【植生復元のスペシャリストに聞きました】自然と共生するために、私たちにできることは何ですか?(後編)

Way of living Women's life Organic Lifestyle Green Tech Special Interview
2022.03.17

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人間だからこそできる、短いスパンでの原生林に近い森の再生

TEXT: Shiho Tokizawa / PHOTO : Silva Association 

 

前編はこちらから

 

Spring Step:自然はあらゆるものを超越した存在ですね。

 

川下さん:自然に畏怖を抱き、生きているんじゃない、生かされているんだというところまで腑に落ちた時に、多くのものが見えてくるんじゃないかと思います。私は森に携わっていますのでこのように自然界について解説させていただいておりますが、私自身もどこまでいっても人間であり、その性からは逃れられません。皆さんと同じです。経済の便利なシステムの中で、楽に生かせていただいているという部分がありますから。だからこそ、できるだけのことをしたいと思うわけです。

 

Spring Step:人間というのは、ある意味生きているだけで加害者になる運命にあると思います。

 

川下さん:社会はあまりにも便利なり過ぎましたね。ガスをひねったら火がついて、スイッチを押したら電気がついて、車も電車も飛行機もあって。その恩恵に与りながら私たちは暮らしています。もちろんこの便利な暮らしは地球にストレスを与えています。このような環境の中で、私たち人間だからこそできること、というのが原生林に近い土地本来の森の再生だと思うのです。現実問題として、裸地状態から森を再生しようとすると土の再生から挑まないとなりませんので、環境条件にも寄りますが200年300年と果てしない時間が必要になってくるんですね。ところが人間は頭脳を持っているので、未来を予測し緻密に設計して動くことができます。その優秀な頭脳を持ってすれば、50年・100年後の未来を描いて原生林に近い森を再現することができるんです。その再生のスピードは自然界が行う再生に比べて1/10くらい。大凡20〜30年くらいのスパンで森を再生することができるのです。こういったことができるのは、人間ならではですよね。だからこそ、人間は自然界の一員で、必要とされて存在しているのだなと、私は感じています。原生林に近い森を再生することができるのですから。人間の手で開発されたかもしれないけれど、それを元に戻すことができるのも人間です。その可能性は、底知れないものがあると思います。向こう約9000年残るものを、人間の手で再生することができるんですから。

 

Spring Step:先ほどのお話から、人間が地球に存在していることには、やはり理由があるのかなと思いました。何かしらの理由があって、人間という生物がここに誕生したんだなと。人間は地球の中心にはなりませんけど、壊したとしてもまた再生できる力を持っている。または消費することなのか、そこはわからないですけど、何かしらの役割を持っているのかなと感じました。

 

川下さん:人間がこうしたから今地球はこんな状態になっているんだ、なんて絶望的な話を子供たちが聞いたら、未来に希望を持てるはずないじゃないですか。だからこそ私は、“違うよ、人間ってすごい可能性あるんだよ! 陸上の世界一の生産者と言える原生林に近い森を短いスパンで再生することができるのは人間だけなんだよ!”と伝えたいです。その可能性を、もっとたくさんの人に知ってほしいし、希望を持ってほしい。大人が諦めたとか、もうお先真っ暗だなんていうのは逃げだと思っています。ここまでの状況まで地球を追いやっておいて、今更言い訳をして逃げるなんて、次の世代に対していくら何でもひどすぎる話です。地球を使い捨てにしてはいけません。そういう意味でも、森づくりというのは人間にとって、最良で最善、最短の地球貢献活動だと思います。それに、嘘がつけないじゃないですか。私はよく「足の言葉」「口の言葉」って言うんですけど。口から発する言葉はただですよ。誰でも言えるし、寝っころがっていたって言えるし、汗もかかない。でも足の言葉ってそうじゃないですよね。現場に行って、動いて初めて実績が発生する。その足の言葉が今、本気で求められています。足の言葉を積み上げていくことが未来を変えます。ですので、ぜひ実際に現場に来ていただき、目で見て、触れて、匂いを感じて実感してほしいと思っています。

 

Spring Step:自然界が行うとすると200〜300年かかるものが、1/10で済むというのがすごいと思うのですが、土作りには時間がかかるのですか?

 

川下さん:シルワの行なっている森づくりは、業界の中でも究極のこだわりを持っています。通常は土から多様性のボトムアップを行うということはやってないはずです。なぜかというと、とても時間がかかるから。土壌のダメージの受け具合にもよりますが、何度も手当する必要があるからです。土壌づくりは、短くても半年、長ければ2〜3年かかります。そうなりますと、通常の施工を請け負っている業者さんが受注することは難しいですよね。経過観察をしながら作業を続けないとなりませんので。ですので、シルワのやり方は一般受けしないです(笑)。シルワは営利目的ではないので、このような手法を採用することができています。一般的には、土をよそから持ってきて貼り付け、出来上がったひな壇式の園芸スペースに土地本来の苗木を植えていく方法がほとんどです。そのやり方は土を貼り付けるだけですから、だいたい1週間くらいあれば出来上がってしまいます。

 

 

Spring Step:微生物の調整をしてから木を植えるという手法を用いると、原生林に近い森の再生方法も変わってくるということですか?

 

川下さん:シルワの設立が2015年からですから、結果を解析発表するにはデータが足りない、という部分があります。ただ、現時点での結果を見ても、シルワのやり方はメンテナンス期間も短く済み、通常よりも生長が早いなというのは感じています。まだ断言できるような年数を重ねていないのですが。

 

Spring Step:土地の元々持っている菌や、足りない菌はどのように足すのですか?

 

川下さん:私たちが土壌を解析するときは、大型の土壌動物の生態系しか見ていません。一番最初に落ち葉や木の実、枝などの大きなものを噛み砕いていくのは、大型土壌動物なんですね。その大型土壌動物たちが出したフンを、ダニやノミが噛み砕いてフンを出し、その連鎖がどんどん細かくなって、バクテリアや菌等に繋がります。エネルギーのバケツリレーですね。そのような連鎖が豊かな土というものを育みます。土は別の見方をすると土壌動物のフンの塊です。ですから豊かな土を育んでいくためには、最初に落ち葉や木の実噛み砕いてくれる大型土壌動物の指数や出現傾向を解析するのが一番わかりやすくて早いわけです。そこが整っていれば、その下は必然的に発生していきますので、追いかける必要がなく効率的です。シルワでは人間の関わりを最小限にし、最短で土のポテンシャルを引き出すにはどうしたらいいかということに非常に気を使っています。過干渉しすぎると、それは人間主体の管理になります。そうならないための絶妙なバランスに気をつけています。最後は土壌の生態系にお任せしてる形ですね。

 

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自然界には、“ゴミ”という概念はない

 

川下さん:これはぜひお伝えしたいことなのですが、地球上、自然界には“ゴミ”という概念はないのです。これが、人界と自然界の決定的な差だと思っています。自然界にあるのは、物質とエネルギーの循環だけなんですね。その循環の中で、一番最初に生態系の原動力となるエネルギーを与えてくれているのが太陽です。太陽エネルギーは地球の数多の営みの根源であり、心臓部だと言えます。太陽エネルギーが地球に与えられることにより、それを吸収して光合成を果たした植物たちが土を作ったり、空気や水を浄化したり、空気中の湿度や川の水の推移をコントロールしたり、様々な恵みをもたらしていく。その恵みを動物たちが食べ、さらにその血肉を人間が食べて……。行われているのは、エネルギーと物質の循環だけなんです。そこにゴミはひとつもないんですね。日本の歴史でいうと江戸時代まで人間の歴史にゴミはなかったのです。そのような点に温故知新し、歴史を学び、現代社会を改革することができれば、森づくりと同時並行して人間存続の可能性を増していけるのではないかと思います。日本はゴミゼロを一度実現していますから、それを先駆けて世界に示すこともできるのではないでしょうか。

 

Spring Step:確かにその通りですね。

 

川下さん:日本は一国民が占有し、ひとつの文明を作り上げた非常に特異な位置付けの国です。さらに、国土の約70%を山岳が占有しています。21世紀にここまで山岳を保有しているのは奇跡的で、先進国では稀です。日本は暖温帯で、降水確率も安定していて、土質に恵まれている。つまり、森を再生できる可能性が大きいわけです。いろんな条件が整っていますから。忘れがちですが、やはり日本人は森の民なんだなと思います。逆にいうと、ここまで条件が揃っている日本で森の再生ができなければ、シルワの活動も諦めなければなりません。だからこそ、これからの人類のあり方を世界に示していかなければならないと感じてます。先駆けることやリーダーが偉いというわけではなく、限りなく再生の道に近いところに、私たちは立っているのですから。

 

PROFILE

川下都志子さん / 非営利型一般社団法人Silva(シルワ)創立者・代表理事、植生管理士、環境省認定 環境カウンセラー。

 

湘南国際村めぐりの森 混植・密植方式植樹推進グループ長。地球環境へ違和感を抱き、“土地本来の木を植える森林再生こそが人類が出来る最良の環境貢献である”として、生態系機能回復式植生復元による気候変動への緩和貢献に勤しんでいる。

 

Silva HP : https://www.silva.or.jp/

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