「オーガニック&サステナブルライフ〜自給自足への挑戦」四角大輔 連載02

Organic Lifestyle
2019.03.21

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湖畔の森のガーデンファーム。

「社会に出てお金を稼いで生きるより、大好きな湖の畔で釣りと畑をやって暮らす方がいい」

高校と大学のバイトで通用したのは肉体労働だけで、事務や接客はまったくダメ。さらに当時の自分は、人間嫌いだった上にメンタルも弱かった。でも、体力とサバイバル能力には自信があったぼくは、ずっとそう思っていた。

 

ストレスでぼろぼろになりながらも、才能あふれる音楽アーティストたちとの出会いに救われた15年間のレコード会社勤務を経て、2010年から遂に、ニュージーランドの原生林に囲まれた湖の畔での森の生活をスタート。

ここで営むのは、できる限り自然との共生を目指す、サステナブルでオーガニックな自給自足の暮らしだ。

 

環境負荷を最小限にすべく、自分なりに試行錯誤を続けてきた。

これが、とにかく楽しいのだ。東京のクリエイティブの最前線で活動していたレコード会社プロデューサー時代よりも高い創造性が求められるからである。

 

 友人の自然農法達人から教わりながら作付け中。

 

2019年の今年でいよいよ10年目となり、森の生活も数段のアップグレードを重ねてきた。食べるための釣りの腕はさらに上がり、家の敷地にあるガーデンファームの収穫量も年々増えている。

自身の手で調達しているのは、あくまで自分たちが食べる分だけだが、「フィッシャー&ファーマー」というのが、今や肩書きの一つと言えるだろう。

 

ニュージーランドは今、秋の入り口。

つまり、ぼくとガーデンファームにとっては「まだ10回目の秋」ということになる。農業は、春夏秋冬それぞれを年に1度しか体験できない。そう、これはとてもスローで、長期的視点が必要な世界なのだ。

今回は、まだまだ修行中のファーマーズライフについて書いてみたい。

 

そもそも、街から20kmも離れた山奥なので、近くにスーパーもコンビニもなければ、ケータイは圏外で水道も来ていない。ちなみに、電線と電話線は細々と届いているので、通常の家電もネットも使える。

ただ、かなり脆弱なため大風や大雨のたびに停電するし、ネットも頻繁にダメになる。

 

こんな透明な湖が庭に面している。まさに命の水。

 

飲料水と生活用水は、湖底の湧き水をポンプで組み上げて家の水道につなげている。つまり、生きる上でもっとも大切な水を自給しているのだ。

 

自宅の庭には、菜園、ハーブ園、小さな果樹園がある。

もちろんすべてが、無農薬・無化学肥料のオーガニック栽培。ちなみに菜園の一部、果樹の大半、ハーブのすべてが自然農法で、毎年その面積を増やしつつある。

 

ご存知の方も多いと思うが、自然農法とは化学物質を一切使用しないのはもちろん、有機肥料でさえ使わない究極の農法と呼ばれるものだ。さらに、パーマカルチャー手法もどんどん取り入れいる。

 

完全な自然栽培のリンゴ。毎年、晩夏に実りを届けてくれる。

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ほぼ自然栽培のハーブ園と果樹園。

ハーブと果物類は、ほとんどが多年草なので植え替える必要はなく、水やりと剪定さえしっかりやっていれば毎年、実りをもたらしてくれる。

 

ただ果樹たちはとても繊細で、この剪定が難しく、少し間違えると翌年は驚くほど不作となる。毎年少しづつ上達しているが、未だにトライ&エラーを繰り返している状態だ。

 

さくらんぼ、グレープフルーツ、りんご、レモン(2種)、ライムの一種、フェイジョア、ピンクプラムがうちの主役たち(計8種)。毎年500個ほどの実を付けてくれて、「わが家の宝」と呼んでいたパープルプラムが、昨年の嵐で倒れてしまい、何とか復活しないかと色々と試みつつも、新たに挑戦している果物もある。

 

ベリー系だと、ラズベリーはまあまあ、ブルーベリーは今ひとつという感じ。タマリロは順調に育っているが、実をつけるにはもう少しかかりそう。パッションフルーツは、うまくいけば来年あたりには、と期待している。

 

数年前に植えたものとして、ビワはまだまだかかりそうで、バナナの木はやっとぼくの背丈くらいまで来たが、ここは寒すぎるためか成長が遅い。

 

左上から時計回りに、バジルミント、カモミール、ローズマリー、タイム

 

逆にハーブは強いので、むしろ他のエリアに進出しないようにコントロールする必要がある。うちにあるのは、ミント、レモンバーム、カモミール、タイム、ローズマリー(2種)、マジョラム。そして、バジルミントはもっとも強く今年も好調だ(計8種)。

 

イタリアンセロリ、大葉、フェンネル、みょうが、ネギ(3種)、ニラ(2種)、陸わさび、そして見事なエディブルフラワーを咲かしてくれるナスタチウムらは、栽培が楽な多年草で、薬味的な役目を果たしてくれるので、ぼくはハーブ園エリアに植えている(計11種)。

 

これが夏のベジガーデンの豊穣。庭に出て10分ほどでこの量が。

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手間がかかる愛しのオーガニック・ベジガーデン。

そして、ぼくがもっとも愛しているのが野菜たち。

ガーデンファームで最大面積を割いているのが菜園で、2年に一度のペースで広げてきたが、今年さらに大幅に拡張中だ。

 

こちらはみな一年草たちなので、季節ごとに新たに植えないといけないため、果樹やハーブに比べるとかかる手間は10倍以上。

 

ハーブにももちろん旬はあるが、大半が数ヶ月間にわたって実り続けてくれるし、ローズマリーやタイムなど年を通して元気な子たちもいるからありがたい。だが、野菜たちはそうはいかない。

 

一日一度は菜園をひと回りして手入れをする。手をかければ必ず応えてくれる。

 

季節によって植えるものは変わってくるが、菜園の例年の主役たちは以下。

 

レタス(4種)、トマト(3種)、きゅうり(3種)、なす(2種)、パプリカ(2種)、かぼちゃ、チリ、各種豆類、シルバービーツ、ビーツ、ほうれん草、チンゲンサイ、小松菜、カリフラワー、水菜、ブロッコリー、春菊、パクチー、白かぶ、バジル、パセリ、里芋、山芋、じゃがいも、さつまいもetc…。

スペースに限りがあるのでこのあたりで止めておくが、主要メンバーはだいたいこんなところか。

 

貴重な根菜類たち。左上から時計回りで、じゃがいも、ビーツ、里芋、白かぶ。

 

春から秋にかけての野菜が目立つが、冬季はぼくら夫婦はここを離れ、東京を起点に日本と世界を数ヶ月旅するため、冬野菜はサボり気味なのだ。

 

寒い時期は雑草が育たないこと、こちらは夏に乾燥する反面、冬は雨が多いので畑のメンテナンスがとても楽。冬季は、畑を放ったらかしにできるため、長期の移動生活に出やすいのである。

 

そう、ぼくらの年間計画は、ガーデンファームの収穫を中心に決められているのだ。

 

やはりサラダが一番のご馳走。オリーブオイル、塩コショウ、レモンだけで絶品。

 

これらの野菜に加えて毎年、季節ごとにいろいろとニューフェイスを試している。

「強くて長い期間元気」「栽培が楽」「実りが多量」という3点をクリアしてくれると、翌年からはレギュラー入るすることになる。

 

うちの主要メンバーのほとんどが、街のスーパーの顔ぶれとほぼ同じと気づかれただろうか。彼らが流通のメインに選ばれてきた理由は、きっとそこにあるのだろう。

 

果樹園、ハーブ園、菜園はどれも当然、夏季にもっとも多くの収穫物をもたらしてくれる。だが冬季も意外に実りが多いことを、この森の生活を通して知った。

例えば、果樹とハーブを合わせると約14種と、半分以上の子たちが冬季に収穫できる。さらにそこに、冬野菜たちが加わることになるから食べる分には充分なのである。

 

わが果樹園の冬季の勇者、柑橘系3種たち。

 

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〝行き過ぎ〟と〝過剰〟が肉体にもたらすダメージ。

「でも、大型スーパーに並ぶ野菜や果物の種類に比べたら少ないよね」

きっと、そう思われた方もいるだろう。だが、森の生活者となって長年経ったぼくが、スーパーマーケットの品ぞろえを目にすると、むしろめまいがしてしまうのだ。

 

過剰なほどの量と種類の食物たち。どれも不思議なくらい同じ大きさと形で、不自然にピカピカしている。さらに季節感もない。

 

しかも、それらの大半が、自然の摂理を無視した異常な方法で育てられ、大量の石油燃料を燃やしながら長距離移送されてきている。その上、これら「命たち」の多くは廃棄されていて、無駄死にしているという悲しい現実もある。

 

ちなみに昨今、アトピー性皮膚炎を患う方が社会問題になるほど増えているのがご存知の通り。ぼく自身が幼少期そうだったし、身内にも友人にも苦しむ仲間もとても多い。

 

彼らの大半が、慣行農法(農薬・化学肥料を使う)の食材や、添加物が入った食物を多く摂取すると悪化してしまう。中でも敏感は人は「旬じゃないもの」を食べるだけで、皮膚に症状が出たりするから驚きだ。

 

この巨大な葉は里芋。現在、かなりのスペースを陣取っている(汗)。

 

余談だが、小麦や米といった主食群の「品種改良されすぎたもの」だと不調になるが、原種に近いものなら大丈夫という友人もいる。

 

米は、『亀ノ尾』や『旭』といった日本在来種は入手困難で、もっとも普及している『コシヒカリ系』より、最近見かけなくなった『ササニシキ系』の方が原種に近いとされる。

小麦は、現在手に入るの原種系は『スペルト小麦』くらいで、流通してるものはすべて品種改良済みと言われている。

 

アトピーというのは、本来は自然の一部として、地球の循環に抗わずに生きてきた人間の肉体から発せられる悲鳴であり、「行き過ぎた人類」と「便利すぎる文明」への警笛のように感じられるのはぼくだけだろうか。

結局は、できる限り本来の自然の営みにそったシンプルな食生活こそ、人間の体に優しいという事実が、それを証明していると言えるのではないか。

 

さて、うちの食卓に並ぶのは、朝摘みどころか、数分前に採ったばかりの命たちばかり。どれも驚くほど旨く、みずみずしくてシャキシャキだ。さっきまで大地とつながっていた新鮮な作物たちには、「美味」を超えた何かがある。

 

アーユルヴェーダを知る人には、「オージャスが圧倒的に高い」と言えばすぐに理解してくれるが、この世界のリテラシーがない人たちは通じない。

 

「根源的なあまみ」

これは、うちで採れる植物たちを食べた瞬間、口の中に広がるあの快感をぼくの言葉で表現したものだ。

 

これは単に、「辛(から)いの反対語の甘い」ではない。生命力の濃さであり、命の純粋さであり、土と太陽と水が凝縮した味と言えば、少しくらいは伝わるだろうか。執筆家としては敗北宣言するようだが、ぼくはまだこの美味しさを正しく言語化できていない。

 

本気で探せば、毎日これくらいは採れてしまうミョウガ。

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「ファーマーズライフ=クリエイティブライフ」とは。

真っ赤に熟れたラズベリーを数粒だけ摘んでその場で口の中へ。

ミョウガひとかけらをスライスして、器に入れた味噌汁へ乗せる。

皮が破れそうなほど熟した大きなトマトを何もつけずかじる。

キュウリを水で洗い、自作のお味噌だけつけてそのままガブリ。

 

こんな究極なまでに「そのままな食べ方」でも、どんな三つ星レストランの手の込んだ革新的な料理よりも旨く、感動的なのだ。

 

そしてだんだんと、自身の細胞のもっとも奥深い部分が歓喜するのがわかるようになる。もううこれを知ってしまうと、もうやめられない。

(もちろんミシュランの星付きレストランも大好き^ ^)

 

近所で人気のわが家のサクランボと、今年初収穫のラズベリー。

 

ちゃんとした食材は、なるべく足さず余計なことをせずとも美味しいが、命たちにさまざまな調理法を施すことで、彼らがより輝くことも知った。結果、ぼくの味覚はより満たされることとなり、「もっと、もっと」なんてまったく思わなくなるのだ。

 

うちのキッチンでは、日本の昔ながらの調理法を基本としながらも、ネットを中心とした情報網を活用し、アジア、中東、欧州、南米と世界中に無数に存在する最新レシピを取り入れている。

 

大地の恵みに、美しく緻密な手仕事と、人間のあふれんばかりの創造性を加えることで、ここでの暮らしは格段と豊かになるのだ。

 

ぼくらが営む森の生活は、農耕民族の祖先が1万年以上も続けてきた自給的な営みに、現代人が進化させた最新テクノロジーと、人類の叡智であるクリエイティブ思考をかけ算させることで成り立っているのである。

 

ぼくが育てた野菜と釣った魚を、妻がアートへ昇華させる。

 

「とにかく楽しくて気持ちいい」

今のライフスタイルを一言で表現するならば、もうこれに尽きる。

 

人類の農耕史をみると、歴史の教科書にあったように、世界各地の河川の畔といった淡水域で発達を遂げている。それは、作物のために必要な水を確保するためだったことは言うまでもない。

 

釣り好きだったぼくは、幼少期からずっと「水辺」に惹きつけられ、学生時代に「湖の畔で暮らしたい」と心に決めた。それは、自身のDNAの奥底にインストールされた、もっとも原始的なプログラムがそうさせたのかもしれない。

 

湖畔のわが家のガーデンファームにも当然、湖の湧き水を与えている。この神聖な命の水は、庭の植物たちを生かし、ぼくら家族を生かしてくれているのだ。

 

最後に、うちでもっとも大きな木について。

実は、それはアボカドなのだが、森の生活を始めてからずっとがんばってきたものの、未だに実をつけないでいる。

さあ来年こそ、この命の水は、うちの食卓にアボカドの果実をもたらしてくれないだろうか。そう祈りながら今回は筆を置きたい。

 

連載Vol.3となる次回は、貴重なタンパク源である魚介類の自給のことと、森の生活の本質である「発酵」「循環」「低消費」について書いてみたいと思う。

 

連載01:「2000万枚のプラスチック製品をバラまいたぼくが、森に暮らすわけ」

 

PROFILE

          Photo by Takuya Tomimatsu

四角大輔 Daisuke Yosumi

ニュージーランド在住の執筆家/原生林に囲まれた湖の畔でのサステナブルな自給自足の暮らし/環境省「森里川海」アンバサダー&SDGsウィルラボメンター(/(社)the Organic副代表理事、オシロ(株)共同代表、yoggy(株)取締役、ピースデイ・ジャパン共同代表/世界中でのオーガニックジャーニーと大自然への冒険がライフワーク/最新刊に『人生やらなくていいリスト』『LOVELY GREEN NEW ZEALAND 未来の国を旅するガイドブック』『バックパッキング登山入門』『バックパッキング登山紀行』。ベストセラーに『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』など著書多数/レコード会社プロデューサーとして10度のミリオンヒットを創出した経験を活かしての、オーガニックやエシカルブランドへのアドバイザリー事業/オンラインサロン〈LifestyleDesign.Camp〉学長/ライフスタイルシフトメディア〈4dsk.co〉主宰/Instagram

 

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