【フランスの化粧品サイエンティストが語る】化粧品の中身から見た世界 

Beauty Organic Green Tech Special Interview
2019.09.12

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オーガニック化粧品の歩んできた道

Text: Spring Step/ Photo : Julie Berranger 

Spring Step : コレッタさんは、フランスの化粧品化学の研究者でもあり、大学で教授として教えておられますが、30年間化粧品のフォーミュラ(製剤)の研究家として活躍されてきて、この10年あまりにみられるオーガニック化粧品の飛躍をどのようにみていらっしゃいますか?

 

Colettaさん : オーガニック化粧品に大きく動きが始まったのは、2004年あたりだったと思います。ある研究者が、パラベンの乳がんの発がん性リスクに関する論文を発表して、化粧品成分の安全性に対する不安が高まったことが背景にありました。

 

Spring Step : このレポートは、ヨーロッパの化粧品業界を震撼させましたよね。

 

Colettaさん : そうなんです。この出来事をきっかけに、成分に対する不安が一般的に高まりました。それまでは、化粧品のフォーミュラを作る際、成分に対する制限はほとんどありませんでした。私自身もそうでしたが、どの化粧品技術者も、本当に全ての技術者が、保存料に何を使うかなんて、考えたこともないくらい当たり前にフェノキシエタノールやパラベンを使っていました。

 

この「事件」は人々の不安を高め、その不安を煽るように2005年にオーガニックコスメのラベルが誕生しました。当時のオーガニックコスメと言えば、オーガニックを使うというポリシーに重きを置き、化学的には洗練されていない「興味深くない」代物として出来上がたものが多くありました。不安の波を利用して、「オーガニックである」ことだけに存在意義を見出しているブランド、と言ったらよいかもしれません。

名前は言えませんが、フォーミュラのクオリティーレベルが低いオーガニック化粧品はたくさんありましたよ。

 

Spring Step : 「オーガニックである」ということだけで、製品としての質は低い、という化粧品が多かったのですね。道理で、当時のオーガニック製品は使いにくいものばかりだったわけです。

 

Colettaさん : 昔は使われていたけれど、肌への刺激のために使われなくなってしまった成分が、その当時はオーガニック化粧品の中に入っていることもありました。オーガニックを作るためには、肌の刺激は厭わないというような、あべこべの時代でした。

2007年~2008年くらいまでは、ケミストリー的(化学的)な視点から「ダメなフォーミュラ」を採用した化粧品が存在していました。

従来のケミカルな化粧品のフォーミュラ作りは、私たちの視点からいうとある意味簡単でした。なぜなら、ほとんど同じ成分をベースにして作ればよかったからです。でも、オーガニック化粧品はそうはいきません。「オーガニック化粧品」の認証を取るために使うことが許されている成分はとても少ないんです! ただ、この「縛り」は僕は良いことだと思っています。どんな植物オイルを使うのか? OGM (遺伝子組み換え)の原料を使うか使わないかなど、原料に何を選ぶべきなのか一番初めから決めておく必要があるからです。

 

僕らはフォーミュラを作る上でオイルを使用しますが、「植物オイルを使っている」と一言で言っても、人間がそのオイルを精製しすぎて、匂いも色もなくなり、サラサラな状態になっても、それでも、それを「植物オイル」と呼んでいいのかどうか、僕だって疑問に思います。従来の化粧品づくりは「自然」とは縁遠いものになってしまっていました。

オーガニック化粧品はなるべく自然に近い形で製品化されています。それは、自然が製品に力をくれるからです。人間が手を加えすぎていないところが良いところだと思います。

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オーガニック化粧品を作る「意義」を持たないブランドは消えている 

Photo : Julie Berranger 

Colettaさん : 2010年になって、ようやく「賢いサイエンス」が施された、SHIGETAのようなオーガニック化粧品が登場するようになりました。僕の言う「賢いサイエンス」と言うのは、フォーミュラとしてクリエイティブで洗練されている、という意味です。

 

Spring Step : 2005年から2010年までの間に何が起こったのですか? オーガニック認証を取った効果的な成分が市場に現れたのでしょうか?

 

Colettaさん : その通り。成分を作る業者もこのニッチな市場は、ビジネス的に面白いと気づき始めたわけです。(2018年に実施した調査によると)フランスの化粧品市場では消費者の8%が、フォーミュラの中にもっと「自然」を求めているということが分かりました。世の中にもどんどん「自然」のニーズが高まっているということです。そのために、さらに自然に近い成分を研究する必要があります。そういった流れによって、「オーガニック」まではいかなくても「自然」を生かした成分の研究が高まり、市場に現れたんです。

 

これは、従来のケミカルな化粧品業界にとっては、大きな変革です。フォーミュラの中でこれまで最も「自然」なものは水だけでしたから。他の成分は合成の化学的なものばかりでした。この変革のおかげで、化粧品業界自体が「自然」に向かい始めたことは、とても良いことだと思っています。

ただ、「自然」を生かし、限られた成分の中でオリジナリティー溢れるフォーミュラを作るということは、そう簡単ではありません。どんな成分でも使えた時代のフォーミュラ研究と比べたら、難易度の違いは明らかです。

 

これまでも大手の化粧品会社がオーガニックに進出していきましたが、上手くいったケースは少ないんです。フランスの某大手化粧品会社の退却劇は、まだ多くの人が覚えていると思いますが、そのブランドのユーザーは誰もオーガニック化粧品を求めてはいなかったですし、そもそも、オーガニック化粧品という新しい市場があるからと言って進出しても、なぜオーガニックを選んだのか、という強い志がなければ成立しないんです。「流行っている」から新企画をスタートするだけではオーガニックは売れません。

 

なぜ、植物由来の成分を選ぶのか、オーガニックなだけでなく、ヴィーガン化粧品を作りたいからミツロウも使わないなど、成分のセレクトに倫理的なロジックがあればこそ、筋の通った製品になる。筋の通った製品にするには、テクニカルにも難易度が高いので、これまでオーガニック市場に存在していた、”「ケミカルな化粧品」に対して恐怖心を煽りオーガニックであるということだけを目指して作られた”、とても化粧品とは呼べないオーガニック化粧品や、この市場へのビジネスチャンスだけがを目当てに参入してきた化粧品が減りました。オーガニック、ナチュラルのフォーミュラを作る技術者はスペシャリストであり、合成成分を使って化粧品を作る技術者とは、もはや異なると思っています。中でも2010年以降に卒業して活躍している技術者は、この新しい技術とビジョンを持っていると思います。 

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オーガニックは効く

Photo : Julie Berranger 

Spring Step : 従来の化粧品のフォーミュラとオーガニック化粧品のフォーミュラのどちらも研究されてきた上で、オーガニック化粧品が優れている点は何だと思われますか?

 

Colettaさん : オーガニック化粧品が優れている点は、分子構造から見て、使う成分の効能が複合的だということです。例えば、乳化剤一つをとっても、レシチン由来(植物性)の乳化剤を使えば、乳化させる作用だけではなく、細胞間脂質を強くする作用があるため保湿効果もある。でも乳化にPEGなどを使った場合には、僕の肌にはあまり意味を持ちません。なぜなら、僕の肌はPEGは吸収できないですし、それに、肌につけたものをきれいに落とすことを学ばなくてはならないから。化粧品には、肌に不要なものがたくさん使われていることを知る必要がありますし、それを解毒しなくてはいけないということも知っておくべきです。だから、乳化剤に何を使っているかはとても大切なことなんです。

 

フランスにもまだまだたくさんいる時代遅れの皮膚科医は、今でもワセリンやパラフィンを肌の乾燥に悩む患者に処方しています。ワセリンやパラフィンは、肌に蓋をして肌からの水分蒸発を防いでいるだけで、実際には肌の修復には何の役にも立っていません。これは皮膚科医がシステムを簡易的にしたいがために、方法を変えないことが問題なんです。それに、彼らは「化粧品は、所詮化粧品だ」(薬と違って肌に効果を及ぼさない)と思っていることも確かです。

 

Spring Step : オーガニックは製品の全体性によって、肌を修復する効果が生まれますが、ワセリンやパラフィンは肌の蒸発を防ぐだけということですね。

 

Colettaさん : その通り。昔から「ラッピング」という保湿の方法が足や手に施されていますが、知っていますか? これは肌にパラフィンをのせ、その周りをラップなどで巻いてから温めるやり方です。そうすることで、瞬間的に保湿されたように肌がふっくらします。これは、肌に蓋をしながら、肌の中の水分を一瞬表面に移動させるため、肌の健康にはあまり良くないですし、当然ながら、数時間で元に戻ってしまいます。まるでシンデレラの馬車がかぼちゃに戻ってしまうように。

肌には時間をかけて修復していく製品を使う必要があります。それには、オーガニック製品はとても有効だと思います。使っている成分が「自然」であればあるほど、人間が本来持っている成分に近いものを持っているからです。

 

そして、忘れてはいけないのが、肌の修復には、もちろん食品やサプリメントのように、体の中に入れるものも気を付ける必要がるあるということです。

 

僕は、化粧品業界において、オーガニック化粧品のチャレンジは、まだまだ続くと思っています。これまで大手の化粧品会社が「夢」を売ることで化粧品を販売してきた、そのカルチャーがまだまだ根付いている限り、どれだけ本気のものを作ったとしても、認知されるまでには時間がかかるでしょう。

例えば、道ゆく人に「ランコム」というブランドを知っているかと聞けば、ほとんどの人は知っていると答えると思いますが、オーガニックブランドの名前やコスメビオという認証のことを聞いても、多くの人は知らないでしょう。それに大手の化粧品会社のブランドの商品には、多くの人が良い印象を持っていると思います。化粧品の成分に何を使っていても、年月をかけて作られたブランドのイメージに対して人は信頼を置くからです。このカルチャーが存在している限り、根付くまでにはもう少し時間を要すると思っています。どれだけオーガニック化粧品でノンシリコンをルールにしていても、オーガニックではない化粧品がシリコンを使って「夢」を売っていたら、そこに太刀打ちしていくのは、なかなか大変なことです。

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化粧品に望まれている自然回帰

Photo : Julie Berranger 

Colettaさん : フランスでよく使われている製品でリニメントという製剤を知っていますか?

 

Spring Step : 赤ちゃんのオムツ替えの時に使うミルクですよね?*

*フランスでは、大判コットンにリニメントを浸して、オムツ替えの時にお尻を拭きます。

 

Colettaさん : そうです。これは19世紀に作られたオリーブオイルと水酸化カルシウムがベースになっている製品なんです。

 

Spring Step : 赤ちゃんに使えるものを探している時に、内容成分リストに記載されている成分が3~4種類くらいで、とても短くてびっくりしたと同時に安心したのを覚えています。

 

Colettaさん : この製品は150年前に薬局が製剤の処方を作ったのが始まりなんです。フランス国内でほぼ同時にいくつかの製法が生まれました。当時薬局が取り扱っても良い成分だけを入れているので、非常にシンプルなんです。僕がコンサルタントを務める大手の化粧品会社では、このリニメント剤を毎年10トンも生産しています。どれだけ多くの人がこのヴィンテージな処方の製品を信頼しているのか本当に驚きますが、これも言ってみれば、社会的に多くの人が製品の中に「自然」を求めていることなのだと思います。

 

Spring Step : 確かに、オーガニックの赤ちゃん用のリニメント剤のブランドも増えた気がします。

 

Colettaさん : 僕はこのリニメント剤が市場に返り咲いた時には、本当にびっくりしました。心の中で「こんなこと有り得ない」と呟いたくらいですよ。笑 でも、もしそれが起こる理由があるとするならば、人々が「自然」を求めていること以外に考えられません。

 

Spring Step : 日本では赤ちゃんのオムツ替えの時に使うクリーニング用のミルクというのは存在せず、多くのお母さんは、使い捨てのクリーナーを使っていると思います。でも、そこには保存料が入っているので、小さな赤ちゃんのお尻には刺激になるのかなと思っています。

 

Colettaさん : そうだと思います。日本やアジアでは古くから東洋医学が用いられてきたように、長い歴史の中で「効く」と統計が取られてきた治療方法が時代の流れの中でも注目されていますが、それと同時に、薬事の制限が高まりタイガーバームやエッセンシャルオイルは肌への刺激が強いとか、伝統的に使われてきたものが、その対象になり使い方に規制が生まれて来ているのも現実です。 

 

Spring Step :  私たちの肌が以前に比べて反応しやすくなっているのでしょうか?

 

Colettaさん : それは、あると思います。昔よりアレルギーを持っている人がかなり増えましたよね。昔も干し草を刈る時期によく目が痒くなったり、くしゃみが止まらなくなったりすることがあって、それは実は干し草が原因ではなくて、花粉が原因だったという事実もあるのですが、とにかく今は、様々なことが研究され、解明されたことで、僕らは抗菌の中で守られすぎていると言っても過言ではないと思います。守られすぎているから、僕らの免疫力は下がっている、ということは確かです。

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今日から私たちができること

Photo : Nahoko Morimoto 

Spring Step : 私たちは毎回、”今日からできるステップ”をスペシャリストの方々に伺っています。コレッタさんから、読者の皆さんに1つステップをお願いします。

 

Colettaさん : 多くの化粧品会社がミネラルオイルの有効性について謳ってきましたが、ミネラルオイルには、肌を改善するような有効成分は入っていないとはっきり言えます。もし、効果があるとしたら、僕らの体の油分は、飽和炭化水素(酸化しない油分)だけでできているということになります。でも、そうではない。僕らの油分は不飽和炭化水素でできています。少し酸化すると匂う、あの油分です。

だから、シンプルなことを提案すると、化石燃料を使ったミネラルオイル成分の名前を2、3覚えて、その成分が配合されている製品を使わないことです。流動パラフィン、パラフィン、ワセリン、ミネラルオイルの名前は覚えておきたいですね。そして、成分の油分を植物由来のものに変えることです。ミツロウ、そして植物オイルであれば何でも。その理由は、油分の抽出方法が環境に負担がないことはもちろんですが、肌に吸収されやすいからです。石油由来のオイルは肌に蓋をします。肌の水分の蒸発は防ぎますが、肌の改善はしません。石油由来のオイルは炭素鎖(炭素原子の結合)が長すぎて、肌に吸収されないのです。植物オイルは、炭素鎖が短いので肌に吸収されて、肌を改善します。

 

Spring Step : なるほど!そのように説明していただくと、とてもわかりやすいです。

 

Colettaさん : これまで、シャンプーにシリコンを20年も30年も使い続けて来た化粧品会社が、「ノンシリコンシャンプー」とボトルに表記して販売するようになった。そういう時代がやって来ているんです。僕らは間違いなくノンシリコン時代へさらに進むでしょう。

でも、「自然」であればあるほど、これまでの伝統的なフォーミュラの作り方ではなく、「賢いサイエンス」が必要になります。そして、それは不思議なくらいまで難しいことなんです。

 

PROFILE


Daniel Colletta ダニエル コレッタ / Phd  Organic Chemistry 

30年間「賢いサイエンス」を取り入れた化粧品作りに対する情熱を持って、フォーミュラ(製剤)の研究を行い、現在は、ケミカルな化粧品からオーガニック化粧品のフォーミュラ研究のスペシャリストとして、国際的な大手化粧品会社のリサーチ&デヴェロップメント、製造部門へのコンサルタントを務める。また大学でも化粧品化学、製剤技術の教鞭を取り、未来の化粧品フォーミュラづくりを担う若者の育成を行なっている。

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