長谷川理恵が語る 「一生求め続けたいこと」

Beauty Lifestyle Special Interview
2019.01.31

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ヴィーガンパティシエを通して伝えたいこと

Text & Photo : Spring Step

 

Spring Step : 理恵さんは、昨年からヴィーガンパティシエとして活動され、レストランウィークでは、フランス料理の巨匠アランデュカスのチームとともにデザートを担当されましたよね。私も理恵さんのパティスリー(デザート)をいただいたことがありますが、とにかく「おいしい」の一言では言い尽くせない、まるでドラマが口の中に広がるようでした。その時に感じたことは、口に入れた瞬間から様々な風味と食感が打ち上げ花火のように次から次へと現れる、ものすごく立体的な味わいだったことを記憶しています。ヴィーガンだということを完全に忘れてしまうくらい味わい深かった。あのような洗練されたセンスのパティスリーはヴィーガンでなくてもなかなかお目にかかれないと思います。どこからあのようなセンスが作られたのかな?と考えていたんです。

 

長谷川理恵さん(以下理恵さん)  : 私は父の仕事の都合でベルギーやイギリスに住んでいたことがあるんです。3歳から8歳はベルギーの現地校に通っていて、その頃の記憶は今でも鮮明に覚えています。私の母は料理の先生をしていることもあって、食にまつわることには大変興味を持っていました。私はパティスリーが大好きだったから、よく食べたことも覚えています。でもそんなに洗練されたものばかりではなかったけれど、あの時に味わったもの、食感、飾り付けは情報として、記憶に残っています。

 

Spring Step : アンカレッジ経由でないとヨーロッパに行けなかった時代に、幼少期をベルギーで!脳がまるでスポンジのように情報を吸収する年齢の時に、ベルギーのカルチャー、日本にはないものを当たり前のように食べていたと聞いて、作っていらっしゃるパティスリーのセンスにもうなづけます。「センスの良いパティスリーの作り方を学ぶ」というよりは、パティスリーのセンスを日常生活の中で培われたと言ったほうがしっくりくるのかも、と思いました。

 

理恵さん : 「味覚」にまつわる記憶は今でもはっきりと覚えています。母は鎌倉で料理の先生をしているのですが、私は毎日母の美味しい手料理を食べて育ちました。母にとっては、食べること自体が学びになるので、ベルギーにいた頃は(ヨーロッパは陸続きだから)車で一緒に色々なところに出かけて、あちこちで美味しいものを食べさせてもらいました。味覚は小さな頃から日々食べるもので育つと思っています。「おいしい」か「おいしくない」かどうかを判断する舌は、育つ過程で作られると思うんです。ベルギーのチョコレート一つとっても、それぞれのチョコレートの味わいを堪能していたことも覚えています。とはいえ、子供ですから、日本では「ポッキー食べたい」とも言っていました!でも、子供の頃に様々な食材に触れた経験は、今ヴィーガンパティシエとして、本当に生きていると思います。

 

Spring Step : 豊かな食文化のある家庭だったんですね。

 

理恵さん : 食べることに関してはものすごく貪欲な両親でした。私はパティスリーを作る時に、自分の味覚を100パーセント頼りにしています。私の技術力はパティシエとして学んだ人たちより不足していると思いますが、自分の味覚と、そしてもう一つ、母の意見を参考にしています。母に味見してもらっても、「まぁ、きれいね。」とは言っても、なかなか「良い」とは言ってくれないんですよ。一度だけ美味しいって言ってくれたことがあったかもしれませんが、とてもハードルが高いんです。だから絶対的に母の意見は信用しています。

 

ヴィーガンで作ろうとすると、使えない食材があります。だからと言って、「まぁ、ヴィーガンでできるのは、このくらいかな?」と妥協はしたくない。だって、スウィーツなんですよ!楽しむために食べるものだから、おいしくないと。ヴィーガンかどうかは関係なく、おいしいかどうかだけです。

 

Spring Step : ご自身のハードルも高いんですね!

 

理恵さん : そうかもしれないですね。でも、おいしくないと意味がないんです。ヴィーガンというチョイスであったとしても、誰が食べても「おいしい」という味にしたいんです。

 

私がそもそもヴィーガンパティスリーを始めたのは、息子が乳製品と卵にアレルギーを持っていたからなんです。バースデーケーキを食べることができなかったので、息子が友達と楽しく食べられるケーキを作りたい!と思ったことがきっかけでした。でも今、私がヴィーガンパティシエとしてやっていきたいことは、ヴィーガンパティシエとしてお店を出したいとか、そういったことではなく、ヴィーガンのお菓子ってこんなにおいしく作ることができるということをたくさんの方に知ってもらいたいんです。体にも良くて、アレルギーの子供までみんなで食べられる、こんなに良いものがあるということを啓蒙していきたいと考えています。おいしいヴィーガンのデザートが市民権を得ることができたら、日本中に体に良いヴィーガンのお菓子が広がると思うんです!今はその任務を担っているように感じて、突っ走っているところです。

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「世の中にないものを作る」自分自身へのチャレンジ

 

Spring Step : ヴィーガンという原材料を限定するルールが存在するなかでは、パティスリーの表現方法にも限界があると思います。それでも「みんなが絶対においしいというものを作る」と決めている理恵さんが、ヴィーガンパティシエとしての面白さを感じていることは、その限界の中で「世の中にないものを作る」チャレンジなのかもしれない、とお話を聞いていて感じました。その部分がフルマラソンにも通ずるものがあるのではないかと。

 

理恵さん : そうなんです!どうしてわかったんですか?

以前、自分が人生をかけて何をやりたいのか、すごく考えさせられる出来事があったんです。そして、気が付いたことは、「私は一生“キラキラ”していたいんだ」ということ。私の考えているキラキラというのは、世の中にないものを作り出すとか、自分の壁を破るとか、そういったチャレンジを続けて、自分自身を磨き続けることで生まれるんじゃないかなと思っているんです。だからパティシエを目指している人には失礼なことなのかもしれないですが、今私の表現方法の一つとなっているパティスリーを考えてみても、何年もやっているマラソンを考えてみても、パティシエになりたいとか、フルマラソンをやりきりたとか、そうゆうことがゴールではなく、そこを通ることで自分を鍛錬させてもらっているような気がしているんです。

 

Spring Step : 理恵さんがそのチャレンジを楽しんでいらっしゃるのが、お話を聞いていて伝わってきます。そもそも理恵さんの作るパティスリー自体、食べていて楽しいものがいっぱい詰まっています!

 

理恵さん : 私はチャレンジをし続けたいんです。全力で、自分でやりきるところまで突き詰めたいんです。そして自分で納得することが何よりも大切だと思います。でもなかなか自分で納得することは難しいことも事実なんですが。

 

Spring Step : フルマラソンでは、走りきったことや、出したタイムで満足感を感じることはないのですか?

 

理恵さん : 走りきった達成感はありますが、自分ではまだ納得していません。だからまだ走り続けているんです。

 

Spring Step : そうなんですか!?

 

理恵さん : マラソンは、プロのコーチについてもらって、かなり真剣にトレーニングを積んで準備しました。フルマラソンは、急に走れるようになるものではないんです。その当時、今はなき東京国際女子マラソンにどうしても出場したくて、その条件であった「大会を3時間15分で完走すること」を達成するために、1年かけて準備をして、タイムを順調に縮めていき、万全のコンディションでホノルルマラソンに臨みました。その結果、記録したタイムは3時間15分36秒だったんです。

 

Spring Step : Oh no ! なんと!

 

理恵さん : この時は、この世に神様なんていない、って思ったくらい落ち込みました。私は年代別カテゴリーでは3位だったのですが、悔しくて悔しくて、表彰台にも上がれず、部屋から一歩も出られなかったんです。

その時にコーチが言ったんです。「理恵ちゃん、今まで本当によく頑張って順調にタイムを縮めてきたよね。今回は思い通りいはいかなかったかもしれない、でも周りの選手も見てごらん。これが勝負の世界なんだよ。」彼女はプロのランナーだった人ですから、常に全てが順調にいかなくて当たり前だということを教えてくれました。もしも、あの時タイムを切れていたら、私はもうマラソンを止めていたかもしれません。

 

Spring Step : 理恵さんは、「自分に勝つ」ことがテーマなんですね。

 

理恵さん : そうかもしれませんね。競争相手は自分だけ。モデルの仕事も、マラソンも、ヴィーガンパティシエも、もともとはご縁があって始めたことですが、実際にやってみたら、私の性に合っていて、すっかりハマって、とことん極めていきたい!と思うようになりました。けれど、今振り返ってみれば、マラソンをしていなければ、食べ物に対してこんなにコンシャスになることもなかったから、ヴィーガンという発想は出てこなかったかもしれませんし、母が料理家でなければ味にこれだけこだわることもなかったかもしれないです。

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自分のパフォーマンス性を研ぎ澄ませるためにやり続けたいこと

Photo: Rie Hasegawa

 

理恵さん : 私は、ヴィーガンパティスリーを広める役をもらったと思って活動しているので、自分のパフォーマンス性を研ぎ澄ませるために、「いい状態」をキープしていたいと思っています。

 

Spring Step : 理恵さんの言う「いい状態」とはどんな状態ですか?

 

理恵さん : 私、今45歳なんですが、シンプルに言うと、いくつになってもキラキラし続けるということです。一生キラキラしていたい。

実は、最近スポーツメーカーのアンダーアーマーと契約したんです。以前私が参加した、あるランニングイベントのスポンサーだったことが出会いだったのですが、彼らのポリシーには共感するところがたくさんありました。私をアンバサダーの一人として選んでくれた時には、本当に驚きました。だって、私は45歳でランナーでもないんですよ!アンダーアーマーのチームからは、「タイムを更新して欲しいとかそういうことではなくて、そのままの理恵さんの姿を見せてください。そして自分たちと一緒に豊かな社会にしませんか」と言ってくれました。その言葉で心を決めました。

 

今はヴィーガンパティスリーに真正面から向かっていて、これを広げるための最大限の努力をしたいと思っています。私は、中途半端に物事をやるなら、やらないほうがいいって思っています。もちろん何十年もかけて1つのことを極めている人からすると、私は色々なこと(マラソン、ヴィーガンパティシエ、侘びヨガ、、)に手を出す飽きっぽい人と思われてしまうかもしれませんが、私自身は1つ1つを真剣に取り組んでいるつもりです。侘びヨガは、自分自身と静かに向かう貴重な時間なんです。

夢中になるといくらトライしてもなかなか自分では納得ができないから、不満が残ります。だから自分の心の静けさを取り戻すために、侘びヨガが役立っていると思います。

 

Spring Step : 最高のパフォーマンスのために、自分にチャレンジし続けるということですね。

理恵さん、スプリングステップの読者に、初めてでも誰でも簡単に作れるおすすめのヴィーガンデザートはありますか?

 

理恵さん : まだ私が本格的にヴィーガンスウィーツを学び始める前に、アレルギー持ちの息子に食べさせるために作っていたおやつのレシピがあります。簡単に作れて、とっても美味しいからぜひご紹介したいです。砂糖もなるべく使いたくないから、自然な甘みだけにして、偏食の息子が食べてくれるように彼の好きなフルーツをたっぷり使いました。

 

イチゴをミキサーにかけて、そこに甘酒、豆乳を加えてよく混ぜたら寒天で固めるだけの簡単なものです。そこにイチゴを煮詰めたソースをかけるとさらに美味しいです。フルーツを変えて、マンゴーで作っても美味しいですよ。ぜひ作ってみてくださいね!

 

PROFILE

長谷川 理恵さん Rie Hasegawa /モデル、ヴィーガンパテシエ

1993年よりファッション誌のモデルとして活躍。
ランニング歴17年。第一子を出産した後もマラソンを続け、数々の大会に出場を果たす。
現在は家族で鎌倉に移住。家族との時間を大切にしながら活動を続けるそのライフスタイルが、幅広い世代の女性に支持されている。
2017年、ヴィーガンパティシエとして活動を開始。以来、体に優しく極力負担をかけない、尚且つ、味もデザインもしなやかで繊細なデザートを提案。2018年にはフランスパティシエ界の巨匠アルノー・ラエール氏とコラボレートしたヴィーガンスイーツを発表。
食・スポーツを通して、健康志向なライフスタイルを提唱している。
Instagram : @rie_hasegawa
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