子さん Naoko Okusa /フリーランス エディター、スタイリスト

大学卒業後、現・ハースト婦人画報社へ入社。 女性ファッション誌の編集に携わったのちに独立。ファッションを通し、さまざまなメディアで女性にエールを送るためのテーマを企画。3人の育児を経験し、母親の視点も入れたリアルなメッセージは幅広い世代の女性たちから信頼を集める。『大草直子のSTLYLING & IDEA』(講談社)ほか、著書多数。2019年春、新たなメディアをローンチ予定。

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