【女性起業家にききました】ママになってもキャリアを積むことはできますか?

Way of living Women's life Organic Lifestyle Special Interview
2021.09.02

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ママになって社長になる

TEXT Spring step / Photo Michika Mochizuki 

 

Spring Step :  この2年で暮らし方が激変し、自分で起業したい、フリーランスになりたいという人が増えているように思います。そういう中で、みどりさんはヘルシーな食べ物を提供する会社、BROWN SUGAR1ST. を経営されておられますが、起業について、またなぜヘルシーフードのビジネスを選んだかを教えていただけますか?

 

荻野みどりさん(以下みどりさん):  私は、学歴やキャリアという視点で見ると、なんというか私自身がワケあり物件みたいなものなのです。4つの大学に通いましたが、どれも1年ずつでやめているのです。1つ目は短大で両親のおかげで行かせてもらいましたが、それ以降は働きながら学び、1年ずつ4つの大学で学んで合計して4年だからまぁいいかな。と思ったんです。でもそれを履歴書にそのまま記載すると、ちょっとびっくりしますよね。まぁ、そんな学歴なもので、派遣でないと一流企業では働くことはできませんでした。普通に就職するのはハードルが高かったんです。多くの人が当たり前のように〇〇大学卒業と一行で済むところさえも長いし、また職務履歴だけで、3ページにはなると思います。秋葉原のパソコン屋で働いたこともありましたね。笑

だから、20代後半になりふと辿った道を振り返ると「自分で食べていく」しか選択肢がなくなっていたと言えますね。ですから、フリーランスになることが当たり前でした。一風変わった経営者のもとでは社員採用してもらうこともありました。例えばスタジオヨギーの創業メンバーとして採用され、スタジオ運営と多店舗展開の仕組みづくりを実地で学ばせてもらうことができました。

 

起業して10年、起業について聞かれることがよくあります。もちろん心からお勧めする選択肢ではある一方、「起業」に飛びつく前に、今自分に与えられた環境で自分の力を最大限に発揮することも大切だよ、ということは敢えて始めにお伝えしたいですね。もしあなたが今大企業で働いているならば、その会社の中でのイノベーティブなプロジェクトや、ましてやイントレプレナーシップを求める部署、きっとそういうところがあるはずで、まずはそういう場所に手を挙げてトライするのも一つだと思うんです。「うちの会社、そういう仕組みじゃないので…」という声も聞こえてきそうですが、辞めるほどの覚悟があるなら社長あるいは、外資企業なら本国の経営陣に直談判してみては?と思うわけです。起業家にはイノベーティブな発想と行動力が必須です。いまの自分の居場所で「できない理由」をすぐに挙げてしまう場合は、なおさら起業はお勧めしません。

社会が大きく変革していくいま、仕事の内容や働き方、自分の人生の時間の使い方に疑問を持って、自立しようという方はきっと先を見通し想像することができるセンスがある頭の良い方々なのだろうなと思うんです。だから、まずいまいる企業の中で変革を起こすべく、手を挙げて力を発揮していただきたいと思うんです。個人が起業して10年かかることも、企業の中でやると3年で達成できることもある。それを踏まえて考えてアクションした結果、「自分で起業したい」となったら、もう全力で前に進むのみ。大大大応援します!

 

私がBROWN SUGAR 1ST.を起業したての頃、娘は生後4ヶ月でした。私の姉がその1年前に出産していて、それを見ていて、0歳児の時が勝負だと思ったのです。1歳超えて歩き出すと私が自由に動けなくなってしまいますから。私は起業してすぐのころ、娘をおんぶしてファーマーズマーケットに参加していたのですが、娘が1歳でよちよち歩きを始めたある日、他店舗の植木鉢を3つ割ったときに、「あぁ、そろそろファーマーズマーケットも卒業だな」と思ったんです。だから、もし体調が許すのであれば月齢が早いうちにスタートするのが絶対にお勧めです。妊娠期間や産後すぐ、新しいこと始めるのにベストタイミングだと思います。

 

Spring Step :  え!!その頃って普通はみんな休もうと思ってしまいますよね。まさに真逆の発想と言えますね!

 

みどりさん :  その頃は、赤ちゃんの視界や記憶も明確ではないんだと割り切って、幼児教育などには一切時間を使わず、その分抱っこ紐で娘を抱き、ベビーカーにはサンプルを乗せて営業をしてまわりました。打ち合わせや商談もお乳を飲んでいれば静かですし。そして歩きだすようになってから、保育園に入れたのです。

 

Spring Step :  4ヶ月の赤ちゃんが一番の営業マンかもしれませんね!

 

みどりさん :  そうなんですよ。4ヶ月の子供を連れて、「わが子に食べさせたいかどうか」を軸に考えて食品を作っているって言ったら、すごく説得力ありますよ。トップセールスマンですよ!笑 起業におすすめな時期は、やはりその時期かな。子供が自分の意思で歩きたいと思い始めた時に、保育園に預ける。歩きたい意思を損ねて私の仕事のためにおぶってしまわず、どこへでも自分で歩いていけるようにしたかったのです。

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子育てとキャリアアップは好相性

 

みどりさん :   起業をしたい人はたくさんいると思うけど、厳しい世界でもあることもしっかり伝えたい。収入も安定しないし、大変な時もたくさんある。そんな時に踏ん張るためには、「私はこれがやりたい」とか「事業やサービスを通してこういう世の中を作りたい」という強い思いが必要だと思います。「私がやらなくて誰がやる!」、というくらいの気持ちがあるならば絶対にやった方がいい。でもなんとなく、自分の時間が自由になるよね、みたいな気持ちだったら勧めません。だって、それじゃ波が起きた時に踏ん張れないもの。はじめるのは簡単です、自由度も高いし、全て自分次第でやり甲斐もある。でも継続していくことは本当に難しいし、苦難の連続。起業は決して楽な道ではありません。

 

Spring Step :  起業してよかったなと思う時は、どんな時ですか?

 

みどりさん :   家で子育てしてたら絶対に出会えないような人たちとたくさん出会うことができること、そして、私自身の自己実現ができるということではないでしょうか。「娘の生きる未来の食文化をわたしは事業を通して形作るんだ!」という気概がわたしの自己実現につながっています。また経済的自立も起業して本当によかった点です。自分で消費する分は自分で稼ぐ。私はこれで自由な時間と心のゆとりを手に入れることができたと思います。夫の給料を頼りに生きるというのは、同時に自分の自由を放棄することになりえると思って生計を立ててきました。結婚していても、経済的に自立してさえいれば、例えば自分の時間を作るために家事をアウトソースすることも、「自分で稼いだお金でアウトソースするんだから問題ないよね」って言えます。「稼いできてくれてありがとうございます」という気持ちもいいけれど、お金で夫婦間に格差というか…主従のような関係になるのがわたしは嫌でした。対等な気持ちで子育てに参画するというのが私にとってすごく大切なことなんです。

 

また、創業時は「いつの日か海外と行き来して仕事したい!」と思っていましたが、自分で事業を起こして、娘が1、2歳になってからは、夫(当時)や姑に預けて海外出張にも行くようになりました。

子育て期間中って自分のキャリアを諦めないといけない、とか、子育てに専念しなくてはいけない、とか思いがちです。わたしも「子供を犠牲にして仕事をする必要があるのか?」という指摘をもらったこともありました。でも「子育て」OR「仕事」ではないと思うんです。「どっちも」という選択肢もあるはずだって。だから、2−3ヶ月に一度はフィリピンやタイ、アメリカなど海外の生産者さん・農家さんを商談に訪れました。英語力や交渉スキルなども上がりましたし、海外の働くママたちとも意見交換ができ、自分も成長することができました。

 

Spring Step :  子育てしながらキャリアを積むってかなりガッツがいるのかな?と思うのですが。

 

みどりさん :  そうですね。自分が何のために、何をやりたいかという、軸を持つ必要があると思います。また、意外に思われるかもしれませんが、子育てと起業って実は相性がいいと思うんです。子供を育てるのと会社を育てるのって似ています。手をかけて目をかけすぎると自主性が生まれない、いい距離からちょっと俯瞰して様子を見つつ適度に声をかけるとか…(笑)そういうところは学びになりました。子育てとビジネスを両立することで逆に良い采配を振ることができた気がしています。

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ブランドのポリシーを積み上げる

 

Spring Step :  ブラウンシュガーファーストといえば、ココナッツオイルですが、ココナッツオイルから事業をスタートされたのですか?

 

みどりさん :  いえ、実はお菓子からなんです。私は元手が20万円しかなくて、なけなしのお金を口座に入れて起業したんです。これがなくなったらゲームオーバーにしようと考えて始めました。お尻を決めることも大事。ずるずるしないようにという考えからです。そこで20万円で何ができるか考えて、地元のお母さんチームや社会福祉施設に協力していただきクッキーやマフィンを焼いてもらい、それを持って青山国連大学前のファーマーズマーケットで売ることから始めました。それからもう少し日持ちするクッキーを作って、カレー屋さんに持ち込んで営業したり。目の前のお客様に一人一人売っていくことはとても楽しく、お客様との対話を通して「わが子に食べさせたいかどうかを考えて食材を厳選する」という理念に辿り着きました。そこで、お菓子をコツコツ手売りするのではなく、全国のママたちの手づくりおやつの食材にヘルシーな選択肢を増やしたい!と思うようになっていったのです。

その当時はココナッツオイルもココナッツシュガーも誰も知らない時でした。ですから、ココナッツオイルと言えば、「ココナッツミルクの言い間違いでしょ」っって思われちゃうような時代だったんです。でも、「まず使ってみて!」ってお菓子屋さんじゃなくて、食材の一つとして、全国のママたちの手作りのお菓子がより良くなっていけばいい、って卸す先を食材屋さんに変えて、商売の場所もスーパーとなったんです。

 

Spring Step : もともとココナッツオイルに着目したのは、どんな理由だったのですか?

 

みどりさん :  その頃バターショックというのが起きて、バターを購入する数が限定されてい他ので、以前のようにおかし作りができなくなっていました。しかし、田舎の方ではいつもより安く買えたよ、と聞いてよくよく聞いてみると、それはバターではなくて、コンパウンド品、つまりバターにショートニングが混ざったようなものだったんです。その一件で、あれバターって信頼できるものなの?って思ったんです。バターは美味しいしわたしも大好き。だけど、果たしてヘルシーな食材なのか?というと疑問。朝トーストに塗るときに、むしろ今日は少し少なめに塗っておこうかな、なんて思っちゃうでしょ?じゃあ、バターに変わる食材ってなんだろう、と考え始めてココナッツオイルに行き着いたのです。

また、その頃、同時にトランス脂肪酸について、社会的に議論され始めたこともあり、トランス脂肪酸も、コレステロールもゼロの油ということもあって、スーパーのバイヤーさんたちに興味を持ってもらえたのです。

 

Spring Step : その後ココナッツオイルブームがきましたね。

 

みどりさん :  そうなんです。あの時は猫も杓子もココナッツオイル。私が取引しているタイのココナツオイル工場にも、日本の会社がどっと押し寄せて、様々なタイのコネクションを使って当社の取引工場からオイルを横取りしよう攻勢をかけられたり、本当にもう大変でした。いまだから言えることですが、本当に怖いなって思いました(笑)

サステナブルであることを心がけて商品開発していても、ひとたびブームに火がつくと市場は短期的な目線で売り上げを追いはじめ、サステナブルではない方向に走り出す。そんな時、メーカーとしてどちらに進むのか?という選択の連続という状況に直面しました。

 

このココナッツオイルブームの後、MCTオイルブームが到来しました。ココナッツオイルからつくれるので、ブランウンシュガーファーストさんでMCTオイルを作ってください、ってお声をたくさんいただきました。当社の衛生管理基準を満たすMCTオイルを作ってくれる工場も見つかりましたが、発売直前でストップをかけました。当社はなぜ存在するのか?を自問自答し「娘に食べさせたいかどうか?」を大切に考えるブランドだという点に立ち返ったのです。BROWN SUGAR 1ST.は、食卓を心豊かに彩る食品のメーカーであり、サプリメントの会社ではない、という結論に至り商品化を途中で中止しました。

 

Spring Step : 植物オイルの全体性が武器なのに、それを一部取り除いたら、元も子もないですね。(ごめんなさい!問いが変わっちゃいますね。。。)

 

みどりさん :  決断に後悔はないのですが、実はここだけの話ですが、オーガニックのMCTオイル作っていたらなぁ…と思うこともたまにあります。濡れ手で粟で儲かっていたのが想像がつくので(笑)でもまた改めて、考えて考えて思うんです。私はサプリメント社会を作るために会社を始めたんじゃない。精製し機能を高め合理的に簡便化していく食を未来に伝えたいわけではない。合理的ではないかもしれないけれども、私は心豊かに囲む食卓とその食べものの裏側にあるつながりを大切にしたいと思い事業に取り組んでいます。合理的、機能的にする、それは食べ物の背景にあるつながりを一旦分断して、新たに都合よく組み直したものと言えると私は思っています。それは言い換えると、すべての鎖を解いてしまうことなんです。私はオーガニックとは「つながり」だと思っています。好循環を生む有機的なつながりこそが私の考えるオーガニックなんです。そしてそこから生まれる「美味しい」体験が子供の情緒を育くみ、想像力を生み出すと思っています。それこそがオーガニックという意味だと思います。だから、そこに繋がることを私たちはやる。そうではないことは、他の企業にお任せすれば良いのだと思うのです。

 

Spring Step : ブランドポリシーが、背骨が一本通っていることが、ブランドへの安心感、信頼感につながりますよね。

 

みどりさん :  そう言っていただけて大変嬉しく思います。一方で、本当に不器用だな、と思う時もあります。特に創業5、6年目の頃は、その自分の不器用さをひしひしと感じましたね。自分の選択に自信がなくなったり、会社が存亡の危機に直面した時には、ブランドポリシーに反するけど、ビジネスチャンスとしては大きい、「このカードを切れば(MCTオイルをBROWN SUGAR 1ST.ブランドで商品化したら)絶対生き残れる、と考えた時も正直ありました。その時は、ココナッツオイルブームが過熱しすぎて、キャッシュフローが本当に大変だったのです。何度も商品化を考えてはやめ、考えてはやめの繰り返し。でも毎回最終的にこんなことするために会社をやってるわけじゃない。って結論に達するんです。あのころ、誘惑に負けて理念を曲げなくて本当によかったと思っています。

 

Spring Step : 会社のあり方とか、何を提供するかって明確ですね。守るべきものが他との差異が際立っているのではないかと思います。

なんのためにやっているかの本質に沿っているってこと。不器用というよりは。あり方が「本質的」であることを貫いていると言えますね。

 

みどりさん :  私は20年後の世界を見ています。娘が30歳になった時の世界です。自分がおばあちゃんになった時、ばあばとしてどんな食環境を孫に引き継ぐことができるか。経営者として、次世代の食環境を今作ることができるかということを考えています。未来の食の選択肢は私たちの手に委ねられている。待ったナシの状況です。

私は、食品を持って、自然と調和して、未来に繋がる良いものを伝えていきたいと思っています。でも伝えながら、日本だけではなく、さらに日本からそういう食品を輸出していきたいと思っています。例えば、日本で製造したオーガニックを海外に輸出して、うちで作ったものがホールフーズに入るとか、一つのロールモデルを作れば、みんながそういうやり方の成功法もあるんだな、と今のオーガニックの食品業界の当たり前を変えて、食品業界にイノベーションを起こしていきたいと思っています。

 

PROFILE 

荻野みどりさん / オーガニックプロデューサー

日本のオーガニックプロデューサー。株式会社ブラウンシュガーファースト代表取締役社長。2011年に第一子の出産を機に食の大切さに目覚め、「こどもに食べさせたいかどうか?」を基準に食材を厳選した菓子店 、”Brown Sugar 1st.”を母親とスタート。日本のココナッツオイルブームを牽引し、ココナッツオイルを使用したレシピ本の執筆活動も行っている。

著書「こじらせママ 子育てしながらココナッツオイルで年商7億円。」

  「ココナッツオイル生活をはじめよう COCONUT OIL PERFECT BOOK」

  「ココナッツオイルのヘルシーおやつ 子供から大人まで」

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